――― あはははは、


 あちこちで、刀剣男子たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。「平和だなぁ」なんてぼやきながら、つい数刻前に明石国行が注いでくれた焼酎を一口含む。常時の日課も短時間の遠征や内番程度にとどめ、きょうは主の誕生日だからと宴会を提案してくれたのは半日ほど前、粟田口たちや燭台切だった。最初は渋っていただったが、周囲の熱意に押され、ありがたくも誕生日をお祝いしてもらえることになったのだ。そうして男ばかりのどんちゃん騒ぎがひと段落ついたのが、日もすっかり落ちた20時すぎだったのだから、付喪神といはいえども男子のパワフルさに圧倒される。


「 ―――なんだ、あんたもひとりか 」
「 ―――日本号。こんばんは 」


 また一口焼酎を含みながらやんわりと微笑んで席を譲ると、彼・日本号はほんのすこし照れくさそうに「おう」と短く言葉をこぼして、どかっと半ば乱暴に腰掛けた。日本号は相変わらず一尺ビンを手に持っていて、いまも豪快に飲んでいる。さすがに宴会とだけあって、遠慮がない。


「 どうした。ガキどもといっしょのほうが楽しいんじゃねぇのか 」
「 そう思ったんですけどね。でもきょうは、ゆっくり飲みたい気分なんですよ 」
「 ・・・そうかい。じゃあ、俺が邪魔しちゃまずかったか 」
「 いいえ、お気づかいなく。酒飲みと飲んでみたいとも思っていましたし? 」
「 なんだそりゃ 」


 屈託なくケラケラと笑いながら、ぐいっとお酒を流し込む。「しかし意外だな。酒飲めたのか、あんた」「失礼な。たしなむ程度は飲めますよ。ほら、付き合いで飲まなきゃいけないときはどうするんです」「うん、そいつは言えてる」「それに」すう、と遠くを眺めるように瞳を眇めて見つめられると、一瞬、背筋がひやりとして、日本号は酒を飲む手がとまってしまった。


「 みなさんが寝静まったあとに、時々こうしてこっそり飲んでたんですよ。ご存じなかったですか 」
「 お、おお・・・・主・・・? 」
「 はい? 」
「 どうか、したか 」
「 いいえ、深い意味はありませ・・・ん 」
「 お、おい? 」


 最後の一口を飲み終えたところで、座っているにも関わらずふらふらし始めたに驚きながらも、しっかりとその細い身体を受け止める。「あれ・・・にほんごうの顔がふたつ・・・?」「明石のヤロウ・・・」早々に主君を休ませたかったのか、部屋に連れ込む算段だったのかは測りかねるが、いずれにしても彼のことだ、強めのお酒を飲ませたに違いない。彼には一週間禁酒令を出すとして、ふらふらになって脱力しきっている主をどうしたものかと後頭部をかきむしる。


「 部屋に、連れて行くしかないか 」


 まだ宴会で盛り上がっている最中、皆に見つからないようにの部屋まで連れて行くのは困難だろう。かといって、自分の部屋に連れて行くわけにもいかない。仮にもは年頃の娘。正直、寝起きが怖いというのもある。云々と思案を巡らせて一時間が経ち、周囲のほとぼりが覚めてきたころ。日本号はを抱きかかえたまま、ようやく重たい腰を上げた。


「 日本号。それ、どうした 」


 「いっ」の部屋の手前にきて、部屋に戻ろうとしていたのだろう、大倶利伽羅とすれ違った。彼ならば構わないだろうと正直に話すと、手伝おうかと珍しい申し出があったが、すぐそこだからとやんわりと断った。「そうか。あんたもたいへんだな」大倶利伽羅はふっと短く息を吐いて、ぽんぽんとの頭を撫でるだけですっと姿を消した。ただそれだけのことなのだが、どうしてだろう―――胸の奥あたりがじりじりと焼けるように熱い。


「 ・・・ん 」
「 ――― 」


 普段は決して口にしないその名を呼ぶと、すうっと心が軽くなったような気がした。先ほどの大倶利伽羅と同じように短く嘆息して、の部屋のふすまを開く。彼女の部屋はすでに寝支度が整えられていた。きっと歌仙だろう、彼もよく気が付く。日本号は腕の中ですやすやと寝息を立てている主君に目を落とすなり、やれやれと短く息を吐いた。「とんだお姫様だなァ」布団をかけてやりながら、ひっそりと口角を曲げる。きょうはなんだか、彼女の寝顔をみていたいような、そんな気持ちにさせられた。



この夜は君にあげる