パチパチ、パチパチ。木の葉を焼く音が聞こえる。
今年最後だろう台風がすぎ、秋らしさがいっそう深まってきたころ。人気も疎らになった本丸に、小夜左文字はひとり、縁側に腰掛けて柿などを食べながら暇を持て余していた。「主?何してるの?」早朝のことだった。敷地内の清掃は普段ならばほかの刀剣男子に任せているはずなのに、きょうに限っては珍しくこの本丸の主・が掃除をしていた。掃除、といっても玄関先の枯葉を集めていただけだけども。


「 あ、小夜ちゃん。おはようございます、早いんですね 」
「 別に、目が覚めただけ 」


 そうですか、とやんわり微笑むをみていると、無性に泣きたくなる衝動に駆られる。駆け出して、甘えたくなってしまう。以前そんな話を兄弟にしたら、自分は男児で主君を守る刀なのだから、しゃんとしなさいと江雪兄様に諭されたことを思い出して、甘えたくなる気持ちをぐっとこらえる。手身近にあった箒を手に取り、主の手伝いをする。「ありがとうございます、小夜ちゃん」「暇、してたし。それより珍しいね、あなたが掃除なんて」「あ、やっぱりそう思いますか」小夜の問いに、は年相応にも可愛らしく微笑んでみせる。柄にもなくかわいいな、なんて思ってしまった。


「 これはね、お昼からでも焼き芋をしようと思いまして 」
「 やき、いも? 」
「 最近は電気を使って焼くことが多いんですけど、小夜ちゃんはお芋はおすきですか 」
「 別に、ふつう 」
「 では、ご一緒に焼き芋パーティでもしましょうか 」
「 ふたりでパーティ……? 」
「 みなさんそれぞれお忙しいですし。きょうは特別にふたりで、ね? 」


 愛くるしい少女に小首を傾げてお願いされてしまっては、さすがに嫌だ、とは言い出せない。それに、自分が断っては彼女がひとりでさみしい思いをしてしまうことになる、とそんなふうに考えた小夜は、渋々ながらもゆっくりと頷いた。「ありがとうございます!小夜ちゃん!」元気のいい抱擁にバランスを崩しそうになりながらも”焼き芋”というものをはじめて目にする自分にとっては、とても楽しみになっていた。そうして、いまに至るわけなのだが――――「芋、掘ってきた」「はい、ありがとうございます」相変わらずニコニコと楽しそうなに収穫したばかりの芋を手渡す。彼女はそれをアルミホイルに包み、丁寧に火の中に入れていく。


「 あとは、焼けるのを待つだけですね 」
「 え、これだけ? 」
「 はい、これだけです。とっても簡単でしょう? 」
「 う、うん…… 」


 正直なところ、地味だと思ってしまった小夜だが、終始楽しそうにしているをみていると、そんなことはどうでもよくなってしまった。「小夜ちゃん、地味だって思ったでしょう」「え。うん」思っていたことをあてられてしまい。正直に頷く。「小夜ちゃんは、言葉が悪い分素直で良いですね。わたしはね、こういうことを誰かと分かち合えることが、とても嬉しいんですよ」はそういってお茶を含み、またゆるく笑みを浮かべた。「で、でも、あなたにも家族はいるんでしょう」それなら、やったことがあるだろうに、どうして、と言いたいのだろう。その問いに、は笑みを浮かべたまま答える。


「 やったことがあるっていっても、もうずいぶんと昔のことですし 」
「 昔って…… 」
「 だから、久しぶりにこういうことをやってみたくなったわけです 」


 ご理解いただけましたか?と首をかしげるに、わからない、と腕組みをする小夜。「小夜ちゃんのそういうところ、嫌いではありませんよ」ぽんぽん、と小夜の頭を撫でる。それは、兄様たちが自分にしてくれるそれと似ていて、胸の奥がじんわりと暖かくなった。「いけない、忘れるところでした」ぴょん、と縁側から飛び降りて”焼き芋”のほうへ足早に向かっていくを見守る。「小夜ちゃん!焼けました!食べましょ……あちちっ」「あーもう、あなたってひとは……」主君を気遣ってあげてください、という宋三兄様の言葉を思い出して、あわてて駆け寄る。「まったく、危なっかしいんだから。あなたに怪我をされて怒られる僕の身にもなってほしいね」「ご、ごめんなさい……さ、小夜ちゃん?!あの、なにを?」「何って、熱を下げてるんだけど……」ぺロ。小夜の小さい舌が、の手の甲をくすぐる。「こ、これくらい平気です!」「?顔真っ赤にしてどうしたの?」「も、もう〜自覚なしですか!もういいですそこの洗い場で冷やしてきますから、小夜ちゃんは芋を出して火を消しておいてください!」「わ、わかった……?」耳まで顔を真っ赤にして洗い場のほうに走り去るの背を見送りながら、芋を崩さないように取り出し消火する。


「 も、もう!ほんとに!ここのコたちは心臓に悪い……! 」


 ばしゃばしゃ。半ば手荒く手のひらを冷やし、程よく落ち着いたところで小夜が待っているだろう縁側に戻る。「…ね、きょうのこと兄様たちに話していい?」「っゴホゴホ、だ、だめです!」「えぇ−、楽しかったのに」残念そうにしながら焼き芋を頬張っている小夜の傍ら、ひとり焼き芋で咳き込むがいたとか、いなかったとか。


まぼろしよりはつよく
小夜ちゃんと焼き芋をするお話、のはずが?