わやわや、門扉が騒がしい。主さんが現世から戻ってくると、いつもこうだ。
おおむね薬研をはじめ短刀たちが質問攻めをしているところだろう。主さんも慣れない男性社会で大変そうだ、と人知れず苦笑する。一通り片付いた机まわりをいま一度見回し、よし・と意気込んだところで執務室の障子が開いた。


「 た、だいまー 」
「 お帰りなさい主さん!て、だいじょうぶですか 」
「 言葉の割に楽しそうなのはなぜですかね堀川くん 」
「 ははは。毎度毎度たいへんそうだなって。お茶菓子用意してきます 」
「 ありがとうー 」


 ヘロヘロになりながらも、まずは現世から仕入れてきたあれやこれを片付ける主さんを、いつもきれいにしていてえらいなあと感心しながら台所に向かう。
 「ん」「へ」障子を開けた途端、仏頂面をした伊達の大倶利伽羅と遭遇した。このひと何考えているかいまだにわからないところがあって苦手なんだよなあと少々困っていると、同じく料理当番だったらしい燭台切光忠がひょっこり顔を出して「きみもいつもえらいね。門扉が騒がしかったからそろそろだろうと思って用意しておいたよ」と言ってくれたので、目を瞬きながら大倶利伽羅をみやる。「貴様がやらないならおれがやる」「あ、ありがとう。燭台切くんも」「うん。主によろしく」嬉しそうな燭台切光忠の表情―――そうか、なんだかんだ皆、主さんの帰還が待ち遠しいのだなと思うと、これからの主さんとの時間が楽しみに思えた。


「 ふう、おいしい 」
「 そうですね 」
「 そうですねって、堀川くんが淹れてくれたんじゃないの? 」
「 残念ながら、今回は大倶利伽羅くんと燭台切くんにいいところをもっていかれました 」
「 ふふ、そうなんだ 」
「 あ。主さんによろしくって燭台切くんがいってました 」
「 うん、じゃあ夕飯のときにお礼言わなくちゃね 」


 「それは結構ですが主さん、手止まってますよー」「いいもん、優秀なお手伝いさんがある程度片付けてくれてるからすぐ終わるもん」「それは……返す言葉に困るやつですね……ていうかわかってて言ってるでしょう主さん」じっ、と彼女をみやると、ばれたか、とどこか嬉しそうな表情。


「 楽しそうですね 」
「 いや、昔を思い出しましてね 」
「 それほど昔ということでもないでしょうに 」
「 ここが出来たばかりのころです。歌仙さんと堀川くんくらいしかいなくて。
   人数は少なかったけれど、わたしも右も左もわからない状態で 」
「 ぼくも最初は、戦闘も知らない女子が刀を扱うなんてって、
   ちょっと馬鹿にしていたこともありましたっけ ――― 」


 「それが、ここまでまとめられるようになって」さめざめと話す堀川国広を、まるで娘を嫁に出す母親のようだとは笑った。「堀川くんにもたくさんお世話になったねぇ。いちばんお願いしやすいから、なんでも頼っちゃって申し訳ないくらいなんだけど」「いちばん頼りにしているのは薬研くんでしょ。うそはいけませんよ主さん」「…んー、はい、すみません」ちょっと困ったような、けれどもどこか照れくさそうなの笑顔に、すこしばかり複雑な心境に陥る。彼女が”彼”に対して、特別な感情を抱いていることに気付いたのは、ほんとうに最近のことだ。長年彼女のそばで仕えてきたからこそ、みていれば分かることだ。”彼”に対する物言いや表情、態度、仕草。そのどれもが違和感すら覚えるそれで、きっとほかの隊員は気づいてすらいないだろう。それがよいことなのか悪いことなのか、良し悪しの判断をよく教えてもらっていない自分には理解しかねるが、”彼”といっしょにいることで主さんが幸せならばそれがいちばんいい。このごろは不思議と、そう思えてならない堀川国広だった。


常世の尊い春のため
母性あふれる堀川くん