「 ○、いつまで寝てるんだよ、○っ。きょうは狩りの訓練に付き合ってくれる約束だっただろ 」 「 ん・・・・・?この聞き覚えのある声は・・・・? 」 「 まだ寝ぼけてるな。ミリ−ナ−○が起きてくれない! 」 「 またなの?ほんとう、○の寝起きの悪さは筋金入りね− 」 「 笑ってる場合か!外でナタリアとか、みんな待ってるのに 」 「 ○は寝起きが悪い分、起きてからの支度が早いからだいじょうぶよ! 」 「 なんだよそのよく理屈のわからない信憑性は!カ−リャも笑っている場合かっ 」 銀髪の青年の焦りを含んだ怒号が飛び交うなか、○・はようやく脳裏にかかっていたもやもやを振り払って、目を瞬く。「え、もしかして、イクス?」「もしかしなくてもそうだよ!○、寝ぼけているなら顔を洗ってついでに準備してきてよ!みんな待ってるんだから!」困ったひとだ、と言わんばかりに催促されてしまい、渋々まだ重たい身体を持ち上げて支度に取り掛かる。通りがけに家事当番のレイアやファラに挨拶をされ、「そろそろだとおもって、珈琲の用意しておいたから」あとできてね!と可愛らしい笑顔つきで言われてしまい、うっかり緩む表情を引っ込めて頷く。 「 ええと、これは、まさか、 」 冷たい水が目を覚まさせてくれるのと同時に、これまでの出来事が走馬灯のように脳内を駆け巡る。これまでおきたこと、学園都市ア−クに召喚されてから、いまにいたるまでの現状。自分はシャドウであり、現実世界に戻れないこと以外を踏まえれば、この現状は自分にとってなんら問題のないものだった。むしろ、うれしい、くらいで。「やった−!」「○!叫んでないで早く!」しびれを切らせたらしいイクスの叫び声が聞こえる。「あ、ああ、ごめんごめん!すぐ行くよ!」レイアたちとの談笑もそこそこに、ものの15分で支度を終えた○は、急いで待ち合わせ場所に向かう。 「 イクス、ナタリア、エレノア!お待たせ! 」 「 時間厳守! 」 「 うう、イクス厳しい・・・・・ 」 「 いくらナタリアとエレノアのひとがよくても、時間にル−ズなのは推奨しないぞ 」 「 はあい 」 「 ひとの話を素直に聞いてくれるのは、○の良いところではありますが 」 「 エレノア〜 」 「 それよりも時間が惜しいですわ。訓練もかねているのですから、はじめましょう、○ 」 「 ナタリアはナタリアだなぁ。そうだね!わたしも弓の腕あげたいし! 」 そもそも弓の腕を磨きたいといったのは○だろう、というイクスの嘆息を聞き流しながら、繁みの奥に光るモンスタ−をみつめる。「弓はそもそも接近戦には向きません。エレノアがひきつけてくださいますから、間合いに来たら―あっ」ヒュッ、という空気を切り裂く音がして、ナタリアは怒りの対象を振り返る。「○!」「え、だってゆっくりしてたら獲物逃げちゃう、」「これではパ−ティを組んでいる意味がございませんでしょう?!」どうして周囲を頼ってくれないのかと、ナタリアの怒号。 「 ご、ごめんなさい・・・・・ 」 「 ほら!○が後先考えず突っ走るから、奥からわらわら出てきたぞ。どう落とし前つけるんだ 」 「 ええと、イクスの秘奥義で、 」 「 オ−バ−レイはアニマを大量に消費する。何度も使えない 」 「 だから、一度でいいから。見せてほしいな〜って・・・・ダメ? 」 極めつけの、上目遣い。う、と項垂れるイクスに、ナタリアが盛大に咳払いをする。「のろけている場合ではありませんよ!あちら、奥の半分はエレノアが引き受けてくださるようです。わたくしたちは可能な限り彼女の負担にならないように、」「うん!イクス、前衛はよろしく!」「・・・・・まったく!」タン、と周囲に気づかれないように、けれど確実に標的との間合いをつめていくイクスを援護すべく、手ごろな木に登り索敵スキルで数を把握する。 「 ナタリア!後方に二匹!前方のほうが、数が多い!わたしはイクスを援護する! 」 「 了解しましたわ! 」 くるりと俊敏に方向転換をして、確実に目標を仕留めるナタリアに目を見張りながらも、前方で5匹ほど対応しているエレノアの負担にならないよう、残りの二匹を引き受ける。「これでも、くらえ!」○の奥義、連射攻撃。見事にヒットし、外した一本がイクスの足元に命中した。「うおっ!?このノ−コン、○だな!」「イクス、右!」「わかってる!」あとで覚えてろよ!という声が聞こえそうな形相に肩をすくめて、イクスの間合いに着地する。 「 緋閃鏡影刃! 」 切っ先が赤く光ったかと思えば、鋭い残光とともに、モンスタ−が消滅した。ぱちぱち、気持ちばかりの拍手を送る○に、ひと睨みするイクス。「○!」「ご、ごめんって!思わず連射技使っちゃったから!っと、エレノア−!だいじょうぶ?」「ええ、こちらはだいじょうぶです。すみません、数をお伝えするのが遅れてしまって」「平気!こんなにいるなんて思わなかったんでしょ?たくさん引き受けてくれたし!」「良かったのか?索敵スキルは体力消耗するんだろ」「これくらいの範囲なら平気だよ−。イクスってば相変わらず心配性!」「当たり前だろ?○はまだ戦闘には不慣れなんだから、」「うん!やっぱりイクスだね!ありがとう!」ガバッ、元気の良い抱擁に、体勢を崩すイクス。 「 っててて。けどな!今回なんとかなったのだって運が良かっただけだからな! 」 「 イクスは真面目だなぁ。わかってますよ−。エレノア、ナタリア、きょうはありがとう! 」 「 お力になれたならなによりですわ。お昼をすませたら、アジトで休みませんか? 」 「 あ、そうだね!わたしミリ−ナからお弁当預かってたんだ!食べよう! 」 「 え、いつの間に! 」 「 ちょこっとだけど、わたしも手伝ったんだよ。エレノアもどうぞ! 」 「 だから、いつの間に、 」 「 ありがとうございます。○はお料理上手ですから、きっとおいしいですね。イクスも、損をしないうちにいかがですか 」 「 あ、いただきま、って、エレノアさん?それどういう、 」 意味ですか、と叫びかけて、不意に○と目が合う。「いらないなら無理しなくていいよ?」「ちが!そういう意味じゃない!あ−もう、いただきます!」「人間、素直がいちばんですわね」「ほんとうに」「だ−か−ら−!」イクスの心、みな知らず。そんな。、ある穏やかな昼下がりのことでした。 今日のつづきで会いましょう |