※ ヒロインははがれんの世界からトリップしてきた少女という設定です。 もうすぐ日が落ちる。ガイやル−ク、ティアやイオンやアニス、ジェイドたちが野営の準備をしているなか、はその落陽を川辺でぼんやりと眺めながら「あのころは良く…みんなで夕日眺めてたなあ」とそれほど遠くない昔を思い返してみる。エドとアルが組み手をしているところを、飽きるほどみていたとウィンリィ ――――― そして、ちょうどこれくらいの時間になると決まってピナコの「あんたたち!もう日が暮れるんだからさっさと戻っておいで!」という怒鳴り声でしぶしぶ家に戻るのだ。振り返ったら、いまにも彼女の意気のいい声が聞こえそうで胸がじんわり熱くなる。 「 ――― 、なにヒマしてるんですか 」 「 … ジェイド 」 「 日暮れのまえに支度を終えないと、盗賊に……? 」 ジェイドが、どこか不思議そうに目を見開いていつものように眼鏡をくいっと押し上げる。それはこちらの世界に慣れてしまったいまとなっては見慣れたもので、はすこし困ったように首をかしげて「どうかした?」と尋ねる。「いえ、なんでもありません。が泣きそうな顔をしていたもので、驚いただけです」「ええ?してないよ−。どうしてそんなふうに思ったの?」「なんとなくですよ。そうですね、が落ち込んだり悲しんだりするようなタマではありませんでしたね」ジェイドはどこか勝ち誇ったように笑って、膨れるの隣に並んだ。 「 ホ−ムシック…ですか? 」 「 な!なにを言い出すのかと思えばこのひとは…!違います−! 」 「 そうですか、なら良かった。そんな弱い人間を置いておくわけにはいきませんので 」 「 む−、ジェイドわたしの実力知ってるくせに 」 「 さて、なんのことでしょう 」 「 …ジェイドは、気付いてるって顔だね 」 「 おや、まさかあなたのほうから話していただけるとは思いもしませんでした 」 「 またまた、ジェイドは隠すのがうまいんだから 」 「 どうやら、こちらのこともお気づきのようですね 」 「 うん、なんとなくだけどね。みんなわけありなんでしょ? 」 「 あなたが鈍い人間だったら、どれだけ良かったことか… 」 「 なに?ちがう世界の人間を殺したって、損にも得にもならないよ? 」 が振り返りもせずにそういうと、ジェイドは「確かに」とだけ言って鼻で笑った。「ジェイドも、わたしのことみんなに言うつもりはないんでしょ」「ええ、とは言いましてもみなさん感づいている方も多いとは思いますが」「む−ジェイドってほんとうひとが悪い」「なにか言いましたか?」「別にっなにも!」「言っておきますが、イオン様は間違いなく気づいておられますよ。あとはそうですね−」「ティアとかガイとか?」「ええそうです。ルークは絶対、気付いていないでしょう、あれは」「でもさ−逆を言ったらル−クが気付くんならだれでも気づくんじゃない?」「ごもっとも」あと分からないのは、アニスだ。彼女は子どもだが、妙に鋭いところがある。そんなふうに話したら、ジェイドは気付いていたら何かしら態度に現れるだろうと言っていた ―――― それもそうだ。 「 似てるね 」 「 なにがです? 」 「 この世界と、わたしの世界 … 性質はまったく違うけど、どの世界でも過ちはあるんだね 」 「 当り前です、人間は過ちを犯す … そして忘れる生き物です 」 「 でもさ、逆に見てみたいよね−過ちのない世界なんて 」 「 あるとしたら、相当つまらない世界だと思いますよ 」 「 ああうん、そんな気がする。なんか似合わないね−その台詞 」 「 … 言われる気がしてました 」 「 はは、なんかきょうのジェイド素直− 」 「 わたしはいつも素直ですよ?周りには少々分かりづらいだけで 」 「 うわあ自分で言ったよこのひと 」 「 …槍でぶっ刺されたいですか? 」 「 うわあごめんなさいごめんなさい!ジェイド容赦ないからほんとにやめて 」 「 残念ですねえ、と一度戦ってみたかったんですけどねぇ 」 「 オレが勝つけどなって顔してるよジェイド… 」 「 わたし、女性には優しいつもりですが 」 「ああそうですか」があきらめたようにそう言ってみればジェイドはふっと表情を緩めて、ポケットに押し込んでいた手を出した。「行きますよ、そろそろ怒られます」「え−ジェイド代わりに怒られて来て」「」「うそうそ!冗談だってば−、変な冗談ばっかり真に受けるんだから」「そういう性格なもので」「はいはいそうですか」「、相手にしてませんね…」「ああもうそんなことないって。態とらしくしない!」乱暴にそう言って立ち上がろうとすると、不意にジェイドが手を差し伸べてきた。「大丈夫です、きっともとの世界に戻れますよ」「へ…?あ…ありがとう…?」「素直でよろしい」ジェイドに励まされると、どうにも調子が乱される。どうやらそのあたりはほかの仲間たちも感じているようで、見ているほうは楽しいがいざ自分がその立場になるとやっぱり落ち着かない。 「 エド…アル…ウィンリィ… 」 「 お−い!なにぼけっとしてんだよ!おまえのメシやらね−ぞっ 」 「 わあル−ク、待って待って!行こうジェイド− 」 「 呼びに来たのはわたしなんですけど 」 「 まあまあ。ミイラ取りがミイラになってるんじゃ、いっしょでしょ 」 肩越しにジェイドのやれやれと言うため息を聞きながら、は河原から駆け出した。ジェイドの言葉を、反復するように。 ( 待っててね、みんな ―――――― いつか必ず、帰るから。 ) かなしくてきれい |