ケテルブルクの寒さは、ロニ−ル雪山の寒さに似ている とは思った。真っ赤なマフラ−を首に巻いて、かじかんだ手を温めながら、銀色の景色を眺める。 別段、雪を見るのは今回がはじめて・というわけではないのだけれど、こんなにもたくさん降り積もったところははじめて見たから、みんなが宿屋でくつろいでいる間に、こっそり抜け出した。 ティアやジェイドたちには説明してあるからあとで咎められることはないだろうけれど、心配させないうちに戻らなくちゃ・と思案をめぐらせる。


「こんなところにいたのかい、
「! ガイ」
「もうだいぶん更けたぞ、宿に戻らないかい?」
「も、少し、いる」
?」


まさかガイが来てくれるなんて思ってもみなかったから、思わず言葉に詰まってしまう。最近、ガイのまえだとこんな感じだ。なんとかしなくちゃ・って思うのに、うまくいかない。 レプリカって、無知なことが多いから不便なこと極まりない。ルークも、ティアにはじめて こんな感情 を抱いたときは、こんなふうだったんだろうか・なんて思いながら、マフラ−に埋もれる。 だって、そうでもしなきゃ真っ赤な顔をガイに見られてしまうから。そんなこと、恥ずかしすぎて耐えられない。ああもう、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。


「やっぱり寒いんじゃないのかい?そんなに埋もれて、」
「違う、の。わたし…いま変な顔、してるから」
「変な顔? そんなことないだろ?は綺麗な顔しているよ」
「ガイの ばか」


ガイに聞こえないようにこっそり呟いて、ゆっくりと顔をあげる。ガイの、そんなところが嫌いだ。なんでも、自分の思うままに言えてしまうところ。 それは、ほかのみんなに言わせれば良いこと・なのかもしれないけれど、わたしにとってはなんだか 嫌なこと だった。理由は、いまだに分からないけれど。 ううん、ほんとうは違うね。きっとわたしが 分かろうとしない だけなのかもしれないけれど、そこまで深刻なことじゃないだろうから・って受け流してきてた。それが、いけなかったのかな。


「そう言えば、には珍しいんだな、この景色」
「ん、うん…。ル−クと、いっしょ…だから」
「そっか…うん、そうだな。変なこと聞いてすまない」
「ううん。別にガイが謝ることじゃ、ないよ」


しんしんと降り積もる雪を眺めながら、淡々とそう答える。ガイが、しょんぼりと肩を落として元気のなさそうな顔をしている。どうして、ガイがそんな顔をするんだろう? ガイが悪いわけじゃ、ないのに。理由も何も、ル−クやガイたちといっしょに目の当たりにしているから、誰が・なんて言うつもりはない。 そもそも当事者でもないガイに「どうして」なんていうのは間違ってる・ってことくらい、分かる。なぜって、ル−クと少しまえにそんな話をしたから、なんだけれど。それは彼とだけの 秘密 なんだ。


「寒いな−」
「ガイ、は…」
「ん?」
「寒いの、きらい?」
「まあ、なんとも言えないなあ。でもはっきり言えば 嫌い かな」


「そっか」と言って、また降り始めた白い雪を仰ぐ。ガイが後ろめたい・みたいな顔をすることなんて、ないんだよ。だってわたしも、似たようなこと思ったことがあるから。はそう心の中で呟いて、かじかんだ手のひらをはぁ、と暖める。「、あの さ」しばらく温めていると、ポケットに手を突っ込んだままのガイが、ふとそんなふうに呼びかけた。「…なに?ガイ」は首をかしげてそう答え、ガイを振り返る。深まる闇のせいか、うまく表情をうかがうことが出来ない。悲しんでいるのか、泣いているのかもわからない。


は…俺のことが、嫌い…なのかな」
「へ?嫌い・って、どうしてそう思うの?」
「ごめん、やっぱり良い。変なこと聞いて、すまなかった」
「ガイ…?わたし、もう少しガイとおはなししてたいな。続き、聞かせて!」


何もためらわずに、そう言えた。たぶん、ガイも驚いていたんじゃないかな・って思う。なんとなく、だけれど。そうしたらガイが笑ったような気がして、少し心の中がくすぐったくなった。 ガイは「はさ、ル−クといっしょ・がいいんだろ?」と言って、とおんなじように銀色の世界を見渡す。「そんなこと、ないよ。ル−クとはたまたま いっしょ だったからいっしょが心地いいの」と言って、雪だるまを作るためにしゃがみこむ。 そうしたらガイも「そっか」とどこか嬉しそうに言って、と同じくらいにしゃがみこむ。「俺も、つくろうかな。雪だるま」独り言のようにも聞こえるその言葉は、だけれど自分に向けられているのだと、はっきりと分かった。


「うん。そこのおうちに並べてあげようよ、クリスマスプレゼント」
「そうだな。踏み潰されないように・な」
「うん!」


なんだか嬉しくなってえへへ、と笑みを浮かべる。なんだか良かった、ガイが元気になったみたいで。そんなふうに思っていると、ガイは「、ちょっと来てくれないかい」とを手招きした。は首をかしげたものの、招かれるままガイのそばに寄る。「手、貸してごらん」そう言って、ぎゅっとの手のひらをガイのそれで包み込む。…暖かい。ガイの手は涙が出そうなくらい、暖かかった。「?泣いてるのか?」ガイの心配そうな声が聞こえてはふるふる、と首を振った。次の瞬間、ぐいっと両手を引かれて、ふっとガイの呼吸が近くなった。状況が分からないは、ただただ目を丸くすることしか出来なかった。


「ガイ…?顔、真っ赤、」
「! すまない…!あんまり見ないでくれ、!」
「う、うん…?だ、大丈夫?」


大丈夫大丈夫・なんていうガイの声が聞こえるけれど、足取りはすごくふらふらしてるし、動作もなんだかぎこちない。だけれど、なぜだか ガイなら大丈夫 って思えた。 それはたぶん ―― ガイ、あなたのおかげなんだろうと思う。ル−ク、わたしね、分かったよ。ティアの気持ちが、少しだけ。思ったり、思われたり。そういうのって、なんだかすごく素敵だね。


瞬きをあげる