静雄さんからのメールはたいてい簡素だ。用件のみだったり、こちらから送った内容についての返事だけのときも多い。多い、と言っても、静雄さんとメールするのは稀なのでよくわからないというのが実情だったりする。 別にメールや電話で待ち合わせなくても、池袋の街中でばったり会うことがしょっちゅうなのだ。どんな縁かは知らないが、数日おきに、ときには毎日顔を合わせる週もある。これが偶然だと言うんだからすごい。 「あ、静雄さん。こんにちはー」 「よぉ」 休日の公園でベンチに座って携帯をかこかこといじってると、見慣れたバーテン服のおにーさんがやって来た。実に昨日ぶりの再会である。もちろん、待ち合わせなんてしてない。 「最近よく会いますねー」 「そうだな」 「静雄さん背高いし、人混みでも見つけやすいんですよね。…て、あれ?静雄さんお昼ごはんまだなんですか?」 大きな手に握られているコンビニの袋を指差すと、「あぁ」と静雄さんが頷いた。携帯をカバンにしまい、座ってるベンチの上を少し横に移動する。どーぞ、と空いたスペースに静雄さんを促せば、彼は素直にそこに腰掛けた。 「悪ィな」 「いえいえ」 短い言葉を交わし、静雄さんがコンビニの袋からパンを取り出した。ビニールの包装を破り、そのまま黙々と食べ始める。その様子をわたしは黙って眺めることにした。 静雄さんがうだうだとした会話を好まないことは知ってる。その内容が論理的で長ったらしくなるほど、彼の逆鱗に触れやすくなることも知ってる。が、余計なことは言わないほうが吉だと理解してる反面、わたしはといえば喋りたいことを遠慮なく口に出していた。 (だって静雄さんのブチギレ状態に直面したことないしなぁ) 他のひとにブチギレてるのなら何回も見たことあるが、わたしに対してはまだない。なので静雄さんとは気楽に話している。普段の静雄さんは穏やかな好青年にほかならないわけだし。それになにより。 (…可愛い。静雄さんってば相変わらず可愛い) 静雄さんは可愛い。大型犬のようでいつ会っても可愛い。可愛いなぁ頭撫でたいなぁという欲が耐えず溢れてくるのを必死に抑える。さすがにこの感情をだだもれにするのはまずい。…まずいのだが、表情が緩むのはどうしようもない。 頬を緩ませて静雄さんを眺めていると、一個目のパンを食べ終えた静雄さんが次のパンを袋から取り出す。一口が大きいこともあり、そのパンもすぐに静雄さんの口の中に消えていく。空になった包装ビニールはぐしゃりと握り潰され、コンビニ袋へと入れられた。 (それにしても、静雄さん身体大きいのにパン二個で足りるのか?) わたしより頭ひとつ以上身長が高いのに、それだけで足りるとは思えないんだが。そんなことを考えた矢先、はっとあることを思い出す。自分のカバンを探り、長方形の白い紙箱を取り出した。ふたを開けて収納されたものを手に取り、静雄さんに差し出す。 「静雄さん、よければどーぞ」 「…プリンか?」 「プリンです。ホテルのパティシエが作ったやつなんで美味しいですよー」 「いや、でもこれアンタが食うために買ったんだろ」 「五個も買っちゃったんでおすそ分けです。美味しいものは誰かと食べたほうが美味しいじゃないですか」 そう言って、彼の手に瓶に入ったプリンとスプーンを握らせる。わたしも自分の分を取り出し、もらっていいのかと手の中のプリンを見下ろす静雄さんに構わず食べ始める。甘すぎず、それでいて濃厚な味が舌の上でとろけるプリンは文句なしに美味しかった。並んで買った甲斐があったというものだ。「味は保障しますよ。ほんと美味しいですから!」と至福の表情で言えば、静雄さんもようやくプリンに手をつけてくれた。 「!…マジでうめぇなこれ」 どことなく嬉しそうに、静雄さんが声を零す。やっぱりプリン好きなんだなぁ静雄さん、とわたしは微笑ましく彼を見詰めた。その後もくもくとプリンを口に運ぶ姿は、好物に夢中なこどものようでそれはそれは可愛かった。もう一個プリンをあげてしまうくらい、ほんっとうに可愛かったのだ。 その夜。珍しく静雄さんからメールが届いた。内容は『今日のお礼になんか甘いモン用意しとくから』というもの。わたしとしては可愛い静雄さんの様子を見られただけで大満足なのだが、せっかくの好意なので遠慮なく受け取っておくことにした。返信メールを作成し、送信する。もちろんそこに『静雄さんの分も用意しておいてくださいね』と打ち込むのは忘れなかった。 |