お前はいつだってそうやって、祈っていたんだよな ――― 「――あれ、?まだ起きてたのか」 「イギリスさんこそ、どうなさったんですか?久しぶりの大きな戦で、寝付けないんですか?」 「バッ、…そんなんじゃねえよ。俺を誰だと思ってんだ」 「ふふ、イギリスさんらしいですね。でも…侮ってはいけません、驕りは時に命取りにもなるんですから」 「…分かってるさ」イギリスはしっかりと頷いて、の隣に並んだ。夜は深みを増していくばかりで、そのたびにの様子が気がかりで仕方ない。イギリスはとうとう我慢ならなくなって「…、どうした?」と声をかけてみた。触れてみれば分かることだってあるだろうけれども、生憎自分は、容易く異性に触れられるような根性は持ち合わせていない(たとえばそう、スペインとかのような)。だから少しでも近く―――触れられそうなほど近くに、近くに、寄ってみた。そうしたら、お風呂上がりのの、優しい香りがふわりと風に香って、イギリスは一瞬鼓動が高鳴ったのを感じた。あれはたぶん、感違いなんかじゃあないと思う。 「―――わたし、怖いんです。イギリスさん」 「怖い?」 「戦いに出ると聞くたびに…もう二度と、会えなくなってしまうんじゃないかって」 「…馬鹿だなあ、お前」 「ば!馬鹿ってなんですかっ!わたしはこれでも、わたしなりに心配して―――?」 流石のも今しがた起きた出来事に驚きを隠せないのだろう、目を見開いているのが暗闇からでも感じられる。それがなんだかおかしくて笑ってしまいそうになるのを我慢しながら、イギリスはぽんぽん、との頭を撫でた。これまで自分は、どんな女性にも触れることはなかった。だから、異性に触れるのはこれがはじめてだ。ましてや、女性を抱きしめるなんて人生においてはじめてのことかもしれない。そのいろいろな「はじめて」が、で良かったと、心底思った。 「イギリスさ、」 「不安がることなんか、ない」 「…で、でもっ」 「がいつも祈ってくれてるって知ってるからな、早々簡単に死んだり出来るわけないだろ?」 「…自意識過剰にもほどがありますよイギリスさん」 「…オイ、それがさっきまで心配してたやつの言う台詞かあ?」 「ご…ごめんなさい」ほんの少し、動揺したようなの声―――その声が、どうしてだろう。たまらなく愛しいと思った。このまま、のすべてを自分のものにしたい、このまま腕の中に閉じ込めてしまいたいとさえ願った。だけど―――それは許さないと、許されないと、知っている。気付いている。だからひとは、愛しいものを手放すのだということを、知っている。 「?」 「温かい…やっぱり、イギリスさんは…」 「優しい、か?飽きないよなあ、その台詞も」 「だって、ほんとうのことですし。ねえ、イギリスさん?」 「ん、今度はなんだ?」 「捕まってしまいましたねえ、ついに」 「…はぁ?なんだそれは」 「いいえ、やっぱりまだ言わないでおきます。知りたかったら、無事に戻って来てください」 「気になるなあ…たく、仕方ない…」すっと手を離し、ぽりぽりと後頭部を掻き毟る。ほんとうは照れくさくて、うまく言葉が出てこないだけなんだけれど、たぶんそれもには見抜かれているだろうから、深追いはしないって決めている。深追いして、恥ずかしい思いをするのはごめんだ。のまえなら、なおさらごめんだ。「でももう…それも、必要なさそうですね」ぽつんと、夜空を仰いでいたが、ほんのちょっと寂しそうにそう言ったのを、イギリスは聞き逃さなかった。 「どうした?」 「え?イギリスさんはいつだって、わたしの願いをかなえてくださいました…ですから、もう心配ないと言うことです」 「?良く分からないが…が元気になったなら、良かった。そろそろ休むぞ、あしたは早いんだ」 「はい、分かっていますよ」 ふわりと、がほほ笑む。ああ―――どうして、この笑顔はこんなに心を寂しくさせるのだろう。それはすなわち、いかにのことを大切に、愛おしく思っているかということの表れでもある。改めてそう実感すると、なんだか余計に恥ずかしくなって、鼓動が早まるのを抑えられなくなる。とはもう、ずいぶんと長い付き合いになるというのに、この気持ちは変わらないままなのだから不思議だ。そうして思案を繰り広げるうち、夜はなおも深みを増していく。そしてきょうも、の願いを乗せた星星が絶え間なく瞬いている。そのうちのひとつを、俺はきょう捕まえられたのかもしれない。 流れ星を掴まえた |