The flower which blooms in spring
The sky to color in the summer
It is carved in a heart and glitters
The light that a chest is full of on a day to shut rain, a window falling in morning on a cloud
I am pleased and grieve and hold it entirely and walk.


――― また、だ。


 早朝。ようやく淡い色をみせはじめた窓辺をみやり、大きな欠伸をひとつ。視線を落とすと、自分の「監視役」というハワ−ド・リンク監査官が眉間にしわを寄せて眠っている。アレンは大きくため息を吐いて、後頭部をかきむしる。これまでひとりで使っていた部屋に、突然やってきた赤の他人がいるなんて、やはり気持ちの良いものではない。黒い団服に着替え、目を覚ますために顔を洗う。そして、歌声の持ち主のもとへ向かうために、屋上に足を進める。


―― きれいな歌声だな。


 初めて会ったときのように邪魔をしてしまうことのないよう、柱の陰に背を預けて心地よいソプラノに耳を傾ける。彼女の歌声は、これまでの疲れや物思いをすべて洗い流してしまうような、そんな不思議な力がある。アレンは彼女、の歌声をそんなふうに評価していた。いつまで続くかわからない戦乱のさなか、きっと彼女の歌声に救われている団員も少なくないはずだ。


―― AKUMAの魂、さえも、


 浄化されそうだよな、と自嘲するように微笑んだところで不意に視界が暗くなる。「アレンくん、おはよう」「あっ!お、おはようございます!やっぱり気づいていたんですね、さすがです、」ぱちぱち、と気持ちばかりの拍手を送る。「なんだろうね。気配に敏感なのって、損なのか得なのかよくわからないよ」「出来ないよりは出来たほうが、ぜったいいいと思いますけど」「無理やり前向き」「はは」ぽんぽん、とに頭を撫でられながら、その心地よさにうっかり涙が出そうになる。


「 アレンくんも、いろいろたいへんだねぇ 」


 きょうもいい天気だねぇ、とでもいうように、あさっての方向を向きながらが会話を投げかける。アレンはとともに朝食にありつこうと螺旋階段を下りながら、彼女の横顔を見やる。いつもと変わらず穏やかに笑みを浮かべているのに、どことなく疲れている様子もうかがえる。


「 いくら考えても解決しないことは、深く考えないようにしてるんです、僕 」
「 うん、いい心構え。わたしもね、なるべく考えすぎないようにしてるんだけど。
  ベッドにもぐった時に思い出しちゃったり・・・あっ移動中とか。長かったりすると、無駄に考えちゃうよね 」
「 ああ、それは僕もわかります ―― って、あ、 」
「 え? ――― ああ、監査官。おはようございます 」
「 おはようございます。お久しぶりですね、 」
「 相変わらずですね、監査官。アレンくんは<わたしのかわいい後輩>なんですから、お手柔らかに頼みますよ 」
「 ―― 善処します。ところで、きみはどうしてそんなに不思議そうな顔をしているんですか。アレン・ウォ−カ− 」


 相変わらず数冊の書物を抱えたままのリンク監査官を振り返り、驚いて目を見開くアレン。「それ、どういう意味です」「いや、質問を質問で返されても」「おふたりとも?朝食がまだなら混雑する前にすませませんか」「それは同感ですが、何か釈然としませんね」首をかしげているリンクをよそに、はアレンの手を取り歩き出す。「!?」先ほどまで驚いて目を見開いていたかと思えば、さも当然とばかりにつながれた手に、今度は耳まで顔を真っ赤に染めるアレン。「あっ、ごめん嫌だった?」「い、いえ、あまりにナチュラルに手を握られたので・・・・驚いた、だけです、」「そっか」良かった、と安堵の笑みを浮かべるをみていると、また体中が熱くなる。


「 アレン・ウォ−カ−?きみ、もしかして 」
「 ・・・・・はい? 」
「 ・・・・・いえ、無自覚ならばそれも結構。<余計な感情>は、いまはすこしでも少ないほうがいいですからね 」


 「???」リンクの不可解な言葉に首をかしげつつ、いまだどくどくと脈打つ鼓動に違和感を覚えながらも、どこか心地よいとさえ感じている自分に、わけがわからない、と「ゴ−スト」をみやる。彼は相も変わらず、一定のリズムで身体を動かしながら、不敵に笑みを浮かべているだけだった。