「 はじめまして。きょうからきみを“監視”することになりました。ハワード・リンク監査官であります。 こちらはお近づきのしるしにわたしが焼いたパンプキンパイです。良かったらどうぞ 」 「 ――― 喜んでいただきます!! 」 「 恐縮です 」 「 待てアレン、食う前にツッコめ!! 」 あるうららかな昼下がりに“それ”は突然やってきた。<今監視って言ったぞこいつ!>ラビの冷静なツッコミをよそに、遠慮なくデザートを受け取るアレン。「監査官」見覚えのある金髪と名前に、は飲みかけていた珈琲を静かに置いた。「?」一瞬冷たくなった空気を見逃さなかったのだろう、リナリ−が不思議そうにの顔を覗き込む。リナリ−と同じように、ふたりの変化にも目ざとく気づいたらしいラビにも、気づかないではない。ラビに対しだいじょうぶだよ、と笑みを浮かべて、リナリ−を振り返る。 「 リナリ−、これ終わったら手伝ってほしいことがあるんだけど 」 「 ? それは構わないけど・・・・なに?手伝ってほしいことって 」 「 書庫の掃除。そういえば途中で任務に呼ばれて、そのままなんだよね 」 「 もう仕事?もうすこしゆっくりしたらいいのに 」 「 いいから、いいから。会いたくないひともいるしっ!・・・・ダメ? 」 「(の上目使いっ)だ、ダメじゃないけど、珍しいなって、」「それが終わったら、珈琲いれるの手伝うよ」「わあ、ホント?ありがとう」「あとは任せたよ、ラビ」「あいあいさ−」相変わらず素晴らしい洞察力の持ち主だと眉間のしわをもみながら嘆息する。にぎやかな食卓を横目に、一瞬、監査官と目があったような気がしたは、人知れずあっかんべ、をよこした。 「?どうかしましたか」「アレン、くん。ううん、なんでもないっ。そうだ。気分転換したくなったらいつでもここにきてね」「教会?」「わたし時々ミサに呼ばれてるんだ」「歌上手ですもんね。ありがとうございます。任務帰りにでも寄る機会があるかなぁ」「そうだね、任務もあるし。時々ならここでも練習してるから、」すっと席を立ち、トン、と軽くアレンの背中をたたく。「いつでも聞きに来てね」「ありがとう、ございます、」心なしかの笑顔がさみしそうにみえたアレンは、無意識のうちに言葉が途切れていることに、遅れて気が付いた。 「 あ−あ、にはかなわねえなあ 」 「 ラビ。ごはんすんだんですか。それ、どういう意味です? 」 「 そのままだよ。まっ、教団生活が長いと、いろいろと目も行き届くもんかね 」 「 ラビ 」 「 あん?どした、アレン、変な顔して 」 「 質問の答え、もらってないです 」 ガシ、と珍しく力強く首根っこをつかまれてしまい、ギブギブ、と地団太を踏むラビに、アレンははっとして「すみません、」と手を放す。「いまの言葉、そっくりそのまま返すぜ、アレン」「は?」「お前もじきにわかるさ。自分でも答えようのない質問されても困るだろうが」「・・・それは、」「ジョーダン、ジョーダン。意地悪するつもりはなかったんさ。あのハワード・リンクって監査官」「はい」「ありゃ中央庁の犬、俺たちを見張る番犬さね」「犬なの?」そばで食事をしていたミランダが不思議そうに首をかしげて尋ねる。 「 そうか、ミランダも連中に会うのははじめてなんだな− 」 「 だから、なにが言いたいんですか。僕が監視されることと、なんの関係が、 」 「 そりゃ俺らの口からははっきりしたことはいえねぇが・・・・ ほれ、もリナリ−も“ここでの生活”が長いだろ。そうすると、いろいろと教団の影の部分がみえたりみえなかったりするわけだ 」 「 教団の、影の部分・・・・・ 」 「 たとえば ――― エクソシストをつくる実験、とかな 」 ざわ、と周囲の空気が一瞬ざわついた。「ラビ。しゃべりはそのへんにしておけ」「じじい」「小僧も時期にわかるだろう。自分がいま置かれている状況とやらが」「ブックマン」「知るにはそれなりの覚悟と対価が必要、ってね」先ほどがしてくれたように、ラビにも頭を軽くたたかれ、わけのわからないアレンはただただ彼らの背中を見送ることくらいしか出来なかった。 「 食事を終えたのなら、我々も行きますよ。アレン・ウォーカー 」 また、あの質問事項とやらがたくさん詰め込まれた紙の束を持たされる。書庫室へ向かいながら思い起こされるのは、白く幼い記憶。捨て子とピエロの背中が、白い雪の中に消えていく風景だけだった。 |