「オレの能力知ってるって?オレと天使ちゃん、初対面だよなぁ?ああ、ほかのエクソシストに聞いたのか」そのとおりだ。はつぶやくような小さな声で「発動」と唱え、デイシャの持っていたの羽根が消えたことを確かめると、軽く地面を蹴りすこしばかり飛翔した。 「 イノセンス第二段階 ――――――― 」 「 おっとおそうはさせねーよ?コイツの身体にどんな細工をしたかシラネーが、ノアの力をなめてもらっちゃ困る 」 「 開放 」 「 やっぱ待っちゃくれね−か。そうこなくっちゃ。 まさかこんなところでエクソシストに会えるとは思ってもみなかったけどなっ♪ 」 ズブ。嫌な音。身体の中を手探りされているような感覚 ――――――― 気持ち悪い。「一回目」「?」「何回まで”持つ”のかな?天使サマの結界は。天使ちゃんがつらそうなカオしてるってことは、このエクソシストに張った結界と天使ちゃんは共鳴してるってことかな?」癪なほどカンの良いノアだ。これはすこしばかり、感情を表に出さない訓練もしなくてはならないかもしれない。 「 なに、天使ちゃんが落ち込む必要はない。実際天使ちゃんは仲間のためによくやってると思うよ 」 「 敵にほめられたって嬉しくない 」 「 またまた。素直に喜べば良いのに 」 「 もう良い。結界を解け 」 密かなデイシャの声。ふるふると首を振るの表情は、いまにも泣き出してしまいそうで。それは嫌でも分かった。誰がみても明らかだった。それでもは強がる。意地を張ってでも、守りたいモノ。譲れないモノ。手放したくないモノ。「これくらい平気。気持ち悪いカンジするけどそれだけだから」「もう良いつってんだよ。オレのためにが苦しむなんて、オレには死ぬことよりずっと」「同じだよ。わたしも、元帥を探す仲間たちはみんな同じ気持ちだよ。デイシャ」「」「大丈夫。もうすぐ神田たちが来てくれる。それまで、がんばろう」ノアが確実に間合いを詰める。 「 させない。この戦線から退きなさい、ノア 」 「 泣きそうなカオして果敢なこと言われてもネェ…なんかオレがいじめてるみたいじゃん。 ま、その勇気をたたえて、コイツのイノセンスだけもらっていくことにするよ。いまは、な。バイバイ、名も知らないエクソシスト君」 苦しい。苦しい。苦しい。息が出来ない。身動きがとれない。言葉が出ない。ただみていることしか出来ない。デイシャの心臓が抜き取られていく様子を、ノアが背を向けて去っていく様子を、ただみていることしか出来ない。無力だ。無力だ。自分はまた、肝心なときに、無力だ。 「あああああああああああああっ!」悲鳴の刹那。意識が途絶えた。それからの記憶は、ほとんどない。 「 、起きないな 」 「 ああ…深い夢でもみているんだろう。そのままのほうが、どれほど楽だろうな 」 「 目覚めるなって? 」 「 目覚めたって、不幸な知らせばかりだ。コイツにとってはな 」 「 それが戦争というものだ。それくらい、知らないじゃないさ 」 「 チッ…分かってる、言われるまでもねェ 」 「 最初にそれをモヤシに教えたのはオレだってか 」 「 …そういえばそうだったな。まったく、ス−マン・ダ−クのこともクロス部隊のことも、笑えねェことばっかりだ 」 「 すべての引き金は咎落ちになった彼自身なのだから、仕方ないだろう 」 「 仲間がふたりになっちまった、俺たちの部隊も笑えねェ 」 「 神田…おっひとつ良いことがあったぞ 」 マリの指さす先に、今回の任務対象をみつけた神田は、小さく舌打ちをした。「アァ?うげ」「元帥」「あれ。久しぶりり−ん!」「お久しぶりですティエド−ル元帥」「うん。任務のことは聞いてるよ。ご苦労だったね」ポンポン、といまだ眠りから目覚めない愛弟子の頭をたたいて、すこし乱れたブロンドの髪を解かした。 これまでの経緯と、デイシャの殉職を知らせた神田は、大きく深呼吸した。同じように成り行きを見守るマリの大きな背では、なにも知らないが寝息をたてている。 「 私は帰らん。いまは戦争中なんだ。元帥の任務を全うする。それに、あたらしいエクソシストを捜さないと 」 神が自分たちを見捨てていなければまたあたらしい使途を送り込んでくれるはずだと。ティエド−ル元帥の言葉を聞いた神田とマリは、師らしいと笑った。「お供します、ティエド−ル元帥」弟子たちの言葉を受けたティエド−ルは、瞳に涙を浮かべたまま彼らを振り返った。 「 それにしても起きないねぇ、ちゃん 」 「 密漁区での戦闘から、もう一週間になります 」 「 あのときちゃんから受け取ったイノセンスの一部が消滅したって言ってたね 」 「 あ、はい。に聞いたことがあるんです。 普段はただの羽根だけど本人が意図的に発動すれば盾にも治癒能力にもなってくれるって 」 「 うん。その羽根が消えたってことは、相当精神を消耗したってことだよね 」 「 そうか。の結界は適合者の精神力がいかに強いかにかかっている 」 「 そのとおり。だから、しばらく休ませてあげようね−ユウ君v 」 努めて陽気にそう話す恩師をみて、神田は人知れず舌打ちをした。イライラする。あのモヤシといいといい、どうして寄生型の連中は己を犠牲にしてまで戦おうとするのだろう。仲間をなんだと思っているのだろう。いまならすこしだけ、リナリ−・リ−の気持ちが分かるような気がした。 「そういえば…あいつらはいま中国だったな」「ああ。俺たちの方が早くたどり着けたな、予想通り」「ま、あいつらは相手が悪すぎるだろ…嘆くなら己の不運を嘆くんだな」「ユウ君冷た−い。それじゃあ流石にかわいそうだよ−」筆を休めることなく陽気な声で神田をからかうティエド−ルは、やはり流石だとひとり納得せざるを得ないマリであった。 【 20101025 * 加筆修正 】 |