「ん?あれは…?」がアレンたちのいる巻き戻しの街に向かう途中。遙か前方に、無数のAKUMAの群を視認した。「AKUMAの群れ…!あそこにはアレン君たちが!待ちなさいっ!」いくらでも、上空での戦闘は不可能だ。だけどもすこしでもAKUMAたちの注意をそらせることが出来れば。それだけで良い。は翼を一度飛翔させ、AKUMAの破壊を試みた ―――――――― だが。


< あれっあんなところにもエクソシストがいんじゃん!どうする? >
< 俺たちへの命令は白いエクソシストと女のエクソシストの襲撃だろ?あいつ黄色いじゃん >
< でもエクソシストには違いないだろぉ?俺は行くぜ >
< おい!獲物横取りすんなっ最初に見つけたのはオレだっ >


 「来た来た」数としては少ないほうだったが、それでも3分の1程度は引き寄せることが出来た。「イノセンス第一段階 ―――――― 開放!」天地を光の柱でつなぐ攻撃技、天使光臨。加えての個々の羽根をもってすれば、十分迎撃は可能だ。そしていまごろは、きっと。


「 ――――――― お久しぶりです、伯爵 」
「 オヤvもう見つかってしまいましたカv 」
「 どういうつもりです。わたしたちの邪魔をしないでもらいたいですね 」
「 邪魔をしているのはおまえたちでショウvエクソシストv 」
「 そうかもしれません。でも、それも当然のことです。わたしたちはただ、平穏を生きたいだけ 」
「 平穏ねェ・・・vあなたがこちら側に来てくれれバ、それも容易になるかもしれませんヨ? 」
「 残念ですが、お断りします。
  うまくいくことも然り。その逆もまた然り。そんなふうに、世界はうまく均衡を保たれているんですよ 」
「 存じていますヨv仕方ありまセン…あなたの警告は、しっかりと覚えておきまショウv 」
「 …ありがとうございます 」


 傘のレロ、と言っていただろうか。伯爵はいつものように不気味な笑いを残してビル群の屋上から姿を消した。「おっ!久しぶりさ!」「ラビ!アレン君!大丈夫だった?」「おお!雑魚ばっかだったかんな。アレンは腰抜かしてるみたいだけど?」「ちっ違います!すこし休んでただけですっ」あわてて起きあがろうとするアレンの前にまた、あのときとおなじように純白の羽根が舞い降りる。


「 おかえりなさい、 」
「 たっただいまアレン君!それよりけがみせて? 」
「 えっ大丈夫ですよこれくらい! 」
「 コムイさんの修理、すこしでも痛みが和らぐように。ラビもほらっ 」
「 へいへい。てかオレの方こそ大したことねェんだけどな 」
「 ダメダメ!小さな油断が命取りなんだから! 」


 顔を真っ赤にして怒りを露わにするを横目に、瞳を眇めてほほえむアレン。「暖かい…」「アレン君…?」気のせいに違いないのに、どうしてだろう。泣いているように見えた。アレンと同じようにの治療を受けていたラビもまた、複雑な面もちでふたりの様子をうかがっていた。


「 今回の任務は、元帥の護衛だよ 」
「 じゃあ 」
「 そのとおり。きみは神田君たちといっしょに、ティエド−ル部隊に加わってくれ 」
「 あれ 」
「 ん、どうしたんだい? 」
「 だったら別に、無線で用件を伝えれば良かったのでは 」
「 そうなんだけどね。行く前にお見舞いしたいかな−って思って!
  なにせ長期任務でしょ?リナリとも次にあえるのはいつか分からないわけだし 」
「 コムイさん… 」
「 ん?まだなにかあるのかい? 」
「 ――――――― ありがとう、ございます。また、お会いしましょう 」
「 うん♪イノセンスを届けたら、神田君たちと合流してね♪ 」
「 ――――――― はい、分かりました 」


 「兄さん…ありがとう。もわざわざ、ありがとね」「リナリ…ッ無事で、良かった。また会おうね、ぜったい」「もちろんよ。ねっみんな!」とリナリ−の厚い抱擁の最中、満面の笑みでを見送る仲間たちを振り返るリナリ−。
 「当たり前さ!ぜったいまた会えっから!んな顔すんな?らしくないさ」「ラビ」「しばらく会えないのは寂しいですけど…また会いましょう、!」「みんな…ありがとう。じゃあ、行ってきます」「行ってらっしゃい!」ブックマンやコムイ、仲間たちの声に後押しされて、はイノセンスを発動する。寒空に、無数の羽根が舞い降りた。


「 ただいま−っと! 」
「 おかえり!連絡は受けてるぜ!このあとすぐ任務なんだろ? 」
「 うん!とりあえずヘブラスカのところに行ってくるね 」
「 ああ。ついでにあいさつしてくると良い 」
「 あいさつ?ああ、新人の子! 」
「 そうそう。時間大丈夫なら、案内してやってくれ。聞いてのとおり、みんな出払っちまってな 」
「 分かった!案内はするから、あとのことはお願いね 」


 「もちろん」科学班班長、リ−バ−・ウェンハムとのあいさつもそこそこに、は足早にヘブラスカのもとへ向かった。おそらくは検査中の新人エクソシスト、ミランダ・ロットーという名前の女性との出会いに心を躍らせながら。
 「おかえり」「ただいま!ヘブラスカ!」「話は、聞いている。イノセンス、を」言われるまま、イノセンスをヘブラスカに差し出す。「はじめまして!わたしここでエクソシストやらせてもらってます!です」「わ、わたしはミランダ・ロット−」「報告は受けてるよ!アレン君とリナリの任務先で出会ったエクソシストさんでしょ?」ヘブラスカに手を振って、トコトコと教団内部を案内する。


「 エクソシスト… 」
「 うん。伯爵を阻止する聖職者、イノセンスの適合者のことをこう呼ぶの。あっここが食堂だよ。あっちが談話室 」
「 聖職者…イノセンス… 」
「 いまは長期任務でみんな出払っちゃってるけど、そのうちアレン君たちとも会えると思うよ! 」
「 どう、して? 」
「 わたしの予想だけどね。ミランダさんはアレン君に保護された。
  だから師匠はクロス元帥になると思うの。だからね、そのうちきっと会えると思うよ 」
「 ちゃん…? 」
「 城内の案内はだいたいこんな感じかな。
  もうすこししたらコムイさんも戻ってくるだろうから、このあとのことは科学班のひとたちに聞いてね 」
「 ちゃん、は? 」


 タン。地面を踏みしめて、はミランダを振り返る。「わたしはこれから、別の部隊で元帥の護衛任務。残念ながら、わたしの先生はクロス元帥じゃなからね」「ま、またっ」「ん?」「また、会いましょうっ」「ミランダさん…うん、ありがとう。きっとね」寂しそうに笑うをみていられなくなった、なんていったら、に笑われてしまうだろうか。は気づいていないかもしれないけれども、いまにも泣き出してしまいそうなほど表情は歪んでいた。きっと、寂しくて寂しくて仕方ないのだろう。それでも、教団にたったひとり残された自分を不安にさせないように、一生懸命笑みを見せてくれている。強くなろう、と思った。力なく背を向けて寂しさと戦っている、ブロンドの髪の少女を安心させられるように。ミランダはそう、強く胸に誓った。


【 20101020 * 加筆修正 】