「 おはようございます 」 「 おはようアレン君。よく眠れた? 」 「 はい。は?きょうは早起きなんですね 」 「 それじゃあわたしが毎日寝坊してるみたいだよ− 」 「 ハッ違うのかよ 」 「 わっ吃驚した!神田、おかえりなさいっ 」 「 ―――――― オウ 」 「 あれっ神田ってば照れてます? 」 「 うるせェモヤシ。てめ−は相変わらずモヤシのまんまだな 」 「 モヤッ…だからアレンですって 」 「 アレン!任務だぞ!速くメシ食って司令室!も出発の準備ができてるぞ 」 「 ふふっ。ふたりは相変わらず喧嘩ばっかりだねぇ。あっは−い! 」 あわてて珈琲を飲み干すをぼんやり見つめていたアレンは「も任務なんですね」といって速くも最後の食事を平らげた。「そうなの。イノセンス回収の単独任務だって。ラビはブックマンのところにいて忙しいし神田はいま戻ったみたいだし。アレン君はリナリと別件だし」「す、すみません…」「も−また謝ってる!アレン君のせいじゃないよ。それにアレン君はまだ任務慣れしてないだろうし!リナリとの任務、がんばってね」「はい!ありがとうございます。も行ってらっしゃい」「! いっ行ってきますっ」「浮かれてヘマするんじゃね−ぞどちび」「だっだからちびじゃないしそもそも浮かれてなんかないってばっバカンダ!じゃあねっ」「コケんなよ」神田と言い合うアレンの声を背に、は探索部隊の男性と船に乗り込んだ。 「 雨が降り続いている町? 」 「 一ヶ月そこらだと思っているだろう?ところが違うんだ。かれこれ半年以上になる 」 「 ――――― 半年、 」 「 しかも、その都市部にだけだよ。おかしいだろう? 」 「 それは・・・まあ確かにそうですけど、ただの異常気象という可能性は 」 「 そういう見方もできるけど、町民からの強い要望でね。 これだけ雨が降り続いていると、別の問題もいろいろとでてくる 」 「 災害、ですか 」 「 そのとおり。その町は元来地盤が弱くてね。これだけの雨量だ、そろそろかもしれない 」 「 あの、わたしはエクソシストであってレスキュ−ではないんですが 」 「 やだなあvAKUMAを破壊、救済するのも立派なレスキュ−だよv 」 「 AKUMAの…ひいては人間のレスキューだとでもおっしゃりたいんですか、コムイさんは 」 「 さすが天使さま!物わかり速くて助かるよ♪ 避難しようにも奇怪が解けない限り隣の町に避難することもままならない。これは探索部隊のひとが町に入れないことからも想定済みだ 」 「つまり、奇怪を解いてイノセンスを回収、はずれであったとしても町民の避難を手伝えと」「そのとおり♪じゃっ詳しい資料はここに書いてあるから♪気をつけて行ってらっしゃ−い♪」揺れ動く汽車の中。停車の衝撃で目を覚ましたは、夢見の途中にみたコムイ室長の満面の笑みを思い出して、盛大にため息をはいた。 汽車の外は嵐。核心に近づくにつれて次第に強さを増しているように感じさせるそれは、暗がりに乗じてなおいっそうその威力を醸し出しているかのようだった。「てゆかわたしの羽根使った方が早いのに」「この嵐ですからね。風雨にさらされるよりは利口かと」「そだね。濡れるのも勘弁だし、この風雨じゃ思うように進めないよね」「こちらです」探索部隊の男性に案内されて、町へ続く細い路地を歩いていく。 「 すごい土のにおい 」 「 以前来たときよりにおいが増している…の土地の土はそう長く持ちません。 あなたはイノセンス回収を急いでください。避難誘導は我々で準備を進めておきます 」 「 ありがとうございます。じゃあ、行ってきます 」 行ってらっしゃい。男性の姿が、だんだんと見えなくなっていく。そして目の前に広がる、異様な光景。死臭と、土埃のにおいと、AKUMAの気配。そして、そこかしこから聞こえる人々のうめき声。「だっ大丈夫ですかみなさん!」「黒い服の…修導師さま…?」「どうしたんですかこの有様は、」「この町は…呪われておるのです!」「呪い…?」「最初の異変は…雨がやまないことに気づいたこと。そしてもうひとつの異変は、」町長の震える声。怯え方は、尋常ではなかった。「お医者様の、ご乱心だよ」「ご乱心?」「温厚で良い先生だったんじゃが…ある日突然ひとをおそうようになってしまったんじゃ。狂気の沙汰としかおもえん」「なるほど、そういうことでしたか」この町が抱えている問題。それは雨の奇怪以外にも、AKUMAが絡んでいるところにある。それならば、最初にしなければならないことははっきりしている。 「 そのドクターに、あわせていただけませんか? 」 「 そんな!無茶だ!あんた、死ぬ気か? 」 「 死にはしません。すこしお話をするだけです。なにもあなたたちを道連れにしようというわけではありませんから 」 「 あそこだよ・・・地盤沈下で崩れかけてはいるが…あの廃れた診療所に縛ってある 」 「 縛って? 」 「 ”普通の状態”に戻ったときに…襲われないように拘束した 」 「 …(ハァ)分かりました。町長、生存者はいまここにいる者たちだけですか? 」 「 ハイ。500人以上はいたこの町も…いまではこれだけになってしまいました 」 「 まだ崩壊していない建物の中に身を寄せあって救助を待っていてください。わたしはやることがありますので 」 「やること?」「あなたは安全なところに避難したほうが良いですよ」「へ」「あなた、ブロ−カ−でしょう」「ブロ?」「千年伯爵と取り引きする人間のことです。この町からはもう…”AKUMAの気配しかしない”」キリッと町長を睨みつけ、彼に結界を施すと、足早に”彼”がいるという診療所へ向かった。 ――――――――― ガラガラガラガラ。 崩壊の進む家屋。その奥に、その人物がいた。「ドクタ−?」「ウウ…お腹がヘッタ、コロサセテ」「AKUMA…!」ドン!爆発音とともにAKUMAが正体を現し、に迫る。「どういう、こと…イノセンスの気配が消えた…?」すかさずイノセンスを発動し、攻撃態勢にはいる。先ほどまで確かに感じていたイノセンスの気配が忽然と消えた。それも、ドクタ−が正体を現した直後に。 「 まさか…っ? 」 「 ヒヒヒッそのと−り!実はこのAKUMA、イノセンスの適合者だったりするんだよな−アニキv 」 「 ノ…ア… 」 「 大正解ー!ジャスデロとデビットだよ−天使ちゃん久しぶりジャン 」 「 あ−ダメダメ。彼を破壊しようとしたらイノセンスも消滅しちゃうよ−良いの? 」 「 ふふ。知らないんだねわたしのチカラ 」 「 知ってるよ。治癒能力と、バリアっしょ? 」 「 ハズレ。わたしのチカラはね、イノセンスが”敵”と見なしたものにしか効果がないの 」 「ヒッ?」「すこしの間、黙っててくれない?」イノセンス第一開放 ――――― 天使光臨。光の竜巻が天地を結んだかと思うと、現れたノアのふたりを瞬時に拘束した。「ぐあっ…前が見えな…!」「 ――――― おやすみなさい、AKUMA」爆発音とともに、複数のAKUMAが消滅していく。がイノセンスの力を解くと同時に、新たに得たイノセンスが地に落ちた。そして―――――――。「ヒッ、雨がやんだっ」「奇怪が解けたんだーやるねー天使さまっ」「でもこの場のAKUMAを破壊するだけで精一杯かな−?僕らを相手する元気がないみたいだなっ」悔しいが、彼らの言い分は正しかった。すべてのAKUMAは破壊できたが、イノセンスを守りながらひとりでノアをふたり相手するなんて、無謀だ。 「 あの巻き毛・・・ノアがいるなんて聴いてないんだけど…っ 」 「 ヒヒッひとのせいにしてら−!情けねのぉ−! 」 「 まったくだぜ兄弟。俺には自分の無力を嘆いているようにしか聞こえね−なっ 」 「 それともこうしてる間に治癒能力で体力回復してんのかなヒヒッ 」 「 アァ?だとすりゃそりゃ面倒だな。いまのうちにかたしちまうか 」 「 ―――――― 了解っ♪ 」 「 女性だからって、なめられたモンだね 」 ――――――― イノセンス第二開放!天使再光臨っ! ドオオオオオン。ノアが至近距離にまで間合いを詰めた瞬間。のイノセンス第二段階、天使再光臨が発動し、竜巻に吸い込まれたの羽根が容赦なくノアを攻撃、退けた。「「覚えてろよ−っ」」「ヒヒヒッ」遠くから聞こえる声を耳にする限り、これ以上攻撃するつもりはないんだろう。完全にノアの姿が見えなくなったのを見届けて、は町をでた。振り返った町は久しぶりに日の光を浴びて、雨の滴に輝いていた。そしてほどなく、町は崩壊のときを迎える。 刻限は、もうすぐ夕方になろうとしていた。 「 そうか。キミのところにもノアが…ごめんね、こんなことなら神田君派遣すれば良かったね 」 「 大丈夫です。幸い見知った相手でしたから。それに、思いの外すぐ退いてくれましたし 」 「 そっか、良かった。じゃあ回収したイノセンスを本部に、って言いたいところだけど、イエ−ガ−元帥のことは聴いてるかい? 」 「 はい。この町についてすぐに通信班の方から…大変なことになりましたね 」 「 うん。だからね、説明がてらアレン君たちのところに来てほしいんだ 」 「 あっ巻き戻しの町に? 」 「 うん。ついでにすこし休んで行くと良いよ。キミの護衛部隊は、そのときにはなすから 」 「 わかりました。すぐそちらに向かいます 」 「うん♪気をつけておいで♪」相変わらず楽天的な司令官に再度ため息をはいて、探索舞台の男性にすべてを打ち明け、本部に戻るようコムイからの指示を言い渡す。イノセンスを所持した状態での同行は危険との判断だ。確かに元帥のことといいノアのことといい、探索部隊の同行は最小限にとどめたほうが賢明な決定だ。は青すぎる空を仰いで、イノセンスを発動した。地面を蹴る。純白の羽根が、廃墟と化した街に降り注いだ。 【 20101016 * 加筆修正 】 ( オリジナルスト−リ−でした。元ネタは分かるひとには分かると思いますが…Dぐれ別連載”亡きヴォ−チェのための子守唄”での奇怪、雨さらしの町から。でもAKUMAとなった適合者は有希乃じゃありませんよ^^ ) |