宵闇の嵐の中を、のイノセンスがけちらしていく。気持ち良いほど速く、すがすがしいほど空高く。なにもなければただの暗闇。だけどもがいれば、昼間のように暖かく優しい光に包まれる。不思議だった。こんな感覚は、はじめてだった。 「 とうちゃ−く!あれっどしたのふたりとも? 」 「「 酔ったっぽい… 」」 「 わあああごめんなさい!そんなつもりはなかったんだけど! 」 「 横になれば楽になますから。とりあえず中に入りましょう 」 「 そっそうだね!波止場!あそこなら雨風もしのげるよっ 」 「 いやだからちょっとま、 」 アレンの制止もむなしく、は再び男性ふたりを抱えて教団の建物の最上階から地上へと急降下した。アレンとトマが軽い吐き気におそわれたのは、言うまでもない。 「それにしてもきれいなイノセンスですね」波止場で酔いを醒ましているアレンとトマを介抱していると、しばらくうなっていたアレンがそんなふうに言った。「そっそうかな?そんなこと言われたことないからわかんないけど」「コムイさんに聴いたことがあるんです。が教団で”天使”って言われる所以。こういうことだったんですね」優しく笑うアレンに、はなぜか鼓動が落ち着かない。 「 わたしは、あんまり歓迎してないけどね 」 「 え?どうしてですか? 」 「 人間じゃないって否定されているみたいで…人間離れしているみたいで苦手なの 」 「 すみません。僕、を悲しませることばかり言ってますよねこのごろ 」 「 そんなことないよ。イノセンスをほめられたのははじめてだもん、素直にうれしかったよ。ありがとう! 」 「 …僕の方こそ、ありがとうございます 」 がどうしてアレン君がお礼を言うの?と聴こうとした、そのとき。階段からドサッという妙な物音がして、三人はいっせいに音のしたほうを振り返った。「「リナリ−!?」」音の根元は、室長の助手で彼の妹の、リナリ−・リ−だった。そもそも科学班にいる筈の彼女がどうしてこんなところにいるのか。その理由は、すぐにしれることになった。 「 も…戻ったか…アレン、 」 「「 リ−バ−さん?どうしたんですかその傷っ! 」」 「 に、逃げろ…コムリンがくる…! 」 「 コムリン、ってまさか 」 「 ?知ってるんですか? 」 「 知ってるもなにも…わたしあのときあの場にいたもん… 」 「 来たあ!―――――― くっそ、なんて足の速い奴だ…」 「 発・見!リナリ−・リ−、アレン・ウォ−カ−、・、エクソシスト三名発見! 」 「 逃げろ!アレン!!こいつはエクソシストを狙ってる! 」 「手術だー!」機械じみた音声で標的に迫るコムリンU。「アレン君、リナリ−をわたしの背中に!リ−バ−さんとアレン君はわたしに捕まって!」「無理ですよ!走りますっ」「大丈夫大丈夫、こうして逃げたほうが速いし・・・ねっ、と!」ふわり。イノセンス発動と同時に、低空飛行を始めたのイノセンス。「ほら−っやっぱり無理ですって!キミはリナリ−だけ守っててくれたら十分です!」「でも、アレン君もトマさんも任務帰りなのに」「大丈夫です、鍛えてますから!キミは先に科学班のところへ」そういって笑ったアレンの表情からは確かに疲労が滲みでていた。アレンは無理をしている。嫌でも分かった。気をつけなければ、彼はひとりですべてを背負い込んでしまう。そうしていずれは ――――――― 。 「 そっか…アレン君はそんなにわたしが頼りないって言うんだね… 」 「 えっ?いやそういうつもりで言ったんじゃ…って? 」 「 あ−あ。泣いてたぞ−のやつ 」 「 うう…僕ってどうしてこうなのかなあ…を悲しませてるって分かってるのに 」 「 だって分かってるさ。知ってっか? ってな、イノセンスのせいかわかんね−が、観察力とか洞察力が半端ないんだ 」 「 それが天使って言われてることと関係あるって? 」 「 さあな・・・っとお!悠長に話してる場合じゃないぞアレン! 」 「 うわわっ追ってくる!追ってくる!リーバーさんわけが分かりません! 」 「 ウム!あれはだな。コムイ室長がつくった万能ロボ、コムリンつって…みてのとおり暴走してる! 」 「なんで?」リ−バ−班長がことの経緯を説明しているころ ――――――― 科学班の一角。「!おかえりっ」「ジョニ−…コムイさん…」「リナリ−!無事だったんだね!ボクのリナリ−!」「室長…あくまでリナリ−ですか。だって様子変じゃないですか。どうしたの?」「わたし、もうエクソシストやめます」「ええええええ!どうして突然!」「度重なる室長の暴挙に嫌気がさしたとか!」「そんなあごめんよ!もうの機械音痴無視して変な発明したりしないから−!」「ちょっとりあえずみんな冷静になろう!はここにいて。あれは僕がしとめる!」真剣な眼差しになるジョニ−に、気が気じゃない科学班員とエクソシスト数名。もはやそれどころじゃない黒の教団。悲鳴にも似た科学班員たちの悲痛な叫びが残響する中、暴走を続けるコムリンUがアレンを飲み込み、リナリーを捕獲しようと接近する。 「 ふ…ふふふふふ 」 「 こ、?」 「 なにがエクソシストよ。なにがイノセンスよ。こんな力なくたってコムリンくらいっ 」 「 わーっが壊れたああああっ室長おおおおおっ 」 「 これはこれでおもしろい絵図だね。壊れた天使、か 」 「 あんたってひとは…どこまで鬼畜なんだ… 」 ――――――――― ドギャン! 足蹴り。音速を持ったスピ−ドのままで、一気に標的に打撃を与える。「リナリ−の黒い靴(ダ−クブ−ツ)ほどじゃないけどね」衝撃はあったが、瞬時に地上に爆風を与えたため、その反動でコムリンは動作を停止しの身体への影響も最小限にとどまった。 「コムリン−!」「ん…」「リナリ…?」「?アレン君の声が聞こえた…戻って来てるの…?」が優しくうなずくと、リナリーは自らのイノセンスを発動し躊躇することなくコムリンUを破壊した。もっとも、による先刻の攻撃で崩壊寸前の状態ではあったが。 「 わたしまで手伝わされるなんて 」 「 まあそういうなよ天使ちゃん。そんなにアレンのそばにいたいのか? 」 「 そういうんじゃないけど… 」 「 悪かったな。悪気があるわけじゃないんだ、あのひとも 」 「 どうだか 」 「 珍しいな。無理しなくて良いぞ?またこのごろちゃんと休んでないんだろ 」 「 リ−バ−さんたちにはかなわないけどね 」 「 いやいやいやいや、そういう問題じゃないし 」 「 エクソシストやめるって言ったのもスル−されちゃってるしね 」 「 なにっあれ本気だったのか? 」 「 ふふ。冗談だよ冗談。わたしの居場所は、ここにしかないんだから 」 「良かった−!」心の底から安堵した様子のリ−バ−班長のため息に、素直に嬉しい気持ちがあふれる。アレンにも謝らなければならない。あれは、うそだったんだって。冗談だったんだって。だからもう、気に病む必要はないんだって。 「アレン君おかえり」「あれ?ただいま。部屋に戻ったんじゃないんですか?」「お風呂の帰り。そう言えばアレン君に言い忘れたことがあって」「言い忘れたこと?」イノセンスを届けたアレンと遭遇し、見覚えのある白髪にそう声をかける。「ごめんねアレン君。折角イノセンスのことほめてくれたのに、頼りないなんてわたしの気持ち押しつけちゃって」「いやっあれは僕も女性に対してひどいことを言ってしまって…その、お互い様です!」「わたしが頼りないのはほんとうだけど、そこまで気落ちしてるわけじゃないの。だから、あれは嘘。ごめんね」「誰も悪くないですよ。だから、そんなに謝らないでください」ね、と満面の笑みで言われ、思わず涙がにじみ出る。「ありがとう」そんな五文字とともに、ほとんど無意識にアレンを抱きしめていた。守るものが、またひとつ増えてしまったみたいだ。昇り始めた朝日を横目に、は人知れず笑みを浮かべた。あわてているアレンを、そっちのけにして。 【 20101016 * 加筆修正 】 |