「 おい起きろ 」
「 ん−もう食べられないよ−」
「 寝かしといてやれよユウ 」
「 ―――――― ラビか 」
「 ウッス、おはようさん 」
「 ああ。コイツ、なんだってこんなところで寝てやがんだ? 」


 「にしちゃあ、片づけがなってないさ。たぶん、食事中そのまま寝ちゃったんだろうなあ」毛布をかけながらそう話すもうひとりの教団エクソシスト、ラビの登場に、神田は深くため息をはいた。「また無理してやがったのか」「がそういう性格なのはユウも知ってんだろ−。んじゃ、俺はじじいのところに戻るわ」「ああ」ポンポン、との頭を優しくなでて、ラビはそそくさと自室に戻っていった。


「 ふわ・・・寝ちゃった。あれ、もう朝? 」
「 悪い、起こしたか 」
「 、いらしたんですね。おはようございます、睡眠の邪魔をしてすみません 」
「 大丈夫だよ、おはよう!それより大きな声がした気がするんだけど・・・なにかあったの? 」
「 ――――― なんでもねェよ 」
「 わかった!また神田がよけいなこと言ったんでしょ− 」
「 うるせェ。俺は先に行く 」


 「よくわかるんですね、神田のこと」大量の食事を前に、の向かいに座ったアレンはまだ寝ぼけ眼の彼女にそう言った。「神田とも長いつきあいだからね−」「そう言えばはいつから教団に?」「小さいころからだよ。両親がアクマに殺された孤児で…わたしがイノセンスの適合者だって分かって、元帥に保護されたの」「すみません…」「ん?大丈夫だよ。教団に入るひとは、だいたいそんな感じなんじゃないのかな?だからアレン君が謝る必要なんてないない」寂しそうに笑うに、いくら似たような境遇だとはいえやはり芽生えた罪悪感が拭えることはなかった。


「 そう言えばもう10分経つんじゃない? 」
「 ふがっ!そうでした!残りにあげます 」
「 ふふっありがとうアレン君。行ってらっしゃい 」
「 …はい、行ってきます 」


 「いまのが新人か、」「ラビ。おはよお」「おはよ−さん。ちゃんと寝たか?」「うん。ラビのおかげで風邪ひかずにすんだよ。ありがとう」まだ眠たいのかいまにも眠ってしまいそうな柔らかい眼差しに、ラビは思わずドキリとしてしまった。「べっ別に!まさかそのまま寝ちゃうとは思ってもみなかったけどなっ」「ふふっ、よっぽど疲れてたのかもね。ラビは?いまからご飯?」「おお」「お礼にメニュ−取ってくるよ。わたしもコ−ヒ−もらいに行くし」「ん、サンキュウ」すこし照れた様子のラビを背に、はジェリ−とのあいさつもそこそこにメニュ−とコ−ヒ−を受け取り、もと来た道を戻り、久しぶりに会った仲間と談笑した。


「 、ちょっと来てくれるかい 」
「 室長、任務ですか? 」
「 アレン君を迎えに行ってもらいたいんだ 」
「 え、でも、アレン君のところには探索部隊のひとが? 」
「 うん。だからね、ついでに神田君にこれを渡してもらいたいんだよ 」
「 次の、任務内容・・・?それならゴーレムで伝えれば? 」
「 やだなあってばそんなに任務が嫌なのかい? 」
「 そっそういうわけじゃ!ただ何か理由があるのかなあって! 」
「 強いて言うなら・・・次の任務に、神田君といっしょに行ってもらうかもしれないってこと? 」
「 どうして疑問系なんですかコムイさんっ!それって行っても行かなくても良いってことですかコムイさん! 」
「 まあまあ。そう言うことだから、神田君にもよろしくね− 」
「 ちょっコムイさ…! 」


 揺れ動く汽車の中。停車の衝撃で目覚めたは、出発前に言われたことを思い出して、盛大にため息をはいた。懐には、神田に手渡す予定の資料が入っている。イノセンス回収の報告を受けてすぐ、半ば追い出される形で教団をあとにしたは、何か違和感を覚えていた。いくら初陣とはいえ迎えによこすなんて、人手不足の教団にそんな余裕があるとはとても思えなかったからだ。そうしての脳裏によぎった、長期任務という単語。すなわち、ノアの一族との遭遇、攻防戦。も何度かそうした経験があったからこそ分かることだ。これから先も、ノアの一族の介入がまったくないとは言い切れない。


「 いたいた!神田!アレンくん! 」
「 おせ−ぞ。さっさと資料よこせ 」
「 も−せっかちだなあ神田ってば。はいどうぞっ 」
「 怪我の具合は気になんね−のか 」
「 やだなあ神田ってば。実は心配してほしかったの? 」
「 うるせェ。んなわけあるかっ 」
「 まったく心配してないっていったらうそになるけど、やっぱり怪我は最小限にしてもらいたいなあ 」
「 ケッ、そうかよ。おまえはどうするんだ?今回の任務 」
「 コムイさんからは行っても行かなくても良いって。どうしよっか。今回の任務はイノセンス回収なんでしょ? 」
「 ああ。資料が一人分のところをみると、どっちでも良いってのはつまり、処遇は俺に任せるってことか 」


 「内容的にも難しい任務じゃない。レベル2程度なら俺にもなんとかできるからな。モヤシと戻ってても良いぜ。おまえ、このごろ任務続きだったんだろ」柄にもなく優しい言葉に、は思わず拍子抜けしてしまった。「なんだその間抜けなツラは」「意外な台詞だったから思わず…。じゃあ、お言葉に甘えてホ−ムに帰らせてもらいます…」「そのほうが俺としても助かる」「でもあの…無理は、しないでね?」「うるせえ分かってる」「行ってらっしゃいっ」じゃあな、と手を振ってアレンとに背を向ける神田を、はただ静かに見送った。


「 あの−?僕たちのこと忘れてません? 」
「 へあ?ごめんごめん忘れてないよっアレン君初任務お疲れさまっ 」
「 こそ、任務ご苦労様です 」
「 これって任務っていえるのか微妙なところだけどね 」
「 なに言ってるんですか。任務によっては資料が欠かせないことだってあるんでしょう 」
「 アレン君・・・ありがとう。おかえりなさいっ 」


 かわいらしくも小首をかしげるを前に、久しぶりに聴いた言葉に育ての親を思い出したアレンは、返事を忘れていた。に、だき抱えられるまでは。「よいしょっ」「えっちょっなにしてるんですか!」「なにって…帰るんでしょ?」「そうですけどだからってなんで抱っこ!?」「汽車よりこっちのほうが早いもん。トマさんも遠慮せずに!経費削減っ」努めて明るくそう話すに、トマとアレンはそろってそういう問題じゃないと思うんですけど、と盛大にツッコんだ。


【 20101008 * 加筆修正 】