「あした、10時に渋谷ね!」浮かれた絵文字が乱立した文面をもう一度みおろし、はぁ、と盛大にため息を吐く。季節は6月に変わったばかりだというのに、異様なまでの暑さが、彼・六道骸の不快感をより一層強めていった。わずかに汗ばむ頸をぬぐいながら、こんな面倒な場所に待ち合わせをさせた張本人を探す。時間が経つにつれて増していく暑さと、女子高生か女子大生かはわからないが、黄色い声とそわそわした声音に、嫌気がさしてきたころ―――。 「 おっ、ちゃんときたね!えらいえらいっ 」 タッタッタ、と駅のほうから足も軽やかに、彼女・◯は、真っ白なキャミソ−ルワンピ−スを元気に揺らしながら悪びれもなくやってきた。日よけだろうか、淡いピンクのカ−ディガンを羽織り「ごめんごめん、遅くなって」とようやく遅刻の謝罪を述べた。到着一番に文句のひとつでも言ってやろうと勇んでいたのだが、柄にもなく彼女に見入ってしまっていたようだ。そういえば、このような日にラフな格好で出かけるのは、随分と久しぶりのようにも思える。 「 ………な、なによ、黙り込んじゃって。そ、そんなに怒らなくたって、 」 「 あ、ああすみません。そういえば◯とこんなふうに出かけるのは久しぶりだなあとしみじみしてました 」 「 だから誘ったんだけどね。骸さんが珍しく日本にいるってツナくんが連絡くれたから! 」 「 ………そうですか。あとで存分にこらしめておきます 」 「 こーら。ツナくんも気を遣ってくれたんでしょ〜〜そこは感謝するところじゃないの? それよりもほら、いくよ。あしたにはもう海外なんだから。時間がもったいないっ 」 「 いつもおもうんですが、僕のスケジュ−ルを熟知しすぎじゃないですかね 」 手を引かれながら、言葉の端にどことなく嬉しそうなのを見逃してくれる◯ではない。誕生日前に帰国することを知っていたこともそうだが、◯の情報収集能力にはいつも驚かされている。 「それにしても◯、どこに行くんですか?まあ、◯のことだから僕の誕生日祝いなんだろうとは想像つきますが」「あったり!だからね、久しぶりのデ−トを満喫してもらおうとおもって!………ダメ?」「上目遣いで聞かれても。それに、それは◯が楽しいやつでは?まあ◯が楽しいなら僕も嬉しいですが。………あ、」「大当たり−!」恥ずかしげもなく、公衆の前面で盛大なハグ。まったく、◯はほんとうに変わっていない。振り回すだけ振り回して、でも結局、知らない間に自分も嬉しい気持ちで満たされている。時間がたつのも忘れるうちに、一瞬が永遠になればいいのになんて、柄にもないことを考えたりもする。そんな最中 ―――― カフェ帰り。川沿いの道を歩いていると、◯がくるりと振り返る。 「 はい、これ!誕生日おめでとう 」 「 ? いつものお守りですね 」 「う、うん。それと、」「?」一瞬だけ、◯がもじもじと恥ずかしそうにしているのを不思議に思いながらも、彼女の言動を待つ。と ―――― ちゅ。前触れもなく聞こえた可愛らしいリップ音に、今度は骸が目を瞬く。「―――ふふ、マヌケ顔ー」くすくすと笑う◯の声が、振動となって鼓膜をくすぐり、途端に鼓動が早くなる。いつまでも慣れない感覚に、だけどもどこか心地良くもあるのは、きっと目の前の少女が嬉しそうにしているからだろうという結論に至るのだ。 青と灰をまぜて永遠をつくる |