カレンダ−を振り返って、盛大にため息を吐く。「連休もおしまいかあ」毎年、お決まりの台詞に半ば嫌気がさしてくる。ワイドショ−では恒例の道路情報が繰り返し流れている。今年こそは、雲雀さんとゆっくり連休を迎えられると思っていたのに、案の定仕事とは。当の本人も仕事で本部を留守にしているというし、ほんとうに良いことのない休日だ。この連休が終われば日常に戻る。ただそれだけのことだけど、やはりいまひとつ物足りない。


「 雲雀さ−ん 」
「 なに、呼んだ? 」


 「え、えっ」「なにその間抜け面。いま帰ったところ」「あ、ああ、おかえりなさい」「うん」他愛のない会話のあと、は静かに席を立って珈琲をいれる。不意に、つかまれた手首が熱を帯びる。「雲雀さん?」「…なんでもない」自分でも驚いているのだろう、しばらくじっと自分の手のひらを見下ろしていた雲雀に珈琲を手渡す。「そうだ!今夜、時間あります?」「え。ああうん、特に予定は、ない、」「? じゃあ、夜景見に行きましょう!それで観覧者乗りましょう!」「……」じと、とした眼差しを向けられる。断られる!と咄嗟に思ったは、あわてて「よ、夜ですし!人気も少ないとおもいます!それが嫌ならディナ−という手も……雲雀さん?」「……たまにはいいか」ふっと小さく息を吐いて、珈琲をすする雲雀をみやり、満面の笑みを返す。そういえば、こうしてふたりでゆっくりするのも久しぶりだなと彼女をみていて思い出した。


「 わぁ−!綺麗ですね雲雀さん! 」


 久しぶりのデ−トがよほどうれしいのか始終笑顔のに対し、どこか浮かない気分の雲雀。と再開してからその原因をずっと探っているのだけど、原因が判明しないまま誕生日が終わろうとしていることに、またモヤモヤしているのだろう、ということだけはわかった。モヤモヤしている、というよりは、焦っている、といったほうが正しいのかもしれない。楽しそうなをみているのは飽きないし嬉しいことだけども、何か物足りない感情が黒く渦巻いているのが嫌でもわかった。


「 雲雀さん? 」
「 なに? 」
「 やっぱり、家でゆっくりするほうが良かったですか?元気ない? 」
「 疲れてはいるけど、支障はないよ 」
「 だってなんだか、さっきから変ですよ 」



 「きみには言われたくないな」観覧者に乗って夜景を眺めてはしゃいでいるに、悪態をつく。それがまたに不信感を与えてしまうのだと、いまになって気が付いた。の視線を奪っている、キラキラ輝くイルミネ−ションも、なにもかも、モヤモヤをいらだちに変えていった。―――トン。夜景に夢中になっているの背後から、ガラス越しに彼女の動きを封じる。「こんなの、カッコ悪い焼きもちじゃないか」「え?」が笑みを秘めたまま振り返るのとほとんど同時にキスをする。が呼吸を忘れるくらい、強く、深く。「ふ…っひ、ばり、さ」「きみがみていていいのは、ぼくだけのはずだろう」「っ!」これまでの行動や言動の意味をようやく理解したらしい目の前の鈍い女は丸い瞳を潤ませて、耳まで顔を真っ赤にして身動きがとれないでいる。そのさまがとても馬鹿らしくて、愛おしい。


「 ほんとうは、夜景もディナ−もどうでもいい。誕生日くらい、こうしていたかった。それだけだよ 」
「 ひ、ばり、さ、 」


 の言葉を奪うように、すでにすこし腫れている唇に、手荒く何度も重ねていく。我ながら子供じみた、それでいて獣のような本性が備わっていたものだと、腕時計のアラ−ムが午前0時を告げたところで、意地悪く笑みを浮かべた。



瞳を反らしていいなんて誰が言った?