「あれ?山本君」「へ?その声は…じゃん!オフで会うのは珍しいな−買い物?」「うん、実はそうなの!友達とお食事したりお洋服買ったり…楽しかったよ−。山本君は?あ、次郎君のお散歩?」「そうそう!きょうは天気も良いしさ−たまには相棒とのんびりしようと思って!なっ次郎!」「へぇ−じゃあ小次郎君も近くにいるんだね」「おお!呼ぼうか?」「大丈夫、遊泳の邪魔しちゃ悪いし…戦闘以外で空飛ぶなんて、あんまりないだろうし…ね」笑って、小次郎がいるであろう大空を仰ぐ。きょうは見事な快晴で、見ているだけで嫌な気持ちが吹き飛んでしまいそうだった。買い物帰り、偶然道端で散歩中だった山本をみつけて、何気ない会話に花が咲く。 「 、これからヒマ? 」 「 え?うん、ヒマと言えばヒマかな?あとは帰ってお夕飯つくるだけだし 」 「 じゃあさ、散歩付き合ってくんない?コイツもと遊びたがってたみたいだし 」 「 ほんとう?じゃあちょっとだけね。それにしても元気だねえ次郎君は。きょうは結構歩いたの? 」 「ん?おお、町内一周とまではいかね−けど、トレ−ニングも兼ねてるからな−」なんて言いながら、そうなんだ、と相槌を打つおなじボンゴレファミリ−の門外顧問補佐、を見下ろす。よほど珍しいのか、動物がすきなのかは分からないが、次郎を撫でたり抱きついたり。ちょっとオ−バ−なんじゃないかって思うくらいのスキンシップに、グラッと心が傾いた。嫌なほうに、心が乱れていくのが嫌でも分かった。なんなんだ、これ。次郎ももすきなのに、触れられて嬉しそうにしている次郎をみていると、心の奥がイライラムカムカ、落ち着かない。ちょっと油断したら”触るな”って怒鳴ってしまいそうだ。山本は首を振って、に言った。 「 行こうぜ、。遅くなっちまう 」 「 あ、それもそうね。わたしね−次郎君みたいな犬がほしかったんだあ 」 「 柴犬? 」 「 うんそう!でもうちマンションだったから動物はだめだったの。とはいっても、この子も”本物の動物”じゃないんだろうけどね 」 「 んなことね−よ!なっ次郎 」 が寂しそうな顔をしているのを見ていたくなくて、ぐりぐりと次郎の頭を撫でる。次郎もワンワン!と吠えて答えてくれる。「山本君?」「え?」「なんか…調子悪い?やっぱりわたし、いないほうが良かった?」しばらくの沈黙ののち、どうしたものかと様子をうかがっていたがひょっこりと心配そうに顔をのぞかせた。――――― 近い。あまりの至近距離に急上昇する心音が彼女にも聞こえてしまいそうだ、と変な心配をしていたが、ワンワンと先を歩いていた次郎に呼ばれたおかげで、の注意をそらすことが出来たみたいだ。 「 大丈夫大丈夫!が心配することないから! 」 「 そう?それなら良いんだけど…無理、しないでね? 」 この間の戦闘で疲れていると思ったのか、そんなふうに声をかけてくれる。「は優しいなあ…マフィアにはもったいないくらいの優しさだ」「なにか言った?」「いや、は優しいのな−ってな」ニカッと笑うと、今度はがすこし照れたようにはにかんだ。とこんな時間をすごしていると、普段戦闘をしていることが夢のようだ。つらい戦いを忘れさせてくれる笑顔。守りたいもの。自分たちの、帰る場所。「わあ!や、山本君?」「悪い。なんかこうしたかったんだ」「しょうがないなあ」細く白い身体を、抱きしめる。温かくて、優しい香りがした。困ったように笑う笑顔さえ、このまま閉じ込めてしまいたいだなんて思ってしまう。次郎にだって、小次郎にだって、邪魔はさせない。させたくない。いや、正しくは”してほしくない”かな。さわさわと吹き抜ける風が、ひんやりと冷たい。どうやらずいぶん、日差しはなくなってしまったようだった。 「 …くしゅんっ 」 「 悪い、大丈夫か? 」 「 平気平気、ちょっと寒かったかな…え?どうしたの?次郎君 」 「 尻尾なんか振って…俺にも抱かせろってか? 」 「 え?何の話? 」 「 僕の毛のほうが暖かいよ−ってさ。仕方ねぇなあ、きょうだけだぞ?を譲るのは 」 自然と、そんな皮肉が口に出ていた。とても嬉しそうに、が次郎にぎゅっと抱きしめているのをどことなくうらやましくみつめながら、不意にコトンと小首を傾げたと目が合った。「なんだ?」「さっきの、どういう意味かなあって思って…」「さっきの?」「わたしを譲るのはきょうだけだって…次郎君と取り合いでもしてたの?」「ハハッ…まあそんな感じかな。俺ってやっぱガキだな−」「ううん、そんなことない。山本君はすごく格好良いしたくましくなったし!将来がすごく楽しみだよ」「ハハッ…な−んか、ばあさんみたいなのな」「おばあさんって…ひどいなあ」ふふっと、穏やかに包む風のように、が笑う。 「 おばあさんになっても、おじいさんになっても…いっしょにいられたら良いのな 」 「 ん?山本君なにか言った? 」 「 なんでもない。きょうは付き合ってくれてサンキュ−なのな− 」 「 こちらこそ、ありがとう。楽しかったよ!次郎君や山本君と遊べて。小次郎君にもよろしくね 」 「 ああ!じゃあまたあした、な 」 「 うん、またあした!次郎君もばいばい 」 尻尾を振りながら、ワン!と嬉しそうに返事をする次郎をみていると、心の奥はやっぱり揺らいだけど ―――― まだ、大丈夫だ。まだ、崩れることはない。遠くで手を振るに手を振り返しながら、ちいさくため息を吐く。見上げた次郎が、不思議そうに小首をかしげている。「まったく、お前は気楽で良いよなあ…。犬に嫉妬してました−なんて、格好悪すぎて言えるわけないじゃね−か…」思わずこぼれた愚痴に、人知れずため息がこぼれる。次郎と小次郎をボックスに戻し、ひとり西日の当らなくなった路地を歩いた。 瞬く間に世界が反転して回転して暗転する |