月 曜 日、 「あの、落としましたよ?」「えっ?あっ、どうもありがとう…?」「どういたしまして。気をつけてくださいね沢田…さん?」そう言って、派手に落とした荷物をいっしょに拾ってくれた女の子は、ふんわりと ――― この春の日差しのように優しくほほ笑んで、どこかへ行ってしまった。あのとき間違いなく、オレは彼女に一目ぼれをしたんだと思う。あれからいろんな知人の力を借りて調べに調べた結果、あのときの女の子は二年生のさんだということが判明した。いまオレは中学二年生だから、彼女・さんはいま中学三年生だということになる。ひとつ上の先輩だっただなんて!どうしてもっと早くに気がつかなかったんだろう。リボ−ンにそのときのことを話してやったら、やっぱりというかなんというか、鼻で笑われてしまった。「相変わらずとれ−な」だって。そりゃあまあオレだってそう思わなくもないけど、あれからいろいろあって大変だったんだから、リボーンにも一端の責任はあるとオレは思う。 「そういうのを正当化って言うんだ。 それよりおまえ、そいつとどうしたいんだ」 「えっ??ど、どうって?」 「鈍い奴だな。恋仲になりたいかどうかって、聞いてんだよ」 「恋仲って!しっかしまた古臭い表現だなあ…」 「…文句言うだけならアドバイスやらないぞ」 「えっ?ていうかリボ−ンが協力してくれるなんて!」 「そりゃあオレだって、 マフィアのボスになる男の恋路くらい応援してやりたくなる」 「おまえの基準って全部それだな。 つかオレ何度も言ってっけど将来マフィアとかやってるつもりないし!」 「ぐだぐだ言ってんじゃねえダメツナ。それで、質問の答えは」 いつになく真面目そうな顔をしてそう話すリボーンに、ただならぬ空気を感じたオレは両手をあげて降参の仕草を見せ、「恋仲とかまで考えてないけど…とりあえずあのときのお礼はしたいよ」と白状した。「なんだ、つまんねー男だなあ。ハッキリ言え、好きなのか嫌いなのか、付き合いたいのかそうじゃないのか」「リボーンそれ強要だぞ…」オレが半ばあきれながらそう言うと、リボーンに思いっきり殴られた。いつものことながら強烈だ。だからしぶしぶ、心の奥にあった気持ちを吐き出してみた。 「うまく言えないけど、さ…。 たぶん、京子ちゃんよりはそういう好き、が強いと思う…」 「ふうん?じゃあ京子のは強い憧れだったってわけか?」 「そりゃあ、少なからずそういう気持ちはあっただろうけど…うん」 「ハッキリしねえなあ…まあ良いや、ガキに言及するのもかわいそうだ」 「なー!?自分で言えって言っておいてー?」 「まあ良いじゃねえか、いましか出来ねえんだぞ青春ってのは」 「まあ…そうだろうけど」 「え−と?へ−、ダメツナにはもったいない学歴だな」 「は?なんだよそれいつの間にそんな調書が! まずいってプライバシーの損害だって!」 「うるせえなあ、バレなきゃ問題ねーって。 、現在中学三年生の生徒会長。学年成績常に上位か」 「えーまじかよリボーン」「大マジだ。おまけに同学年の連中にはちっとばかりちやほやされてるみたいだな」「なにそれ?京子ちゃんレベルってことー?」「まあそういうことだな。ああダメツナには本当にもったいない、オレが相手してやりたいくらいだ」リボ−ンの発言に、オレは「なに言ってんの?」と思わず声を張り上げてしまっていた。リボーンの突き刺さるような視線が痛い。「仕方ねーオレは年下好みじゃねえんだ、ここはダメツナに譲ってやる。そういやおまえ、あしたからあいさつ習慣なんじゃねえのか?」不意にそんなことを指摘され、オレはそうだったとカレンダーを見やる。 「こんなのどうだ?一週間でとお近づきになるプラン」 「なんかのツアーみたいだな…」 「ダメツナはほんっとうるせーな。とりあえずあした! ひと言でも声をかけてみろ、そうしたら第一段階クリアだ」 「あれっなんか懐かしい台詞…」 「…やるのかやらないのか」 「やりますやります!頼むから銃しまって!ここ日本!銃刀法違反!」 「こんなときだけ難しい法律の名前なんか出しやがってダメツナめ」 「おまえきょうひどいぞ。 ダメツナダメツナ言い過ぎ!…まあ事実なんだろうけど」 「ああおまえはお礼も言えないダメツナだ」 「ひでー!おまえほんとひでー。 ひとのことより自分の心配したらどうなんだよ!」 「お、言うじゃねーかダメツナ。 オレはお前みたいに苦労しなくたって向こうから来るから良いんだよ」 「なんじゃそりゃ。もう知らねーよリボーンの馬鹿野郎!」ひとしきり言いあったあと、オレは怒り心頭のまま風呂に突入し、怒り心頭なまま布団の中にもぐりこんだ。とりあえず、リボーンじゃないけどまずはあしただ。校門のまえに立ったら、いちばんに彼女にあいさつをしよう。そんな構図を練りながら、その日の夜はあっという間に更けていった ―――― そして翌朝。「うわー!朝一番にあいさつする計画が遅刻なんて!起こしてくれたって良いのにリボーンの馬鹿野郎!」それほど悪くもないリボーンに愚痴を言いながら、息も切れ切れに校門に向かう。時計を見てみれば始業5分前のチャイムが鳴ったところだった。あたりを見回してみても、上級生の姿はひとりも見当たらない。がっくりと肩を落としていると、少し離れた位置から「おはようございます、間に合うなんてすごいですね」と言う落ち着いた声が聞こえた。 「お!おはようございますさんっ! あのときはありがとうございましたっ」 「あのとき…?ああきみ!一年前のあの子!久しぶりだね」 「は、はは…、」 「聞いたよ、笹川さんと知り合いなんだってね。…大丈夫?」 「はは、大丈夫、です…全力疾走した、から…」 「はい、良かったら使って? もらってくれても良いから。そのままじゃ風邪、ひくよ?じゃあね」 汗だくだったのが見え見えだったんだろう、彼女・はそういうとニコッと笑ってタオルを差し出した。あのときとなんら変わらない、彼女は優しいままなんだと思うと、嬉しくて仕方なかった。が昇降口に消えていくのをなんとなく見送っていたオレだったけれど、そう言えば始業のチャイムはすでになっていたことを思い出して、あわてて校舎に駆け込んだ。案の定遅刻して担任にこっぴどく説教を食らったのだけれど、それほど嫌じゃなかったのは、久しぶりににあって、彼女の優しさに触れたからなのかもしれないと、そんなふうに思えた。 まず挨拶から |