わたしの同級生で隣の席の沢田綱吉君は、周りのみんなからダメダメだって言われているけれど、わたしはぜんぜんそんなことないって思う。
確かにたまに授業中いなかったり、頭もそれほど良いわけではないし、運動も出来ないし。だけどそれはわたしもおんなじだし、ほかの子にも言えることだ。
だけどそれ以上に、綱吉君には良いところたくさん、たくさんあるんだってことを、わたしは知っているよ。ちゃんと、ちゃんと知ってるよ。
「あ、?」
「へ、な…なに?綱吉君!」
「これ、の生徒手帳じゃない?」
「あ…ほ、ほんとうだ!ありがとう!」
「どういたしまして。生徒手帳って気づかないうちに落ちちゃうってこと結構あるよね」
言いながら、屈託のない笑みを浮かべる綱吉君を見つめ、わたしは少しだけ目を眇めた。やっぱり、綱吉君は優しいなあ。
そんなことを考えながら綱吉君のほうを見ていたら、綱吉君が不意に「あ、雪だ。、見て見て」と少しはしゃいだふうに言った。
わたしもつられるように「え、雪?うそっ」て、そんなふうに言いながら窓のほうに身を乗り出した。
「危ないよ」
「へ−きへ−き!うわあ、綺麗…雪なんて久しぶり!」
「そりゃ、しょっ中は降らないよ」
「だって去年は降らなかったじゃん。綺麗−」
「ああ…そういう意味ね。それじゃあさ、」
「うん?なに、綱吉君」
「昼休み、屋上行ってみない?この様子だとまだ降るんじゃないかな、雪」
「ほんとう?良いの?」
わたしが半ば興奮状態でそういうと、綱吉君はとても嬉しそうに微笑んで「もちろん」って言ってくれた。やったあ!今年の初雪は綱吉君といっしょだ!
そうして、昼休み。わたしはお弁当箱を持って屋上へ行き、いまだ降り続いている雪を眺めながら、綱吉君が来るのを待っていた。不意に、
扉の開く音がして振り返ってみた。そこには、やっぱりこの雪に驚いている綱吉君がいた。
「綱吉君の言ったとおりだね!雪、まだ降ってたよ」
「…。早かったね」
「うん!だって少しでも綱吉君といっしょに雪を見たかったんだもん」
「そっか…じゃあ悪いことしたな…」
「遅くなったことなら気にしてないよ!来てくれたんだもん、綱吉君」
「…ありがとう。それより、お昼まだなんでしょ?食べたら?」
「あっ!そ、そうだね…!」
綱吉君に言われて、慌てて弁当箱を広げる。雪が降り続く屋上は、やっぱり肌寒かったけど、それでも綱吉君がいっしょだったから、少しは暖かく感じた。
しばらく雪を眺めていた綱吉君は、不意にわたしのほうを振り向いて「寒いでしょ?中で食べない?」って言ってくれたから、
わたしは首を振って「寒いけど大丈夫。それに、雪の中でお弁当って、なかなか貴重じゃない?」って言った。そうしたら綱吉君は「そうかもしんないけどさ」と苦笑いを浮かべた。
「綱吉君は、優しいね」
「そ、そうかな?だめなところだらけでそんなことないと思うけど…」
「だめじゃないよ。だって綱吉君、優しいもん!良いところいっぱいあるもん!
だからね…その、そんなに自分のことだめだめって言っちゃだめだよ。自分が可哀相だよ」
「…ありがとう。に会えてよかったよ」
「綱吉君…うん、わたしも!わたし、ずっと祈ってるからね。綱吉君が幸せになれるようにって」
「はは…なんだか複雑だなあ…。でもありがとう、」
「どういたしまして。そろそろお昼休み終わっちゃうかな…もう戻ろうか!」
「…ん、そうだね。あ、僕トイレに寄ってから行くから先に戻ってて」
綱吉君はそう言って、一足先に屋上から出て行った。綱吉君の言葉は、不思議だった。ひと言ひと言が、わたしの心の中にしみこんでいくような気がして、
心臓の奥のほうが陽だまりみたいに暖かくなっていくの。わたしの言葉も、そんなふうに綱吉君に届いていたら良いな。わたしの幸せは、綱吉君がいつもみたいに、笑顔でいてくれることだから。
やさしいせかいを