ツナ君たちのいるボンゴレにいるいまも時々、昔のことを思い返すことがある。京子ちゃんたちのこと、同級生とのこと。 楽しかった思い出もそうだけれど、それ以上に ―― なんていうか、いさかいがあった、そのときのことを良く思い出す。 子供って、考えることがほんとうに浅はかで、全部が全部そうだっていうわけじゃないのだけれど ―― とにかく、 そのころのわたしは、それが原因で酷く自己嫌悪に陥っていたことが多々あった。いまにしてみれば、ほんとうに些細なことだったんだけどね。 「大切な友達にね、わたしは偽善者だって言われたことがあるの」 「へぇ…そりゃあまた滑稽な話だな」 「ええ…わたしもそう思う。そのときはそんなことないって思いたくて…必死だった。 余計に滑稽よね…笑っちゃうでしょう?」 「…でも、全部否定してるわけじゃないんだろ?」 休憩中の山本君は、注いだばかりの珈琲を片手に頬杖をつきながらそう言った。わたしは苦笑いを浮かべながら、おんなじように珈琲を注いだ。 わたしは、山本君みたいにブラックは飲めないから(以前その話をしたらまだまだ子供だなって笑われちゃった)微糖なんだけど、ね。 ブラックを飲める山本君を、何となく格好良いなあなんて思いながら見ていると、で?と、話の続きを促された。ちゃんと、聞いてくれるんだ。 そう思ったら、なんだか嬉しくなって自然と笑みがこぼれた。だからうん、って頷いて「もちろんだよ」と話を続けた。 「いまもそうだし、昔もそうだよ。だけど…時々、すごく自信がなくなっちゃうの」 「そりゃあなあ…人間なんだし、誰だってそういうときがあるだろ?」 「うん、まあね。だけどあのときはそのことが分からなくて、馬鹿みたいにずっと悩んでたの」 「分かるさ。俺だって、そんな時期があったんだ…」 山本君はそう呟くように言って、珈琲を半分ほどすすると、またまっすぐにわたしのほうを見据えて「野球してたときとかな」と付け加えた。 そのあとにいつものニカっていう、何処か悪戯っぽい笑みを浮かべて、持っていた珈琲をテ−ブルに置いた。 わたしはほんの少しだけ表情を緩ませて、開いていたパソコンを閉じ、冷めかけている珈琲をすすった。やっぱり、少しだけ冷たい。 ここで、ずっと、いままでずっと思っていたことを山本君にぶつけてみる。どんな返事を、してくれるんだろう。 「山本君は…どう思う?」 「どう、って?が偽善者かどうかっていう話?」 「…うん。ぜひとも山本君の意見を聞きたいと思ってね」 「ずっと暖めてたってわけか…う〜ん、そうだなあ」 山本君は一度驚いたふうに目を見開いたけれど、やがて腕組みをしてひとしきり唸ったあと、うん、とひと言言って口を開いた。 たいした意見は期待していないつもりなのだけれど、ごくりと自然に固唾を飲み込んでしまって、わたしは思わず「しまった」って思った。 だけど、聞いてしまったものは仕方ない、ちゃんと、どんな言葉でも受け止めよう。受け入れられないほど、あのときほど子供じゃないんだから。 「…あのな」 「…うん?」 「俺は、何か行動を起こすのは強さだって思ってるし、ひとを思って進言するのも優しさだって思ってる」 「…うん」 「だからな…その、そんなに悲しそうな顔するなよな」 「え…?」 してたんだろうか、悲しそうな顔を ―― していたから、山本君はあんなことを言ったんだろう。もしほんとうにそうなのだとしたら、すごく恥ずかしい。 いま、悲しいことは何も無いのに。つらくなんてないのに、どうして山本君は分かったんだろう。もしかして、気づかないうちに顔に出ていたのかな。 ひょっとしたらそうかもしれない。まえに友達に「は思ってたことがすぐ顔に出るんだから」っていうことを言われたことがあるもの。 「うん…ごめんね、山本君。でも、山本君の話を聞いたら元気出ちゃった。 お話聞いてくれてほんとうにありがとうね、山本君」 「うん?ああ…別に、それは構わないさ」 「ほんとうにありがとう。山本君って、やっぱり優しいひとなんだね。 あ…休憩、終わっちゃうみたい。それじゃあ、またあとでね、山本君!」 「お?おお…そうだな、またあとでな」 あっけにとられる山本君を背に、わたしは足早に休憩室を出た ―― あのままあの場所にいたら、きっと泣き出していたと思う。 山本君の言葉は、あまりにも優しくて暖かくて。わたしの中にあるいろんな気持ちをあっという間に変えていっちゃう。 はやるこの気持ちがなんなのか、いまのわたしにはまだ分からないけれど ―― あのときのわたしが山本君の言葉に救われたのは、事実だとしか言いようがないと思う。 トパーズの午後 |