俺が隣にいる少女 ―― の頬に軽く、その、キス…しようとしたり、手をつなごうとしたりすると、初心な彼女はすぐ距離を置く。 嫌なわけじゃないんだよ、と彼女は弁解してくれるけれども、俺はどうにも、嫌われているような気がしてならない。 極度な初心のようだから、キス、くらいはまあ我慢しようと思えば我慢出来る。けど、我慢ならない(納得いかない)のは次からだ。 恋人同士なのに(世間一般には俺たちみたいな関係をそう呼ぶんだろう)手もつなげないってゆ−のは、ちょっとなぁ。 獄寺は俺が奥手なのが悪いんだと言い張るけど、俺だって努力はしている、つもりだ。 いまは学校帰りで、ついさっき、ハルと話をしているを見かけて、いっしょに帰ろう、ということになった(手くらい、繋ぎて−なあ…) 「な−」 「うぇ?な、なに山本君!」 「俺たち、ちゃんと付き合ってんだよな」 「も、もちろんだよ!どうしたの?突然」 俺は、我慢が限界域に達していることを薄々感じていた。だからいま、率直にの意見を聞こうと思ったんだけど ―― これじゃあ、一方的すぎるかな。 俺だけが自分の気持ちを押し付けて良いなんてこと、ぜったいにない。つ−か駄目だ。は、突然黙り込んだ俺の顔を心配そうに見ている。可愛いなあ、畜生。 思いっきり抱きしめたいけど、嫌がるだろうし ―― そこまで考えて、俺は伸びかけた手を引っ込めた。俺は、どうしようもない馬鹿だ。臆病者だ。 うだうだ考えずに、さっさとまえに出てしまえば良いのに ―― 一線を踏み越えるのが、すごく怖い。に拒絶されることが、たまらなく怖い。 「こんなこと言ったら、ぜったい困るよな」 「言ってみて?何か悩み事?相談ならわたし、聞くよ?」 「悩み事といえば悩み事なんだけど…ちょっとは恋人らしいことしたいなあっていうか出来ないなあって言うか」 今度はが黙り込む。必然的に舞い降りた沈黙に、思わずため息を吐きそうになるのを我慢して、からの返事を待つ。 けれども、どれほど待ってみても、から返る言葉はない。俺たちは沈黙したまま、いつの間にか太陽が沈んでいた。 俺はう−ん、と唸って携帯のディスプレイを見下ろした ―― 午後6時。冬は、6時になるころには真っ暗になる。 確か、の門限が7時ごろだったから、これ以上粘るわけにはいかない。俺は仕方ない、と立ちすくんでいるの手を引っ張って、彼女の家の方向へ歩き始めた。 「な…!ど、何処行くの?」 「何処って、の家だよ。もう真っ暗だろ?送ってくよ」 「わ、悪いよ。わたしの所為で山本君にまで迷惑かけちゃうよ」 「だったらせめて彼女送るくらいのことはさせてくれよ。駄目か?」 ふるふる、とはおもしろいくらいに顔を真っ赤にして首を振るもんだから、俺はついさっきまで抱いていた感情が体中を駆け巡っている感覚に襲われた。 人気の少ない路地で、だけど俺はとうとう我慢ならなくなって、相変わらず顔が真っ赤なままのを振り向き様に抱きしめた。耳まで真っ赤になるが、愛しく思える。 「や、山本、くん…?」 「悪い、なんかも−我慢の限界みたいだ」 「あ、あの、ここ、公道っ…」 「ああ、分かってるけどいま人いないし、暗いから分かんね−よ」 そういう問題じゃ…!と頬を膨らませるの唇に触れた。驚くあまり、彼女は声も出さずに何度も目を瞬いている。 その仕草ひとつひとつが、とても愛しく感じる。新しいの表情を見るたびに、やっぱりすきだなあって思う。そんなことを思いながら、静かにを離す。 「や、山本君っ…!」 「だから先に断っただろ、悪いって。ほんと、ごめんな、」 「ばか…っ」 「、俺のこと嫌い?」 「嫌いじゃ、ないけど…!強引すぎだよ…っ」 怒りと恥ずかしさが入り混じったの顔を見ていると、なんだかおかしくなってしまって、不謹慎だとは分かってはいたけれど、笑いはこらえきれなかった。 俺の笑い声だけが、が何度も言っていたように馬鹿みたいに路地に響いて、だけどそんなことぜんぜん気にならなかった。それくらい、嬉しかった。 やっと、ほんとうにやっと、に触れられたことが ―― に、近づけたことが何よりも嬉しかったんだ(なあ、おまえはどう思ってるんだろうな) 心臓を掴める距離で |