三浦ハルと仲良しで彼女と同じ中学に通っているは、少し変わっている、と俺は思う。 そういう俺は、その「少し変わっている彼女」と、いわゆる彼氏彼女の付き合いをしているわけだけれど、いまだにそんなふうに思うときがある。 それもまた、の魅力のひとつなんだと、俺は勝手に思い込んでいるのだけど ―― そう思っているのは、俺だけなんだろうか。 以前、そんな感じの話を三浦ハルにしてみたら、どうやら彼女もまた同意見だったようで「わたしもそう思います」とのことだった。 「性格上っていうのもあると思いますけどね」 ハルは最後にそう付け加えて、いつものように悪戯っぽく微笑んで見せた。彼女いわく、自身は気づいていないらしい。俺も、は気づいていないと思う。の魅力は、数え切れないほどたくさんあるけれど、俺が思う最大の魅力のひとつは、ないものねだりをしないことだと思う。 たいていの人間は自分にないものを欲しがったりするものだけど(事実俺だってそうだし誰にでもいえることだ)にはそれがない。 なんていうか、そう、ほんとうに身の回りにあるものだけで満足している。傍から見たら幸せ者のようにも見られそうだが、そんなことはないと思う。 俺はむしろ、のそういうところがすきだし、すごいところだと思う(彼女の発想には毎回驚かされているけれども)と同時に、悲しいと感じるときもあるけど(ほら、誕生日プレゼントとかさ) 「、なんか欲しいもんある?」 「え、欲しいもの?う−ん…と、」 誕生日が近いこともあって、俺はにそう尋ねてみた。やっぱりだ。ここまで悩むとは想定外だったけれど、 少なからず時間がかかるだろうと予想していた俺は、に気づかれないようにこっそりとため息を吐いた。 「…ねぇの?」 「そだねぇ…いくら考えても思い浮かばないし」 さっきコンビニで買った肉まんをおいしそうに頬張るの横顔を見ながら、俺は再度もれそうになるため息をこらえた。 なんだか、幸せそうなの横顔を見ていると、誕生日プレゼント程度で悩んでいる自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。 だけど、と付き合い始めて初めての誕生日だ、何かプレゼントしたい。何かひとつでも、ヒントになるようなものがあれば良いのだけど。 「だってわたし、山本君がいっしょにいてくれるだけで幸せだもん」 突然何を言い出すのかと思えば。俺は思わず噴出しそうになるのを必死でこらえ、落ち着いたところでと向き合った。 いつの間にか、の手にあったはずの肉まんは消えていて、彼女は紙袋をくるんでゴミ箱の中に放り投げた。ナイスシュ−ト。 俺は言葉を探すフリをしながら、ただぼんやりとその一部始終を見ていた。気がつくとの顔がめのまえにあって、俺は思わず目を瞬いた。 「ど−したの?元気ない?」 「ん?いんや、んなことねぇよ。ただ、にすきになってもらえて幸せ者だなと思ってさ」 「どしたの山本君、ネジが外れちゃった?」 「…まぁ、そんな感じかな。そうだな−どうすっかな」 腕組みをして考え込む俺の顔を覗き込むようにしているが、愛しくて仕方ない。 付き合って結構な月日が経つのに、いまだに、こんなにも愛しさがこみ上げてくるなんて、きっと、ほかの子じゃあり得ない。 なんだか嬉しくなって、無意識のうちに手を伸ばして、を抱きしめていた。当然のように驚く ―― だけど、拒みはしなかった。俺、やっぱりがすきだ。 「山本君?どっか具合でも悪いの?」 「そんなんじゃね−よ。ただ、こうしたかっただけだ。嫌だったか?」 「ううん!嫌じゃないよ!うれしいよ!」 ニコニコと、ほんとうに嬉しそうに話す。なんだかなぁ、そう正直にぺらぺらと話されると、こっちが恥ずかしくて仕方なくなる。 何度でも、抱きしめたくなってしまう。そのたびにきみはいまみたいに満面の笑みで受け入れてくれるんだろう ―― 俺の、ちいさなちいさなわがままひとつでさえも。 荒々しい指先が死んでもいいくらい幸福だった |