暑い暑い言いながら後ろを着いて歩く子どもたちを微笑ましく見ながら、は歩幅を早めることなく歩いていた。 今日は、朝早くから近所のス−パ−でアイスの安売りがあったため、みんなそれに付き合ってくれたいたのだ。

「大丈夫?みんな」
「大丈夫だよ!荷物持ちがいるし!」
「荷物持ちって、俺のこと!?」
「うん!はい、ツナ兄!」

ドサッ、と景気の良い音がして、買い物袋がふたつほどツナの両手に乗る。瞬間ぐぁ、と言う苦しそうな声が響いた。 思っていた以上に重かったのだろう。はくすくすと微笑みながら、買い物袋をひとつ預かる。

「さすがに重たいでしょ?ツナ君でも」
「いや、これくらい平気…それも貸してくれる?」
「駄目だよ−ちょっと荷物持たせたくらいでうろたえるような人には持たせられません−」
…それを言うなら女の子に力仕事は頼めないよ。ほら!」
「駄目なものは駄目だよ!それに軽いほう持つから大丈夫!ね!」

言いつつ、軽々と買い物袋を持ち上げて見せる。こうまで言っても駄目なのだ、これから先何を言っても通用しないだろう。 綱吉はそう思い、ため息をつくなり分かった、と弱々しく頷いた。それを見たは満足そうに微笑んでありがとう、と言った。は子どもたちを先頭に歩かせ、歩幅が緩みつつある綱吉の隣に並んだ。綱吉の家は、もうすぐだ。

「ツナ君、頑張れ〜」
「はは…頑張ってるよ、こう見えて」
「持とうか?」
「大丈夫だって!そ−だ、
「ん?なに?」
「今日のお礼に、少し付き合って欲しいところがあるんだけど」
「良いよ、お礼なんて!わたしが自分で言い出したことなんだから」
「もとはと言えば母さんが無理言ったからだろ。そう言わずに、頼むよ」

懇願するような綱吉の瞳に負け、は渋々分かった、と頷いた。今度は僕の勝ちだね、と言うとはおかしそうに何の勝負をしてたの、って笑った。 冷凍庫にアイスをたくさん仕舞いこみ、ふたりは子どもたちに少し出て来る、と言っての家の付近にある川原に向かった。

「付き合って欲しいところって、ここ?」
「うん。…暑そうにしてたし、良くここに避暑に来てるんでしょ」
「誰に聞いたの?」
「ビアンキとか…ハルとか、京子ちゃんとか。結構みんな知ってるよ」
「見られてたのか…秘密の避暑地だったのに…」

ショックを受けたのか、はがっくりと肩を落とした。これほどに落ち込む彼女は珍しい、と綱吉は思ったが、それほど気にすることもないだろう。

「足をね、水につけるの。気持ち良いんだよ」
「気持ち良いだろうね。でも今回は遠慮しておくよ」
「そう?遠慮しなくて良いのに」

はそう言いつつ、水面に足を浸しパシャパシャと音を立てている。綱吉は胡坐をかきながらそんな彼女の横顔を見ていた。

「やっぱり優しいね、ツナ君って」
「え…そう、かな?そんなことないと思うけど」
「ううん、優しいよ。だってさっきわたしのこと気遣ってくれたでしょう?
 ほんとうに暑かったから、嬉しかったんだよ。ありがとう、ツナ君」
「別に…お礼言われるほどのことじゃないし…」
「そんなことないよ。わたしね、思うんだ〜。
 優しさに形があったらきっとツナ君みたいなひとのこと言うんじゃないかなって」
「…大げさだよ」
「それくらい優しいって言いたいの!そろそろ帰ろうか」

立ち上がり、足を拭くを何となく見上げていた綱吉は、どうしてか分からないけどおかしくなって、笑みを浮かべた。

「なにがおかしいの?」
「何でもないよ。ただみたいにひとのこと優しいって連呼する人珍しいなって思って」
「そうかな?思ったことそのまま言っただけなんだけど…それより今日はほんとにありがとう」
「ああ…うん、暇だったし、お礼したかったし。涼んでもらえたなら良かったよ」
「また来ようね。今度はツナ君もいっしょに」
「…うん、そうだね」

はしゃぐの背中を見つめながら、綱吉は心の中がとても穏やかになっていることに気づいた。穏やかというより限りなく平和に近い感じだ。 とにかく、といるといつもそんな気持ちになることに、遅れながら気づいた。また、守るものが増えたなと自嘲しつつ、の後ろを歩く綱吉だった。


綱吉 もし優しさが、形を持っているならば
070813