ガラッと威勢よく扉が開いたかと思うと、扉を開けた張本人 ―― は、扉を開けたまま執務机に身を乗り出した。 「雲雀くん!」 「…なんだい。いま僕は忙しいんだけど」 「それは分かってるよ。あのね! 今日川原で花火大会があるの!雲雀君知ってるでしょ?」 「…知らない」 残念そうにしているのかと思えば。は、この状況を楽しんでいるかのように微笑んでいる。知ってるくせに、とでも言いたそうな表情を浮かべている。 「知ってるって言ったら、行こうって言うんだろ」 「そう!さすが雲雀君!良く分かってるね!それでね、」 「言っておくけど、僕は行かないよ。興味がないから」 「雲雀君…」 「行くならほかの奴と行きなよ」 相手をするのも面倒だというように、ペンを走らせる雲雀を見つめ、は瞬時に黙り込んだ。 「じゃあ、山本君か獄寺君かツナ君誘って行くよ」 「うん、そうするといいよ。彼らなら喜んで行ってくれるんじゃない」 「…雲雀君のばか−!」 しばらくの間のあと、はそう叫ぶなり疾風のごとく応接室から出て行った。 開け放たれたままの扉は、何処か寂しさを残しているようで ―― いまの雲雀には、気づいていてもそれを閉める気にはなれなかった。 「どっちが馬鹿だよ…全く」 ため息をつき、雲雀が扉を閉めるために立ち上がったころには、太陽はすでに西に傾いていた。今ごろは、も部活のはずだ。 雲雀はしばらく考えて、沈んでいく太陽を眺めた。以前にも、こんなことがあった。散々断ったというのに ―― は。だけは、応接室の前で待っていてくれたんだ。 扉に寄り添うようにして座り込んで、僕が用事を済ませるまで、眠ってた。それがを好きになってしまった理由のひとつなのだけど。 そこまで考えを巡らせて、雲雀はしょうがない、とため息を吐いた。どうせ、今回も待っているに違いない。はああ見えて負けず嫌いだから、なおさら。 「…あ、雲雀君」 「…なに、してんの」 「前の時と同じだね。行ってくれる気になったんだ、花火大会?」 「…別に、気が変わっただけだよ。きみのために行くんじゃないからね」 「またまた、そんなこと言って優しいんだから、雲雀君」 「あんまりうるさいと行くの止めるよ」 「ご、ごめんなさい!ツナ君たちのは断っちゃったから、 いっしょに行けるのは雲雀君しかいないの…ええと…ほんと、ごめんなさい」 深々と頭を下げる少女を見つめ、雲雀は今更ながらどうしてこんな子を好きになってしまったんだろう、と考え直す。 出来ることなら、あのときに戻ってこの事実を帳消しにしてしまいたいけど、いくら僕でも時間を巻き戻すことは出来ない。 だからいまは ―― 大人しくこの事実を受け入れるしか、ほかに方法はないんだろう。時々、嫌だと思うことはあるけれど、仕方ない。 「もう良いよ、そのことは。ほら、行くんだろ?花火大会」 「 ―― うん!雲雀君、大好きだよ!」 「はいはい。認めたくないけど…僕もそう思うよ」 隣ではしゃぐを見つめながら、さっきの言葉は聞こえていたんだろうかと、彼女の表情を盗み見る(この様子だと、聞こえていないかもしれない) でも、それでも。まぁ良いか、と思えるのは ―― やっぱり、きみがすきだから、なんだと思う。 Mission impossible |