クラスメイトの阿部君は、はっきり言って格好良い。どちらかと言えば、なんていうレベルじゃなくて、ほんとうの意味で格好良いと私は思う。 ぱっと見は冷静沈着で無口そうなんだけど、実際はそんなことない。普通に話すし ―― だけど、初対面のひとから見たら無愛想に思われそうだな。 そう言う自分は、あまり話したことはない。席も近いし、出席番号も近いからよく日直とかいっしょになるんだけど、ほんとうに必要最低限のことしか話さない。 「さん、ぼけっとしてないで仕事片付けてくんない? 俺、このあと部活なんだけど・・・って聞いてんのか?」 「へ?あ・・・ごめんごめん。そうだったね・・・」 そう言って日誌に目を落とす。折角お話が出来るチャンスなのに・・・え?いや、別に阿部君となんか話さなくても良いんだよね! どっちかって言うと彼、個人的に苦手だし・・・なんていうか、近寄りがたいイメ−ジがあるんだよね。阿部君が苦手なひとは大概これが理由なんだと思う。 そんなことを考えていると、チョ−クが額にクリーンヒットした。発信源は ―― 聞くまでもなく、阿部君からだった。 「いったぁ!チョ−ク飛ばすことないでしょ!」 「仕事が遅いさんが悪い」 「だからってチョ−ク!おでこにチョ−クって、痛いじゃん!」 「なにが当たっても痛いと思うけど・・・そんなことはどうでもいいだろ。 そんなこと言ってる暇あったらさっさと自分の仕事片付けろよ・・・ほんとに遅れる」 「うっ・・・ごめんなさい・・・」 渋々、ペンを走らせる。そんなを、阿部は静かに見ていた。いままで、自分のなかの彼女は、やたら元気が良くてうるさい奴、としか思っていなかった。 けれどもいまみたいに、案外素直なところもあるんだなと、驚いた。ほんとうに、それだけの理由だ。それなのに、どうしてだろう? こんなにも、と話してみたい、なんて思っているのは。もっと、彼女のことを知りたいだなんて、思っているのは。 「ふう・・・よし、終了! ごめんね、遅くなっちゃって・・・もう行っても良いよ?部活」 「・・・ついでだし、近くまで付き合う」 「え、良いの・・・?」 「昇降口の近くだし、これくらい遠回りにはならねぇだろ」 「そっか、そうだね。ありがとう、阿部君」 「・・・別に」 なんだ、案外優しいところもあるんだ。そう思ったら、なんだか嬉しくなって、笑みがこぼれる。そんな自分に気づいたのか、阿部君が不審そうにしている。 何がおかしいんだ、とでも言いたそうな顔をしているのが、自分でも分かった。こんなこと言ったら、阿部君は怒るに決まっている。だから、言わない。 代わりに、なんでもないよ、と言った。もちろん、意味深な笑みつきで。そうしていると職員室が見え、阿部君は何も言わずに自分の横をすり抜けた。 「あの、阿部君。ほんとうにありがと!練習頑張ってね!」 「・・・お−。そ−だ、さん」 「ん−?なに?」 「俺と話したかったら、話しかけても良いから。気が向いたら相手してやるよ」 「え・・・いま、なんて・・・?」 聞こえていたはずだけど、阿部君は二度は言わず、片手をひらひらと振って廊下を昇降口に向かって歩き始めた。 え、えと、なんだろう。とりあえずいま、よく分からないけどすごく嬉しいのは確か。早速、あした挨拶してみよう、かな? 阿部 生まれたての季節 070906 |