「 い−ずみ− 」 「 ――― 」 「 泉、泉−! 」 「 … 」 「 孝介!変な意地張らないの!疲れてるのは分かるけど! 」 「 ―― はあ、なんだよ 」 「 やあっとこっち向いてくれた! 」 そう言って満面の笑みを浮かべ心底嬉しそうに話すのは、クラスメイトで野球部マネジのだ。もっといえばこいつは同じ中学出身だったりするのだが、あのころはそれほど接点らしい接点もなく、ただの「 同級生 」だった。だが幸か不幸か同じ高校になり、さらには同じクラスにまでなってしまった。おまけに野球部のマネジをやりたいだなんて言い出したもんだから、そう言われたときはすごく驚いた。最初はそれほど興味のなかっただけど、彼女のその一生懸命さに、ひたむきさに、無意識のうちにひかれていく自分がいた。そのことに気付いたのは、つい数カ月まえの出来事だ。それから少しずつ関わっていくようになり(気付いたら自分からそうしていたことに自分でも吃驚だ)、の告白を経て俺たちはつきあうことになった。そうしていまは、ふたりそろって部活帰りだ。 「 ねねっ、きょうってさ7月7日でしょ? 」 「 あ?ああそうだな 」 「 孝介は短冊になんてお願いしたの? 」 「 んなん、みんな願い事はいっしょなんじゃねえの 」 「 あはは、じゃあやっぱり甲子園に行けるようにってお願いしたんだ 」 「 悪いかよ、おまえだってそうしたんだろ 」 「 もちろんだよ−!あたしはね、孝介が甲子園に行けますようにって書いたよ! 」 「 …おまえなあ…。やっぱいいや、なんでもね 」 「 なになに?なんか用事? 」 「 ちげ−よ。で?きょうが七夕だったら、なんなんだよ 」 「 ああうん。今晩晴れたら星、天の川身に行かない? 」 「 今晩か…じゃあ俺がおまえんとこまで行くわ。 そのほうが静かだし、良いだろ 」 「 え、うん…良いけど… 」 「 なにがそんなに疑問なんだよ 」 「 断られるって思ってたから… 」 「 なんだ、んなことか。じゃあおまえ、俺のなんなんだよ? 」 言われて、みるみるうちに顔が真っ赤になる。「…彼女、」ポツリと言ってみれば、孝介は眩しいくらいの笑みを浮かべて「分かってんじゃん」と得意げに言った。ずるい。「孝介はやっぱり、ずるいよ」は顔を赤くしたまま、軽快にまえを歩く孝介の背中を見つめた。「じゃあ、夜にな」「あ…う、うん!夜にっ」孝介の家が見え、はぱっと顔をあげた。「もうついちゃった…」短い下校時間、それが唯一ふたりだけでいられる時間だった。それだけに、このときの寂しさと言ったら、計り知れない。でも。「今晩、逢えるもんね」つぶやいて、もう一度自転車にまたがる。の家までは、まだもう少し距離がある。 ★ 「、こっちだこっち」「孝介!は…早いねっ」「まあな。それより見てみろよ」孝介はそう言って、来たばかりのに手招きをすると寝ころんだ。「満天…!」「晴れたな」「うん!みてみて、天の川!きれ−」ドサッと、孝介の隣に寝ころぶ。クスッと孝介が笑ったような気がして、耳元がくすぐったい。はくるっと孝介のほうを振り返って、眼をぱちくりさせた。 「 な…なにがおかしいの? 」 「 いや、が子どもみたいだなあって思ってさ 」 「 なっ…こ、孝介だって子どもじゃ…? 」 「 なあ思ったんだけどさ、これって初デ−ト、になんのかな。良くわかんね−けど 」 不意に手が暖かくなったような気がして、文句を飲み込む。野球をしている孝介の手はごつごつしていて、だけどそれでいてとても優しかった。「そう…だね…」は消え入りそうなほど小さな声でそう言って、ただ星を見つめることだけに専念した。きらきら、きらきら。きょうも真夏の星たちが、歌うように瞬いている。と孝介は、寝転がるようにしてその星のきらめきを見つめてた。 「 な−、よ− 」 「 ん−、なに−?孝介 」 「 お前、甲子園ってそんなに行きたいわけ? 」 「 な−に?ほかの子が行きたがるのは良くって、あたしはだめってこと? 」 「 ちっげ−よ、どうやったらそうなんだよ。俺はその…の真意をだな、確かめたかっただけだよ 」 「 そりゃ行きたいよ!なんたって栄光の舞台だもん、みんな一度くらいは見たいと思うんじゃないかな? 」 「 そっかあ?野球初心者に言われてもいまいちピンとこね−なあ 」 「 むっ、その言いよう!じゃあ応援に行ってあげないからねっ孝介のばか! 」 「 はぁ?応援に来る来ないは自由としても、にばかとか言われる筋合いはないね! 」 「 き−!孝介って見た目のまんま、かっわいくないよね−!これでモテるんだから笑えちゃうよホント! 」 嫌味を込めてそう言ってやると、孝介は自信満々に「まあな」って言った。くやしいくやしい!昔から、なにやっても孝介にはかなかわなかった。運動でも、勉強でも、なんでも。ぷくうって頬を膨らませてるあたしを見かねた孝介はほんのちょっとさみしそうに笑って、ぽんぽんとあたしの頭をたたいた。「冗談だって。お前来てくんね−とモチベ−ションあがんね−んだよ」「しっ…仕方ないなあ…特別に行って、あげなくもない…よ?」「…かわいくないやつ」悪かったですね!生まれつきだから仕方ないでしょ!あたしが地団太を踏みたい気持ちでいると、孝介はわざとともとれるやや大きな声で「が応援に来てくれますように!」と星たちに向かって手を合わせていた。驚いたけれど、あたしも負けじと孝介の真似をする。「…孝介が甲子園に行って、勝ちますように!」 During a blink, it is a shooting star |