「−、−、どこにいるんだ−??」古くからこの屋敷に居ついている妖怪 ――――― と言う名前の座敷わらしを捜しまわること早一時間。流石のリクオでもそろそろ息が上がってきたころ、縁の下からひょっこりと顔をのぞかせたそれに、リクオはため息交じりに近づいてみた。「見ぃつけた」「わあっ!見つかってしまいましたか…粘りますね−リクオ様」くすくすと、楽しそうに少女は笑う。彼女こそがリクオが一時間以上もかけて捜していた人物、座敷わらしのだ。彼女はひとしきり笑ったあと縁側に座り込み、足をぶらぶらと遊ばせながらせんべいをかじっている。この姿も、もう見慣れたものだというのにぜんぜん飽きない。リクオはにならって彼女の隣に腰かけ、夏の終わりの景色に眼をすがめる。 「 もう夏も終わりですね− 」 「 うん、そうだね 」 「 そう言えば聞きましたよ、リクオ様。頭領になられたんでしょ? 」 「 え?ああうん…流石は情報早いね 」 「 わたし、ずっとこのお屋敷に居たんですよ?当然です 」 「 はは、それもそうだね− 」 「 リクオ様…?ほんとうはお嫌なのですか? 」 「 え、なっなにが? 」 吃驚して眼をぱちくりさせるリクオを見やり、ぱあっと笑みを浮かべる。「リクオ様を見ていれば分かります。あなたは人間として育ちました。だから…」「僕が妖怪の頭領になるのは嫌なんじゃないかって?」「あら、そう感じたんですけど違いますか?」「にはかなわないなあ。見た目はちゃんと子どもなのに」「生きてきた時間が違いすぎますからね−リクオ様がそうお感じになるのも無理はありません」はそう言ってほほ笑み、バリバリとせんべいを頬張る。リクオはまだなくなりそうにないな、とポケットに忍ばせていたせんべいに触れ、こっそりとため息を吐く。きょうはの誕生日だって聞いていたから、彼女の大好きなせんべいを用意したのに、手渡せるのはまだ先になりそうだ。 「 は…さ…どう思う? 」 「 はい? 」 「 人間の僕が、妖怪の頭領になるなんて言語道断だって思う? 」 「 そうですね…ほかの方々ならそう言ってもおかしくないと思います 」 「 そうだよね… 」 「 でも、わたしは違います 」 「 えっ 」 「 リクオ様。大切なのは、心です 」 「 心…? 」 「 はい。どうあるべきかではなく、リクオ様がどうなりたいかなのです 」 「 … 」 「 それを決めるのは、リクオ様です。 妖怪のわたしたちに、これから頭領になられる方の心を支配する権限はありません 」 「 む、難しいなあ… 」 「 ふふ、そうですね。でも難しく考えなくても大丈夫ですよ 」 「 そ、そうかな? 」 「 はい。道はすでに、開かれています…あとは、歩き続けるだけです 」 「 歩き続けるだけ… 」 水面に視線を落とすリクオを横目に見つめ、はそっと笑みを浮かべた。「!ありがとう!僕、やれるだけやってみるよ!」「そうですか、それは良かったです」「そうだこれ、きょう誕生日だって聞いてから」「わあ!こんなにたくさん…ありがとうございますリクオ様」がそう言って笑うと、リクオもへへへ、とはにかむように笑う。「と話してると、なんだか落ち着くなあ…」「嬉しいことを言ってくださいますね、リクオ様」「ほんとうだよ!はちゃんと妖怪なのに、どうしてだろう」リクオはそう言って、首をかしげる。じりじりと照りつける西日が、肌を焼き付けるように熱い。 「 さあ…それはわたしも分かりません。でもわたしも同じ気持ちです 」 「 ? 」 「 だからこそ、わたしはここを離れられないのだと思います 」 「 じゃあ、それがなくなっちゃったらはここにいられなくなっちゃうの? 」 「 さあどうでしょう。あるいは、そうかもしれませんね 」 「 う−…じゃあ僕、がここにいられるようにここを守る党首になるよ 」 「 大変でしょうけど、がんばってくださいリクオ様 」 「 うん!あっおじいちゃんが呼んでる!じゃあね−!また話そうっ 」 「 ええ、またいずれ 」はそう言って、祖父のもとへ駆け出すリクオの後ろ姿を微笑ましく見送る。リクオが誕生日にと差し出してくれたせんべいを手に、すうっと姿を消す。「リクオ様…大丈夫です。わたしがこのお屋敷にいる限り…きっと」不意にの声が聞こえたような気がして、リクオはふっと彼女のいたほうを振り返った。「もう…いない…?」「どうした?リクオ」のいた場所には木枯らしが巻き上がるばかりで、また「リクオや」と祖父に呼ばれたリクオは「あっ!うん、おじいちゃん!」と言って彼を振り返った。の姿はどこにも見当たらないというのに ――― どうしてだろう。まだここに、彼女が確かに存在しているような温かさがある。その温かさを、の居場所を守るために ――――― リクオはそっと、あらたな決意を胸に秘めた。 黄昏は甘くない |