「リリ−、ほんとに良かったの?お邪魔しちゃって」「当り前じゃない!ね−?ハリ−」「ね?」「…っ!(か、可愛い…っ)」玄関先で申し訳なさそうにあたりを見回していた・は、リリ−と顔を見合わせている彼女の息子・ハリ−の愛くるしい笑顔を見て、耐えかねるあまりハリ−を抱きしめた。「わぷ。く…ぐるじいよお姉ちゃん…」「ああごめんねハリ−、あんまり可愛かったからつい!パパは?」「シリウスのおじちゃんと、リ…リ−マス?さんを迎えに行って来るって!」「ええ、すこしまえにキングス・クロス駅に出かけたからそろそろ戻るわ。さああがって?お茶にしましょうね、ハリ−手伝って」「はあい」名残惜しそうにのほうを振り返るハリ−に、はニコッとほほ笑んで「また遊んであげるから!今度は”おじちゃん”たちといっしょにね?」「うんっ!」満面の笑みを浮かべ、小走りに母親のもとに走り出すハリ−を、まるで恋人をみつめているかのような瞳で見ていると、背後から不機嫌さを隠そうともしない聞き覚えのある声が降り注いだ。 「 お−お−、相変わらずずいぶんとお熱いことで 」 「 ―――― 出たわね、シリウス・ブラック!リ−マスにジェ−ムズ、ご苦労様! 」 「 うん、も久しぶりだね。元気だったかい? 」 「 うん!見てのとおり!リ−マスも元気そうじゃん。それになんだか、大人っぽくなった! 」 「 はは、そりゃあ最後に会ったのはええと…リリ−の出産祝い…だっけ?シリウス? 」 「 んあ?ああ、そう言えばそうだったな。五年ぶりくらいか? 」 「 へぇ−、もうそんなに経つんだ。言われてみれば、ハリ−も大きくなったもんねぇ 」 「 まあ、立ち話もなんだしあがってよ。おいしいお茶菓子があるんだよ− 」 ニコニコと、始終笑顔の絶えないかつてのクラスメイトを見ていると懐かしくなって、自然と笑顔になる。リ−マスやシリウスと顔を見合わせた・は、くつを脱いで足取りも軽く、リリ−たちのいるリビングに向かった。そんな彼女のあとに続くのは、「シリウス?きみまさか、まだ何も言えずにいるのかい?」「はあ?なんのことだよ」「シラを切るつもりだね。僕はぜんぜん構わないけど、そんな調子じゃあハリ−に横取りされちゃうよ?」「うるせ−、ハリ−はんなことしねぇよ」「分かんないよ?このごろの子どもってずいぶんお間瀬さんみたいだからね。まあハリ−にその気がなくても僕が…」「ハリ−!シリウスのおじさんだよ−!」「…やれやれ」なんていうやりとりをしていたシリウスとリ−マスのふたりだった。 「 …ね、? 」 「 ん、な−に?リリ−? 」 「 あ−もう、相変わらず可愛いのねぇは! 」 「 え?ちょ、リリ−?用事っ用事はっ 」 「 あらごめんなさい、わたしったら。シリウスのこと、ほんとうはどう思ってるのって、聞こうと思ってたのに 」 途端に、・の顔が熱を帯びて真っ赤になる。ちょうどいま、沸騰している薬缶のようだとリリ−は笑った。なぜって、のいまの反応こそが、いまでもシリウスを思っているというほかならない証明だからだ。そんなふうに言ったら全力で否定されるだろうけども、なんだかんだ、お似合いだと思うのだ。シリウスとは。それはなんとなく、学生のころから感じていたことで、ジェ−ムズとの関係を指摘されて嫌がっていた自分と同じだと思ったのだ。認めたら、なにもかも終わってしまうような気がしていた。とでさえ、もう友達でいられなくなるんじゃないかって妄信を信じていたくらいだ。だけどそれが間違いだったと言うことに気付くまで、そんなに時間はかからなかった。そのときはじめて、自分には素晴らしい仲間が、かけがえのない友がそばにいることを幸せだと思えたのだ。 「 言えば良いのに。すきだって 」 「 相手は”あの”シリウスだよ?それに…いろいろ、あるみたいだし 」 「 だから、シリウスはあなたに支えてもらいたいって思ってるってことよ 」 「 あり得ないわ、そんなこと…からかわれるに決まってるもの 」 「 またそうやってなんでも決めつけるんだから、は。あなた、シリウスをそんなふうにしか見ていないってこと? 」 「 ちが!そりゃあシリウスには問題視するところが沢山あるけど…それ以上に素敵なところが沢山あるんだから…! 」 「 ふふ、シリウスに聞こえるわよ? 」 「っ!」吃驚して、相変わらずハリ−とはしゃいでいるジェ−ムズとシリウスとリ−マスを振り返る。どうやら何も聞こえていなかったようで、ほっと胸を撫で下ろす。「大丈夫よ。きっとうまくいくわ、ふたりならね」「リリ−…」「ずっとあなたたちを見て来た親友がそう言ってるんだもの!がんばって」「ありがとう…リリ−、なんだかオトナになったね」「まあね。も早く恋を成就させて、いっしょに夫婦話しましょうよ!」務めて明るく話すリリ−だったが、は内心遊ばれているようにしか思えなかった。だけども折角のアドバイスだ、この際当たって砕けてみようとシリウスのほうを見やった。 「 ―――― なあ、 」 「 ん−?なに、シリウス? 」 「 リリ−となに、しゃべってたんだよ? 」 「 …え、そんなこと気になる? 」 「 …気になる。すげ−気になる 」 昼すぎ、買い物に行くと言って出掛けたポッタ−ファミリ−と、なぜだか同行させられることになったらしいリ−マスを玄関先まで見送って、いまはシリウスとふたり、リビングでくつろいでいる。なんでも、シリウスもすごく買い物に同行したがっていたらしいが、可愛い可愛いハリ−に留守番を任されてしまい、渋々ポッタ−家に居残ることになったのだ。もちろんそのなかには、も含まれている。ポッタ−邸を包んでいるのは、珍しくも静寂。その一言に尽きる。さっきまでの賑やかさがうそのようだ、とは何気なくあたりを見回した。不意に、じいっとこちらを見ていたシリウスと視線が合う。「ちょ、なに?」「だから、リリ−となに話してたんだ?って」「別に良いじゃない。大したことじゃないよ、うん」「大したことないんなら、教えてくれたって良いんじゃね−の?」「屁理屈−」「茶化すなよ」いつになく真剣な面持ちに、は躊躇いがちに唇を開いた。「な、なに真剣になってんの?そんなに大事なこと?」「大事なこと」「しょうがないなあ…」はあ、と盛大にため息を吐いて、は徐に唇を動かした。 「 …リリ−に、 」 「 リリ−に? 」 「 あ…あたしは、シリウスのことをどう思ってるのかって、聞かれちゃって 」 「 へぇ。…で? 」 「 で、って?それだけだけど? 」 「 はあ−?そうじゃねぇだろ。お前はなんて答えたのかって聴いてんだよ! 」 「 どうしてそこでムキになるのよ? 」 「 なってない!話をそらすな−!折角ハリ−がいない間に問い詰めようと… 」 「 ? ハリ−関係あるの? 」 「 大いにある。だってお前、ハリ−のことになると俺のこと眼中になくなるし 」 「………」え−と?それはつまり?「やきもち?」「うっせ!気付くのがおせ−んだよお前はっ」「うそ−!あのシリウスがあたしのことで嫉妬するなんて!しかも子ども相手に!」「だ−もう、だから言うの嫌だったんだよ!もうこの話は終わりだ、終わり!そろそろあいつら帰って来るんじゃね−のか」「ね、シリウス?」「あぁ?」ひょっこりと玄関先を覗き込んでいるシリウスに思いっきりハグをして、「あたしね。学生のころからずっと、シリウスのことがすきだったんだよ」「…おせ−よ」「へ?」「俺は入学式のころから見てた」「うそ…!」「ほんとほんと。お前ってほんとトロイんだな−。おかげでまあ、こっちは存分に恋愛を楽しめたわけだが?」「シリウスなんかもう知らない。ヘタレ!意気地なし!親馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿、ば…んっ」「すこしは落ち着け。馬鹿言いすぎだろ」乱れた呼吸を整えて、真っ赤になった顔を隠そうともせずに、は「シリウスの馬鹿−っ変態っ!」と大声をあげた。ポッタ−邸にの悲鳴がこだました直後、ちょうど買い物から戻って来ていたハリ−がリビングの窓からそんなふたりの光景を目撃していた。「子どもは見ちゃだめよ!」「やれやれ、どこまでも世話の焼けるふたりだね」「まったくだよ」「ママ!まえが見えないっ」彼らが窓辺でそんなやりとりが交わされていたという事実をとシリウスが知るまで、あとすこし。 君のいるところがつまりは世界 |