「 これは由由しき事態ですよフランシスさん 」
「 久しぶりに電話をよこしたかと思えば、なんなんだい菊。
  きみのそういう物言いは、とてもただならぬものを思わせるから心配だよ 」


 電話越しに、コポコポという一定のリズムが聞こえる。時刻は午後3時をすぎているから、おそらくはティータイムの準備でもしているのだろう。受話器越しの人物が、これから何を言わんとしているのか、なんとなく察しはついている、とでも言いたいのだろうか。受話器から聞こえる声の主・菊は、一瞬むっと頬を膨らませながらも、短く咳払いをして、彼に習ってお茶を一口含む。
 「のことです」「なにっだって?どうしたの?」先ほどとは打って変わってわかりやすく変貌した声音に、菊も思わず笑ってしまいそうになる。「があまり派手な衣装を好まないのは、フランシスさんもご存知ですよね」「ああ!そういうところもまたらしくて僕は好きなんだけどね!あっ」「コホン、フランシスさん。抜け駆けは感心しませんよ。それに」「わかってるよ−はア−サ−をすき、だろ」心底落ち込んでいるのが見て取れる。みな、のことを好意に思っているのだ。かくいう自分もまたそのひとり。だから、だからこそ。「には誰よりも、幸せになってもらいたいんですよ」「大人だなあ菊は」フランシスが紅茶を含んだ。少々の間が、それを証明している。


「 君の言いたいことはだいたいわかったよ。を大変身させて、ア−サ−の度肝を抜いてやろうって寸法だね! 」
「 そちらのドッキリ番組といっしょにされては困ります 」
「 だあいじょうぶだって。僕に任せて!本心はとっても不本意だけど美しく変身したを拝みたいからね!おっと怒らないでくれよ菊っ 」
「 ――― 事後報告と、変身後のの写真で許します 」
「 オ−ケ−任せておいて!じゃあ次の休暇に早速実行しよう!へはよろしく頼んだよ! 」

 意気揚々と電話を切るフランシスに対し「さっきまでの不満はどうしたんですか。まったく」と小さくぼやくに落ち着く。そうして、菊とフランシスの手筈どおり、週末にはフランシスの自宅を訪れた。
――― ピンポ−ン。
 インタ−ホンが鳴り終わらないうちに、今回自宅に招待した張本人・フランシスがすごい速さで玄関にやってきて、を出迎えた。「やあやあマイガ−ル!遠いところをよく来たね!」「(マイガ−ル?)こ、こんにちはフランシスさん。きょうはお招きいただいてありがとうございます」「いやいやこちらこそ!さあさあどうぞ中へ」恭しく手の甲に挨拶のキスをして、かわいらしい客人を招き入れる。


「 だ−れがマイガ−ルだ。くおら 」
「 あっ・・・・・・ア−サ−さ、ん!?どうして、ここに、 」
「 おう、久しぶりだな。なに、菊とフランシスが次の休暇に必ずこいつの家を訪ねろってうるさいから来てみたんだが 」
「 ?? フランシスさん??これはいったい 」
「 まあまあ。細かい説明はあとでするから!とりあえずこれに着替えてっ 」


  ふわっ ―――― 柔らかく風になびかれながら姿を現したのは、少し目立つ刺繍を施されたワンピ−スだった。「っっっっっっっっむ!無理ですフランシスさん!久しぶりに会ったかと思えば!ア−サ−さんの前でこの仕打ち!帰らせてもらいま、っ!?」「こうなることは想定内さ!レディたち、あとは頼んだよ!」フランシスが指を一つ鳴らすと、どこからともなく数人のメイドさんが現れて、をどこかの部屋へ連れて行った。「フランシス!?に変なことをしたら許さないぞ・・・・」「だいじょうぶさっ!それより心の準備をしておくんだぞア−サ−!」「なんか胡散臭いテンションだなあ。なんだよ心の準備、っ、て・・・・・?!」ア−サ−が深呼吸をしたのもつかの間、ものの数分でやんやん言っていたたちが部屋からひょっこり姿を現した。


「 ?? どうしたんだよ、そんなドアの端に隠れて? 」
「 ―――み、みないでくださいっ 」
「 だいじょうぶですわさま、自信を持ってください 」


 トン、とメイドに背中を押され、勢いそのままにバランスを崩しそうになる。「おっと、だいじょうぶか」「は、は、い、」「!!」すかさずの肩を抱き、彼女の転倒を防いだア−サ−は、これまでみたこともないくらいその瞳を輝かせていた。「っかわいい!」「もとからさ」「フランシスさん!どういうつもりですか!」「怒るなら菊に直接頼むよ。僕は頼まれただけなんだからね!そうだア−サ−、せっかくだからこのままデ−トにでも出かけるといいよ!僕はこのあと約束があるからね!それじゃあ!」「えっちょっフランシス!?デ−トってどこに・・・・い、いない」を肩に抱いたまま、フランシスの行動の速さにただただ息をのむふたり。


「 ったく、フランシスと菊のやつ。、だいじょうぶか? 」
「 穴があったら埋まりたい・・・・です・・・・・ 」
「 よく似合ってるよ。は、パンツスタイルが多かったからな。フランシスじゃないけど・・・・・どうだ、出かけるか。久しぶりに 」
「 ア−サ−さん!はいっ 」
「 ホントは、人目につけるのも嫌なんだけどな−、仕方ない。お手をどうぞ、お姫様 」


 先刻、フランシスが触れたほうの手の甲を手に取り、軽く舌を這わせる。消毒だ。くすぐったかったのか、が一瞬身震いをした。「?」「っなんでも、ないです」「顔が真っ赤だぞ?」「ア−サ−さんといっしょだから、ですっ」「・・・・攫いたくなるかわいさだ」「??」きょうはお出かけ日和。だいすきなあなたと手をつないで、どこまでいこう?



指の先からとろけるような錯覚
親愛なるす−ちゃんへ!遅くなってごめんね!