ひやりと冷たい空気の中、は真っ赤になった手のひらを温めるように息を吐きかけながら、とある人物を待ちわびていた。数時間前までは確かにここの家主は存在していたのだけども、「ごめん、これから仕事なんだ。終わるまでしばらく時間かかるかもしれないけど…待ってる?」と言ってとひと言、二言言葉を交わしただけで早々に出て行ってしまったのだ。きょうがいちばん忙しい日だって分かっていて来たんだけども、やっぱりこんな大事な日にふたりでいられないのはどこか寂しいものがある。 「 フィンランドさん…まだかなあ… 」 サンタさんの格好をしたフィンランドさん、可愛かったな ――――― ふとそんなことを思い出してみたら、ふっと笑みがこぼれた。花たまごくんも連れて行くと言っていたから、いま家の中はだれひとりいない。いつもなら明るく出迎えてくれるデンマ−クさんだったりスウェ−デンさんだったり。「なに突っ立ってんの?入りなよ」なんて無愛想にも歓迎してくれるアイスランドさんだったり誰かしらいるのに、人の声ひとつしないフィンランドの家はやっぱりどこか寂しい。「フィンランドさん…」ポツリと名前を呼んで、はあっと息を吐く。それなりに温かい格好をして来たつもりだったのだけど、感覚がなくなってしまいそうだ。自由にしていて構わないとも言ってくれていたから、すこしだけお邪魔させてもらおう。 「 温かい… 」 ぱちぱちと火の粉の散っている暖炉のまえに立って、はあたりを見回した。テ−ブルの上にはたくさんの手紙だったり世界地図がテ−ブルの大半を占拠していたり。テ−ブルの下にもいくつか手紙や写真が散乱していた。こどもたちの、たくさんの笑顔。世界中のこどもたちが、毎年この日を楽しみにしている。フィンランドはそれが楽しみだからこの仕事はやめられないんだっていつか話していたけど、それじゃあフィンランドたちはどうなるんだろう?恵んでばかりで、自分たちは?そんなふうに思ったから、きょうここに来た。出来ればクリスマスの間にフィンランドにプレゼントしたかったのだけど、果たして間に合うだろうか。寒いだろうから何か温かいものを用意して待っておこう。はそんなふうに思って、キッチンに立った。後片付けを終えてココアを飲んでいると、ウトウトと睡魔に襲われた。暖炉のまえだから、余計に眠気を誘う。「だめ…」寝たら、だめだ。笑顔でフィンランドを出迎える計画だったのに ―――― 意思に反して、はとうとうソファ−に寄りかかった。 ・ ・ ・ 「ただいま−。?」流石にいないよな、と思いながら玄関をくぐってあたりを見回す。そうして最初の異変に気付いたのは、キッチンだ。キッチンから良いにおいがして、フ−ドを脱いだフィンランドは徐にキッチンへ向かった。鍋のふたを開けてみれば、そこには温かくおいしそうなシチュ−。きっとが帰って来たらお腹が空くだろうと思ってつくってくれていたのかもしれない。じゃあ、愛しく優しいそのひとは、いったいどこへ行ってしまったんだろう?フィンランドはコトンと小首をかしげて、ふと暖炉のまえのソファ−に眼を向けた。見覚えのある茶髪の髪が、重力に比例して崩れていくのが見える。 「 … 家で休んでいれば良かったのに… 」 フィンランドはふっと表情を和らげて、羽織っていたサンタのコ−トをに着せた。「ん…?フィンランド…さん…?」「、起きた?」「あれ?わたし…」「寝ちゃってたみたいだね。寝顔、可愛かったよ」「!」途端に、が耳まで顔を真っ赤にして寝ぼけ眼だった瞳を見開く。そのすべてが、狂おしいほど愛おしい。「?」「は、はい?」「僕、たったいま仕事から戻ったんだけど」「あっ!えと…おかえり、なさい…」「うん、ただいま。待ちくたびれたでしょ?ご飯にしようよ」「え!で、でもフィンランドさんこそお休みになられたほうが!」「大丈夫だよ。それに、待っていてくれたになにもしないなんて…、僕、恋人失格じゃないか」「フィンランド…さん…」ニコッとほほ笑んで、差し伸べてくれたフィンランドの手を取って、テ−ブルに座る。 「 あの…ごめんなさい。わたし、勝手にあがっちゃって 」 「 うん、大丈夫だよ?僕のほうこそ、すぐいなくなっちゃってごめんね? まさかが来てくれるなんて夢にも思わなかったから… なにか、大事な用事だったんでしょ? 」 「 う、うん…でもいまはご飯ご飯! 」 「 ―――― まあ良いか。うん、そうだね。そうしよう 」 一瞬眉間にしわを寄せたフィンランドの表情を見逃さなかったは、内心申し訳なく思いながらもライスとシチュ−をふたり分よそった。「流石はだね、すごくおいしいよ」「ふふっ、ありがとうございます」「この演出はプレゼント…じゃあないのかな?」「え?ああえと…フィンランドさん仕事帰りでお腹すいてたらって思ったから…その」「違うのか−、残念だなあ」すこしだけ寂しそうに笑みを浮かべるフィンランドに申し訳なくて、はしょんぼりと肩を落とした。 「 ご、ごめんね!他意はないんだ!ただプレゼントだったら良いなあって言う願望って言うかなんていうか! 」 「 …ふふっ 」 「 …? 」 「 フィンランドさん、正直すぎです… 」 「 え?ええと…ごめん? 」 「 謝る必要なんてないですよ。それに、プレゼントならちゃんとここにありますし 」 「 え? 」 相変わらず首をかしげたままのフィンランドのそばにくすくすと笑みを浮かべながら近寄って、はそっとフィンランドに口づけた。それとほぼ同時刻にボ−ンボ−ンと、フィンランドの家の柱時計が12時を告げた。まるでウェディングベルみたいだ、とが笑う様子を愛おしく見つめながら、フィンランドはぎゅっと彼女を抱きしめた。「その笑顔は反則だなあ…。ねぇ、」「え?」「最高のクリスマスプレゼントだ。すこし、時間はすぎちゃったけどね」「はい」「」「なんですか?」「…あいしてる」「フィンランドさん…!わたしもです」「結婚、しよう」「え…ええっ?どうしたらそのような展開に…!」「がウェディングベルみたいだなんて言ったからだよ。それに、これは僕がずっと言おう言おうと思っていたことだったんだ」「フィンランドさん…そうだったんですか…」「それで?」「え?」「返事は聞かせてくれないの?」依然として笑顔のままのフィンランドに、一瞬頬を膨らませただったが、やがて笑みを浮かべた。「もちろんです。フィンランドさんのお言葉、お受けします」「ありがとう、」温かな灯に照らされたふたつのシルエットが、やわらかく重なった。 他意はない。期待と願望はあったかも |