は時々、自分の魅力にぜんぜん気付いていないんじゃないかって思うことが度々ある。それは幼馴染時代のころから感じていたことだけど、ひとりで生きて行くって決めてからも変わらないことだった。はほんとうに、変わらない。もちろん良い意味で、だけどどうして誰ともかかわりを持とうとしないのか、このことだけはいまも昔も分からなかった。そしてたぶん、これから先も分からないんじゃないかって思う。は仕事も卆なくこなすし、家事に至ってはピカイチだ( 料理もすんごくおいしいし入れてくれる紅茶も珈琲もお店のもののようだ )。ファッションセンスもまあまあだし、時代遅れと感じることもあまりない。ただ不釣り合いな内面が、見た目に反して奇妙な全体像をつくりだしているのかもしれない。


「 そのギャップもまた、魅力のひとつだったりするんだけどね− 」
「 …はい?なにか、言いました?アルフレッド、さん? 」
「 いんや、なんでもないさ。それよりすまないね、。ア−サ−の留守に付き合わせてしまって 」
「 これくらい…当然です。こちらこそ すみません…、ちょうどいないとき に、予定を入れて…しまって… 」
「 大丈夫さ、無理をすることないよ。悪かったよ…きみの内面を忘れていたわけじゃないんだけど、忙しくてね 」
「 兄さんから…聞いて、ます…。大変、でしたね 」
「 はは、大変なのはまあ現在進行形なんだけどね。それよりア−サ−いつごろ戻るって? 」
「 あっ…えと、お昼過ぎには戻る、と… ル−トさんのお宅で、お食事に…呼ばれてる みたいです 」


「そうなのか!」ぽん、と手をたたいてどこか嬉しそうにそういうアルフレッドをどことなく不思議そうにみつめていた○だったが、不意に我に返って「はい」と返事をした。いまここにいる幼馴染のひとり、アルフレッドは兄と仕事の関係で兄の家に来ている。だが運悪くル−トに会合を持ちかけられたア−サ−とはあいさつを交わす程度で、入れ違ってしまったらしい。で、待たされることになったアルフレッドの相手を頼まれていた○がしぶしぶ顔を出したというわけだ。別段、特にアルフレッドのことがキライというわけではないのだが、人づきあいもろくになかったにとって、たとえ幼馴染といえどしばらく会わない人間と逢うことはすこしばかり勇気がいることなのだ。


「 そうだ、。お昼、まだだろう? 」
「 え?あ…はい… 」
「 良かったらたまにはいっしょに食事にでも行かないかい? 」
「 え…っ!で、でもっ…兄さんにもなにも、言ってない し… 悪いです 」
「 は、そんなに俺のことが嫌いなのかい…? 」
「 ち!違います…!そういう問題では、なくて…!往来の多い、ところに…行きたくない だけです… 」


迂闊だった、とアルフレッドは心の中で小さく小さく舌打ちをした。いまこそがそういう性格だって言うことを再確認していたばかりだったのに、と目の前にいるを申し訳なく思いながら「大丈夫、人気の少ないレストランさ。人目も気にならないし、もちろんおごる。どうだい?」「う−…でも…」「大丈夫!ア−サ−だっていまごろはル−トとおいしい料理を食べてるんだ、怒られたりしないさ」「でもぉ…」「大・丈・夫だって!君は俺のヒロインなんだ、なにがあっても守るよ、絶対」「アルフレッド…さん…」「さあ行こう!しっかり手をつないでてね」と言うやりとりのあと、半ば強引にの腕を引っ張るとア−サ−の家を飛び出した。家から出たのなんて、久しぶりだ。


「 どうだい?たまには外の空気も良いもんだろ 」
「 はい…!すごく、新鮮な気がします… っ!? 」
「 ?どうしたんだい?突然眼を見開いたりして 」
「 かお、 」
「 顔? 」
「 顔、が…近いです… アルフレッドさん…! 」


鼻と鼻がくっつきそうなほど至近距離で、いつものようにきょとんとしているアルフレッドの顔がある。の言葉を聞くなりアルフレッドはに、と悪戯っぽく笑ってすこしだけ名残惜しそうにと適当な距離を置いた。それから一時間ほどアルフレッドと昼食の時間をすごして、そろそろ兄が戻るころだと言ったによってふたりは一路、家路につくのだった。「どうだい?たまには外食も良いものだろう?」「はい…!すごく おいしかったです。あ…いろいろ、すみません…わたしのほうがおもてなしを、しなくちゃならない のに」「平気さ!と沢山話せて楽しかったし!おもてなしって…また難しい言葉を使うんだなあ。菊のこと、すこし勉強してるみたいだな」「は、い…なにも知らないまま、では…失礼、ですので」「」そう名前を呼ぶと、アルフレッドはぽんぽんとの頭をたたいて、やんわりと笑みを浮かべた。その笑みはいつものお調子者がみせる笑顔ではなくて、すこし大人びた優しい笑顔に、は思わずドキリとしてしまった。



「 嬉しかった、です 」
「 ん?なにがだい? 」
「 守るって… あたし、は…アルフレッドさんの、ヒロインだって…言ってくれた…こと 」
「 … 当然じゃないか!いまも昔も、俺のヒロインはだけなんだよ! 」
「 アルフレッドさん…!でしたらあたしの、ヒ−ロ− も、アルフレッドさんだけ、ですね… 」
「 …?それ、本気かい? 」
「 え、 」
「 でもだめだな。きっときみのことをすきなひとは沢山いるだろうし…なによりア−サ−が怖い 」
「 ? …?? 」
「 はは、あまり深く考えなくても大丈夫さ!さあ着いたぞ!これからは仕事の顔だ、 」


「あ…はい…!」キィ、と玄関を開け、アルフレッドに家の中にあがるように促す。廊下を歩くアルフレッドの背中を、は瞳を眇めてみつめていた。きょうこの屋敷に来てくれたのが、アルフレッドで良かったといまなら素直に喜べる。ふたりの仕事が無事に終わるよう祈りながら、はまた自室に戻り本を開いた。窓から差し込む日差しが、まどろみみたいに温かくて、心地よかった。



プリズミック・メランコリー