![]() 「ええ!先生のことをすきになったですって!?」神妙な面持ちで頷いてみせたけども、目の前にいる大親友にはその重大さがいまひとつ伝わっていないようだ。彼女は飲みかけていたパックのジュ−スを盛大に机上から落とし、がっしりと・の肩を掴んだ。ただそれだけなのに、この間のフィンランド先生との出来事を思い出して、顔が真っ赤になってしまう。「ほんとう…みたいですね」「え?」「だって、滅多に顔を真っ赤になんかしないが、すっごく真っ赤だもの。きっとこれは本気の恋ですよ!」どうしてだか力説している親友をみつめ、どう返事をして良いのか分からない。 「 でも、意外 」 「 ん、なにがですか? 」 「 そんなの不当だって、猛反対されるのかと思ってた 」 「 そりゃあ、反対したい気持ちはありますよ?なんだって大事な大事な親友を誑かしたんですものね! でも…の眼を見ていれば分かります。本気なんだって。ほんとうに、すきなんだって 」 「 ハンガリちゃ… 」 「 それに!自分のことには超鈍感なあなたがやっと見つけた恋の相手ですもの!応援しないわけにはいきません 」 「 ありがとう… ハンガリ−ちゃんだいすき! 」 「 当然です!ですけど…そうですね、ただじゃは渡せませんわ 」 「 ―――へ?ハンガリ−ちゃん? 」 「 コレ一発で譲歩しましょう。なんですか、?すっごく顔色が良くないですよ? 」 当然だ、とため息も吐きたくなる。何をするのかと思えば、親友のハンガリ−が取り出したものはいまや情備品となっている(=武器化している)フライパンだ。と親友同士になってからというもの、彼女はに不当な輩が近づこうものなら手持ちのフライパンでことごとく追い払ってきていたのだ( そもそもが恋愛を出来なかった原因は彼女にあると、いまにしてみれば思えなくもないが )。やはり彼女の基準は多少…いやかなりズレているようだ。それほど大事に思ってくれている、と思うと嬉しくもなるがこぼれそうになるため息はどうしようもない。 「 それにしても…! 」 「 ん、なに? 」 「 禁断の恋ですね…!生徒と教師なんてっ 」 「 ハンガリ−ちゃん…なんか楽しそう… 」 「 楽しいですよ−!っ、がんばってくださいね!あっもうこんな時間!ごめんなさい、委員会まで待てなくて 」 「 ううん、平気。ハンガリ−ちゃんにこのこと、話しておきたかっただけだから 」 「 …話してくれてありがとうございます!それじゃあまたあした 」 ハンガリ−は去り際、ぐっとガッツポ−ズをしてみせると、軽くウインクなんかを寄こした。よっぽど嬉しいらしい。ハンガリ−は親友であると同時に、自分にとって姉のような妹のような母親のような、家族みたいな感情を抱いている。だからこそ、話した。担任の先生を、すきになってしまったんだって。そう、あのときが言った「すきなひと」とはあの時点では単なる思い付きで、すきなひとなんていなかったのだ。つまりは、フィンランドがひとりで勝手に取り乱していたことになる。その時の様子を思い浮かべるとおかしくなるのだが同時に、恥ずかしくもなる。にとってあの出来事は、彼をすきだと気付かせるには十分な出来ごとだったからだ。秋の午後、委員会までの時間を教室で潰していたをみつめる瞳が複数あることに、やはりは気付かなかった。 ・ ・ ・ ・ 洪 「 ね?聞いたとおりでしょう? 」 英 「 くっそ−まじかよ!俺のがフィンランドなんかに…! 」 米 「 なんだって?英、いくら冗談にしたってたちが悪いよ!は僕の…わあロシア、くん!きみいつの間にっ 」 露 「 悪いけどさっきからずっといたよ。日本やほかのみんなもね 」 英 「 んな!?おまえらなにをぞろぞろとっ… 仕事はどうした、仕事はぁ! 」 洪 「 英さん、し−!に気付かれちゃいますよっ 」 英 「 す、すまないハンガリ− …頼むからそのフライパンしまってくれ 」 親友と英語担当教師と生物担当教師、そしてこのメンツに不釣り合いな体育界系の彼までもがのいる教室を覗き込んでいる。そんな中 ―――― 「ゴホン」という盛大な咳払いが背後から聞こえて、「きみたちなにしてんの?揃いも揃って」と言うどこか皮肉めいた、哀愁漂う声色が聞こえた。物理担当教師の、アイスランドだ!「なあんだ、吃驚したあ…アイスくんか」「仕事はどうしたの、あしたの準備は」「これからやるよ、言われなくても!」「なんの集まり?なにかの宗教?」「違いますよ先生、ですよ」「…?」しばらくアメリカやイギリスと話していたアイスランドだったが、人だかりの先頭にいたハンガリ−が指さした方向を見やるとやんわりと口角を曲げ、表情を緩めた。 愛 「 …可愛いな 」 洪 「 そりゃあわたしの大事な大事な親友だもの…って、え?先生、いまなにか言ったかしら? 」 愛 「 聞こえてたのにそういうこと聞くんだ? …意味分かんない。 あんたもだいぶゆがんでるよね… はいはい分かりました、センコ−はおとなしく職員室に戻りますよ 」 英 「 なんなんだあいつ… あいつも狙いか? 」 独 「 さあなあ…分からん 」 伊 「 うわあドイツ!ていうか理数系のきみたちでも分からないんだね…あしたの職員会議の議題はこれに決まりだねぇ 」 独 「 ふざけるなイタリア。これは重大な問題なんだぞ、 」 伊 「 うわ−ん、ドイツが怖い−うえぇぇぇぇ 」 英 「 ばっ、イタリア!大声で泣くんじゃない!流石にに気付かれ… ん? 」 「 ―――― なにしてんですかみなさんお揃いで? 」 英 「 いやそのっ… あっこらみんな!俺だけ残して消えるんじゃね−! 」 「 説明していただけませんか?ちょうどこれから委員会なんです、道すがら…ね? 」 英 「 はは、は… ハンガリ−… 」 の満面の笑みを見ることが出来て両手をあげて喜びたいイギリスだったが、どうやらそういう状況でもないらしい。こんなことになるならおとなしく職員室で仕事をしていれば良かったと悔やまれる。しかしまさに後悔先に立たず、過去を悔むよりこれからの対応を考えるのが得策だと考えたイギリスは、「すまん、!」と言って全力疾走を試みた。「え、あの…いったいなにがなんだか…っ」突風のような速さで消え去ったイギリスを、はただただぼんやりと見送ることしかできなかった。が委員会のことを思い出したのは、委員会が始まってすこし経ってからだった。 光と虹のメンタルヘヴンリー |