「うわ、あ…どれもおいしそう!」 「でしょ!全部僕が作ったんだよ−、すごいでしょ」 「すごいです!以前一度フランスさんのパ−ティに呼ばれたときも感動しましたが、 やっぱりイタリアさんも料理がお上手ですね…!わたし、本場のパスタははじめてなんです!」 「良かった−、じゃあさめないうちに食べようよ!」 早速フォ−クに手を伸ばすイタリアを見つめ、は目を眇めた。ほんとうに、子供のようだ。無邪気で、疑うことを知らない。 イタリアを見ていると、子供のころの自分を思い出す。あのころは自分もほんとうに子供で、何も疑わずに周囲を受け入れていた ―― だけど。 瞳の内にこそ本物の世界があるのだということに気づけなかった自分は、それがすべてを失うことになるのだということを知らなかった。 どうして、なんていまでも分からない。だけれど、もう何かを ―― 目のまえにある命を、笑顔を失いたくはない。だから。は小さくため息を吐いて、フォ−クに手を伸ばした。不意にイタリアと目が合い、一瞬ぎくりとした。感づかれたわけではないのに、何か不思議だ。 「、どうしたの?もしかしておいしくない?」 「いいえ、そんなことはありません。ただちょっとぼんやりしてしまって…いただきますね」 「?うん」 少しさめかけたパスタをフォ−クにさし、くるくると巻いて口の中に収める。程よく茹で上がったパスタが、少しずつ口の中に溶けていく。 「ん−、おいしいです!無理をしてお食事会に来た甲斐がありましたね…!」言いつつ、目を輝かせていると、ニコニコと笑顔を浮かべているイタリアが目に入った。 そのイタリアは「良かった、…元気になったね〜」と、いつもの陽気な声でそう言った。笑顔は、ほんとう、だ。どうやら、ほんとうに心配していてくれたらしい。 「…すみません、折角の楽しい席なのに、心配させてしまって」 「ぜんぜん!ドイツにが最近忙しそうだって聞いてたから…元気かなあって気になってたんだあ」 「イタリアさん…!大丈夫ですよ、もう元気になりました!イタリアさんの笑顔のおかげですっ」 「…、でも無理は良くないよ。いろいろがんばってるみたいだけど…」 「だけれど、いまはがんばるときなのです。もう少しの辛抱ですわ」 言って、水を口内に含む。それにしても…イタリアにまで心配されるとは。よほど無茶ながんばり方をしていたのだろうか。そんな自覚はなかったのだけれど、 あの能天気なイタリアがこれほどまでに気遣ってくれるのだ。きっと、気づかないうちに無理をしすぎていたのかもしれない。現に、いま招待されている「食事会」にだって、 あとどのくらいあるか分からない時間を削りに削って参加させてもらったものなのだから、言い訳は出来ない。ドイツにも、あとでお礼を言っておかなくちゃ。 「ね−…あのさ」 「はい、なんですか?」 「僕のこと、どう思う?やっぱり弱いって思う?強くなるべきかな…」 「どうなさったんですか?いきなり」 「いきなりじゃないんだ。ずっと気になってたことなんだけど…。 うん、の言いたいことは分かるよ。この僕がこんなことで悩んでるなんてらしくないって…でも」 「イタリアさん…」 名前を呼んで、イタリアを見据える。彼の顔には、普段の様子からはあまり連想されないが、けれども確かに苦悩の表情が浮かんでいた。はグラスを置き、そうですね、と呟いてからひとつ呼吸をおいた。そして、まっすぐにイタリアを見据えて「確かに、外の国からしてみれば最弱なのかもしれません」と言った。 そうするとイタリアは「やっぱり…」と肩を落とした。はその様子を見、噴出しそうになるのをこらえながら「ですが」と続けた。 「イタリアさんは、無理に強くなる必要はないとおもいます」 「…?どうして?」 「イタリアさんの軟さは、強さだと思うからです。そしてそれは、どの国にも真似の出来ないことなんです」 「…喜んでいいのか分からないよ」 「ふふ。喜んで良いんですよ、イタリアさん。 けして侮辱しているわけではないのですから…むしろ賞賛しているのですよ、わたしは」 「そうかなあ…そんなふうには聞こえないけど…」 「そこはお好きに解釈していただいて構いませんが…わたしはすきですよ、イタリアさんのそういうところ」 ひと通り言ってしまってから、はふんわりと笑みを浮かべた。しばらくしょげ返っていたイタリアは、ぱっと顔を上げて「…それ、ほんとう?」と嬉しそうに笑った。 やっぱり、イタリアは子供みたいだ。は先ほど自分の思ったことを再認識するように、うんうんと頷いた。それにしても ―― には、不思議に思うことがもうひとつあった。 「あの…イタリアさん?わたしからもひとつお聞きしても良いですか?」 「うん、良いよ−?なに?」 「あのような質問をされるということは、少なからず強くなりたいと思っているからですよね? どうしてそのようなことを思われたんですか?…て、こんなことを聞くのも的外れな気がしますけれどね」 「そんなことないよ。でも、これ聞いたら驚くかも…」 「わたしが、ですか?驚きませんから、言ってみてください」 「う−んとね、それは…」 イタリアはわずかに身を乗り出すようにして、の耳に近づき「を守れたらなあって、思ったからだよ」と言った。の高らかな笑い声が周囲に響くのは、数秒後のこと。 どうやらふたりのディナ−は、穏やかに進行しそうです。 シャルマンアゲイン |