「国際環境会議」 ―― これが今回の、公に表されている名目。議題はもちろん、環境に関しての現状報告と対応策を思案するものだった。 今回の会場はの国なのだが ―― 会場に選ばれた理由は「自然が豊かで、議題に最も相応しいから」という至ってシンプルなもの。 もちろんこの話を打診されたときは、も喜んで会場を開いたというわけなのだが ―― いまひとつ、まとまりが良くない。個性派揃いの所為なのかもしれないけれども。

「いちばんの元凶はアメリカにあると思うな、俺は」

そう、食って掛かるように言ったのは疑うことなくイギリスで、はまたか、とため息を吐きたくなった。もう、この議論も何度繰り返されたことだろう。 不意に隣を見てみれば、ドイツもおんなじことを思っていたのか、大げさにため息を吐いて腕組みをした。こんな調子が、もう三時間以上も続いている。 これ以上は、時間と経費の無駄遣いだ。それは、だけでなくドイツやスペイン、もしかしたらアメリカ自身もそう思っているかもしれない。 とにかく、諸外国の面々がまたか、とおなじように思っているに違いない、とは思った。肩をすくめ、は「ですから、アメリカさんにも協力してもらいたいのです」と言った。

「う〜ん、そうは言ってもね−…」
「確かに、燃料の消費は途上国にとっては不可欠なんだろう…だが、」
「分かってるよ、ドイツ」
「なら、少しはその消費を削減する手段を考慮するべきなんじゃないのか?」
「…やれるだけのことはやってるつもりだよ」
「…結局は、国民ひとりひとりの力が不可欠ということになるんですね」

先を見越して、先ほどまで書類を眺めていた日本はそう言って、議会の面々を見渡した。…確かに、それがいちばんの不可欠要素だ。 けれども、それだけでは環境汚染を食い止めるにはまだ到底足りない。国をあげて、有効的にやらなければそれこそすべてが無駄に終わってしまう。はドイツを見やり、彼が頷くのを確かめて「では」と言葉を発し、日本とおなじように諸外国の面々を見渡した。

「国民に協力を求めるよう声をかけるとともに、わたしたちも資源を使いすぎないよう考慮していきましょう。
 それで、どれだけの効果が見込めるかは分かりませんが…次回の会議でまたご報告していただけるように、
 最低限のデ−タは用意しておいてください」
「そのためには、国民のみなさんにいまの地球がどんな現状か理解してもらう必要がありますね」
「そうですね。…窮地にあることは否定しようのない事実ですから、そのことを重点においてお伝えするのが最良でしょう」
「そうですね…じゃあ、その方向で。みなさん、いっしょにがんばりましょう。ご協力よろしくお願いします」
「了解−」
「分かったある」
「承知した」
「イタリアさんは…えっと…」
「大丈夫だ、俺も手伝う」
「ドイツさん…ありがとうございます」

はそう言ってふんわりと微笑み、書類の束を閉じた。議長の「これをもちまして、議会を終了いたします。お疲れ様でした」という言葉を最後に、 席を立つ代表たちが徐々に多くなってゆく。の反応にドイツは「あ、いや…」と言葉をにごらせたが、その様子を快く思わない人物がいた。

「ドイツ、抜け駆けは禁止だよ−」
「な…!イタリア、それにイギリスまで…なんなんだいったい」
「しらばっくれても無駄だからな−。お前、会議中ちらちらのこと見てたじゃね−か」
「イ…イギリスさん?それはドイツさんがイエスかノ−の合図をくださっていただけで…」
ってなにかとドイツの肩を持つよね」
「ロシアさん?お帰りになられたのでは…!」
「そのつもりだったんだけど、なんか騒がしかったから気になって戻ってみたんだ。
 ちなみにアメリカと日本と中国と…結構みんな残ってるしみんな気になってるみたいだよ?」

「え、」ととドイツはお互いに顔を見合わせ、野次馬の中にまぎれている彼らを見つめた。否定できないのだろう、彼らも何処か困ったように笑みを浮かべた。 え、ええと、とが言葉を濁していると、その様子に見かねたらしいスイスが「が困っているだろう、その辺にしたらどうだ」と言った。 それを聞いたは「スイスさん…」と瞳を輝かせた。にぎやかだった空気が一変し、「むっ」とした雰囲気に変わる。周囲の暑い視線を感じたらしいスイスは、 身の危険を悟ったらしく「…なんだ」としどろもどろになりながら言葉を発した。

「…当然のことを言ったまでだ。貴様らにとやかく言われる筋合いはない」
「スイスてめ−!はぜって−渡さね−かんな!」
「あっ、イギリス!きみやっぱりとよりを戻そうとしてたのか!」
「なにっ、それはほんとうなのかイギリス!」
「え、ええと…?アメリカさん、ドイツさん…よく意味が分からないのですが?」
「いまのは爆弾発言だと思うのですが…イギリスさんは気づいているんでしょうか…」
「ん−気づいてないと思うね、あれは」
「やっぱり…ロシアさんもそう思いますか…」
「うん。ていうか気づいてないのは言った本人だけだと思うよ。不憫だよね、イギリスって」
「ロシアさん…笑顔が怖いですよ」

「何か言ったかい?日本君」ロシアは先ほどと少しも表情を変えず、身の危険を感じたらしい日本は少しだけ身震いをして「…いえ、なにも」とだけ言った。 状況が飲み込めないは、急に騒がしくなった会場内を不思議に思いつつも、少しだけ表情を和らげた。こんなふうに騒げるのも、世界が平和な証拠だと思えたからだ(少なからず、だが) 不意に、のくすくすという笑い声に気づいたスイスが「…何がおかしいのだ、」と尋ねて来た。

「ふふ…ごめんなさい。なんだか嬉しくって」
「…嬉しい?」
「はい。こんなふうに騒げるのも、世界が平和な証拠なんだなって思ったら…嬉しくなったんです」
…そうなのかもしれないな。内紛はあるが…それでも、世界的な戦争はなくなった気がする」
「はい…だからこそ、こうして協力して地球のことを考える余裕が出来たんだと思うんです」
「まあな…普通に考えて戦時中は無理だからな」
「ええ…みなさん自国のことで頭がいっぱいになっちゃいますからね」
…お前は、ほんとうに強くなったのだな」
「…はい?どうしてそんなふうに思われるんですか?」

不思議そうに頭をかしげるを見つめ、スイスは少しだけ微笑んで「何となくだ。…帰るぞ、」と言っての腕を引いた。の「でも、まだみなさんが…」という言葉を予想していたのか、スイスは「放っておけ、がいないと分かれば勝手に帰るだろう」と何処か勝ち誇った笑みでそう言った。 ふと振り返ってみると、先ほどまでそばにいたロシアや日本、スペインたちの姿が見当たらなくなっていた。つまらないと思って帰ってしまったのだろうか。 いずれかは分からないが、よもや乱闘になるようなことはないだろう。はそう思い、スイスに腕を引かれるまま会場を立ち去った。背中に響くにぎやかな声だけが、唯一心に心地よく残った。

永遠うたう刹那なら