アスランの家にくるのは、何年ぶりだろう。記憶をたどりながら、ザラ邸のインタ−ホンを鳴らす。「どちら様でしょう」「あ、あの、です。……」「様ですね。アスラン様からお話は伺っています。どうぞ中へ」インタ−ホン越しに聞こえるメイドの声に促され、すこし緊張した面持ちで門をくぐる。自分も一応、中小企業の令嬢ではあるが、相手は議会議員の息子。いくら親友といえど、うっかり引き返してしまいそうになる。


「 なにしてんの? 」
「 うっ、アスラン……こ、こんにちは− 」
「 うん。あんまりが遅いから迎えに来ちゃったよ 」


 おずおずと顔をあげてみれば、すこしばかり困った表情で笑みを浮かべるクラスメイトの姿があった。「ごめん−なんか緊張しちゃって」「キラには?ちゃんと内緒にしてある?」「も、もちろんだよ。苦労したけどね」「はは、ご苦労さん」わしゃわしゃと頭を撫でられながら、アスランに案内されて自室に向かう。「うわぁ−すごい!制作室、ってやつ?」「うん。キラの誕生日プレゼント。組み立てに時間がかかりそうで、手伝ってほしくて」「そういうことなら任せて!かわいい−鳥なんだねっ」「……のことだからてっきりお礼をせがまれると思って用意しておいたのに。意外」「え!用意してくれてたの?あ……そのせいでキラの分が遅れちゃったのか。こりゃあがんばらないとね」すこし前までしょんぼりしていたかと思えば、もうニコニコ笑っている。はじめて会ったときはくるくる、忙しいやつだなぁと、その程度にしか思っていなかったのだけど ――― 最近は、どうしてだろう。そんな彼女のめまぐるしく変わっていく表情をみていたくて、気が付いたら数年ぶりに自宅に招待していた。ほんとうは、ひとの手を借りなくても十分間に合うのだけど。そこまで考えて、ふと幼馴染のさみしそうな笑顔が脳裏に浮かんだ。


「 アスラン?ここって、このままつなげちゃっていいの? 」
「 え?あぁ、うん。時間が出来そうだから、あっちで作業してくるよ 」
「 あ−!こないだいってた、ラクスさまへのプレゼントでしょ!アスランってホントマメだよね! 」


 ほっとけ。思わず毒ついてしまいそうになりながらも、とすこし距離を置く。なぜって、そうでもしなければキラだけじゃなくて、ラクスに対しても申し訳なくなりそうだったから ――― どうしてそんなふうに思うのか、こどもの自分には、まだ、わからないけれど。
 「出来た−!」の元気な声に、我に返る。どのくらいぼんやりしていたのだろう。ほとんど彼女任せにしてしまっていたようだ。「どう?我ながら力作でしょ?」≪トリィ!≫機械じみた鳴き声をこだまさせ、バサバサと羽音を立てて自由に飛び回る。「あれ」「どしたの?」「飛行時間が短い」「う−ん、バッテリ−の接続がうまくいかなかったのかなぁ」「みてみるよ」「うん、ごめん−」しょんぼりと、力のない笑みを浮かべて、オレンジのハロと遊ぶを横目にみながら、必要なところだけ解体する。


「 キラ、喜んでくれるといいね 」


 修正を終えてを振り返ると、いつの間にか満面の笑みを浮かべている彼女と目があった。「っ!」「わ!アスラン?だいじょうぶ?」「だ、だいじょうぶだ」完成したばかりのトリィごとすっ転んでしまいそうになったところ、間一髪で体勢を立て直す。きょうはなんだか、に対してせわしない。「ごめんね?やっぱりわたし来ないほうがよかった?」「な、なんで」「作業の邪魔しちゃったみたいだし、それになんか、アスラン元気ない」「そんなことないよ。このごろプレゼントづくりに根を詰めすぎたかな……」「じゃ!誕生日パ−ティには来てくれる?」「あ、当たり前だろ!そんな顔しなくてもちゃんといくよ」「ホント?良かった!」が元気になってくれて良かった。そう安堵したのと同時にドキドキ、鼓動がうるさい。ラクス・クラインに会ったときにはなかった感情に、素直に驚く。


「 あ−、もうこんな時間 」


 鐘の音が鳴り、夕刻を知らせる。「はいこれ、きょうのお礼」「え。手直しになっちゃったんだし、いいよいいよ!」「オレンジのハロ、ずっとほしいって言ってただろ。すこし早いプレゼント」「いいの?」「もちろん」「わ−いありがとうアスラン!」ガバッ ――― そんな効果音が聞こえそうなほど元気よくハグをしてくるに、幼馴染の笑顔が重なる。


「 じゃあ!18日は18時にね! 」
「 ――― ああ 」


 門扉でを見送る。「アスラン、ずいぶん楽しそうじゃないか」「え!き、キラ?」「となにしてたのさ」「が宿題教えてくれっていうから」「ふうん?わざわざアスランの家で?ぼくぬきで?」「キラ−」「折角夕飯誘ってあげようとおもって来たのにあんまりじゃない?」「ご、ごめんって」「ロ−ルキャベツ、アスランの分くれたら許してあげてもいいよ?」「お手軽だなぁキラは」といい、キラといい、困った幼馴染をもったものだと嘆息しながら、ここからそう遠くない、ヤマト夫妻の自宅に向かう。月末に控えた誕生日パ−ティが、不思議ととても楽しみに思えてならなかった。


どうしようもないことを
手探りで引き寄せる

( 幼少期の一コマ。それぞれの道を歩む前 )