「 ハイデリヒ−! 」
「 うわっ、!いきなり飛び着くなって、いつも言ってるじゃないか! 」
「 えへへっ、ごめんなさい−。なんか嬉しくって! …あれ?このひとは? 」
「 ん?ああ、エドワ−ド・エルリックさんだよ。 なんでも機械工学に興味があるらしい 」


「ふうん?」講義を終えたばかりのは、クラスメイトのアルフォンス・ハイデリヒに抱きついたまま、玄関先に立っていた金髪の少年を凝視した。「エドワ−ド、さん?あたし、ハイデリヒのクラスメイトで幼馴染のです!」「へえ、幼馴染ね−。あいつにそっくりだな」「?? あいつ?」「いんや、なんでもね。お前さんは何しに来たんだ?」コトンと首をかしげて、そんなふうに尋ねた。


「 幼馴染の家に来ちゃいけないっていうんですか? 」
「 いや、誰もそんな言い方してね−だろ… 」
「 へへ、すみません。冗談ですよ冗談!ハイデリヒに教えてもらいたいところがあって…いまから大丈夫かなあ 」
「 う〜ん、その前に首、首しまっちゃう。 て言うか疑問符が見当たらないよ 」
「 へ!ご、ごめんっ?課題が終わらなくって… 」
「 課題?機械工学の? 」
「 そ、そうなんです…。来週までに終わらせなくちゃいけないんですけど 」
「 ハイデリヒ− 」
「 …なんですかエドワ−ドさん 」
「 俺もその課題っつ−の、見てみたいなあ 」
「 なに言ってんですかエドワ−ドさん!寝言は寝てから言うものですよっ 」
「 まあ良いじゃんか、そう固いこと言うなよ!俺だってまだ勉強中の身なんだし 」


「はあ…分かりましたよ。離して、!離して−!」「きゃあああごめんハイデリヒ−!」ようやく首元から巻きつけていた腕を離し、後ずさりをする。その様子がなんだかおかしくて、普段のアルフォンスからはまったく想像出来なくて、エドワ−ドはふっと笑みを浮かべた。「なんか…懐かしいな」「ハイ?エドワ−ドさん、何か言いました?」「いや、なんでもない。俺、先にアルフォンスの部屋にいるから」エドワードはそう言って本を持っていたほうの手を、ひらひらと振った。ぼんやりと立ちつくしたままのを不思議に思ったアルフォンスは、彼女を振り返った。


「 ?どうしたんだ? 」
「 エドワ−ドさんって、格好良いなあ… 」
「 ああそうだね…ってええええ!、それって正気!? 」
「 それになんだか…、不思議なひと…。まえにどこかで会ったような気がするの… 」
「 …。あの、さ… 」
「 うん?なあに?ハイデリヒ 」
「 …ごめん、なんでもない。それより行こう、エドワ−ドさんが待ってる 」


「うん!」そう言って満面の笑みを浮かべるの顔を、なぜだか直視出来なかった。アルフォンスはちょっと前まで開いていた手のひらを強く握りしめ、こぶしを作った。「なんでだよ…ばか…っ。僕のほうがずっと…ずっと、見てたんだぞ…っ」底の知れない悔しさに、唇をかみしめる。こんな悔しさ、いままでに味わったことがなかったから、驚いた。は自分にとってただの幼馴染で、ただのクラスメイトで ――― それだけのはずだ。それ以上でも、それ以下でもない。それで良いって、思ってるはずなのに、どうしていまになってそれをひどく悔やんでいるんだろう ――― 分からない。













機械で埋め尽くされたハイデリヒの部屋にエドワ−ドとふたり、機械の説明をしながらすごしていたは、熱心に機械を見ている彼を見ていた。「なあ、さっきからずっと見てっけど、なんかあんの?」「は!う、ううんなんでもないの!ごめんなさいっ!こんなに熱心に機械を見る人も珍しいなあって思って!」「そうかあ?俺は機械に興味ある女の子のほうが珍しいと思うぞ」そう言って、エドワ−ドはやっと、機械にばかり向けていた視線を、のほうに向けた。「はは…、やっぱり、エドワ−ドさんもそう思いますか…」「違うのか?俺はただ、アルフォンスに聞いたことをそのまま言っただけなんだが」「え?ハイデリヒ、に?」がそんなふうに聞き返すと、エドワ−ドはああ、と言って頷いた。


「 機械工学を専攻する女の子は珍しいって 」
「 そうですね、男子に比べれば絶対数が少ないのが現状です。でもあたしは… 」
「 ? 」
「 家のためにも、ハイデリヒのためにも、機械工学を勉強したいって思ったんです 」
「 は…、アルフォンスのことをほんとうに大事に思ってるんだな 」
「 ! 分かる、んですか? 」
「 ああ。お前とおんなじ眼をしたやつを、知ってるからな 」
「 あたしと…?じゃあエドワ−ドさんも、そのひとに大事に思われてるってことですね! 」
「 ! …ああ、まあ、そうだな 」


「良いなあ…」そんなふうに言って、嬉しそうに瞳をすがめているの背に、アルフォンスの姿を見つけたエドワ−ドは、「アル!遅いぞ」と声をかけた。驚きながら、が振り向く。「ごめんごめん、考え事してたから…。、機械壊さなかった?」「壊さないよ−、ハイデリヒの言いつけ、破るわけないでしょ−」言って、屈託のない笑みを浮かべるが、どうしてだか歯がゆく思える。その隣で穏やかにほほ笑むエドワ−ドも、いつもと変わらないというのに、ひどく。「アル?具合悪いなら無理しなくても…、」「大丈夫、気にしないで。、どこが分からないんだ?」キィ、と丸椅子に座りなおして、もう一度を見つめる。


「 えっとね…こことここの接合の仕方がいまいちよくわかんなくて… 」
「 ああ、これね。ってホント、分解するのは得意なのに接合とか組み立てとか、苦手だよね 」
「 う、うるさいな!そんなんじゃあたしが破壊王みたいな… 」
「 事実だろ。お皿とか良く割って、おばさんに叱られてるじゃないか 」
「 あれとこれは別なの!あたしはちょっと人より不器用なだけなんだか…? 」
「 エドワ−ドさん、これが機械を動かす骨組みになる部分です。人体で言う、神経ですね 」
「 へえ−。機械って、人体構造に似てるんだな 」
「 そうですよ。まえに話したでしょ?機械工作は人体構造を知ることから始まるって 」
「 なんか、奥が深いんだな。機械工学って 」
「 まあ、そうですね。、ちゃんと理解出来てる? 」
「 へ?う、うんっ!だから理系が多いんだね−、機械工学専攻の子って! 」
「 …まあ、あながち焦点ズレるような気がしなくもないけど、そうだね。ってきみもれっきとした理系じゃないか 」
「 でも、ハイデリヒたちにはまだまだ及ばないよ 」
「 にはの良さがあるんだから、それで良いんだよ 」


「ハイデリヒ…」「あっ、工具が足りないや。ちょっと取りに行ってくるから、少しエドワ−ドさんに教えていてくれる?」そう言って席をたつアルフォンスに、「はあい」と返事をする。「なあ、思ったんだけどさ」「は…ハイ?」「アルフォンスとは、幼馴染なんだよな?なんでファミリ−ネ−ムで呼んでんだ?」「ああ…それはですね。はじめて逢った日に、言われたんです。ファ−ストネ−ムにはなじみがないから、呼ばないでほしいって」少し寂しそうに話すに、「へえ」と相槌をうつエドワ−ド。「ありゃあ、名前で呼んでほしいって思ってる顔だな−」「え!ど…、どういうことですか??」「ん?まあ、男のカン!試しに名前で呼んでみな?じゃあ俺、野暮用思い出したから出かけてくるな!アルフォンスにもそう言っておいてくれ」トントン、と肩をたたかれ、アルフォンスの部屋を出ていくエドワ−ドを見送るしかない


「 −。あれっエドワ−ドさんは? 」
「 野暮用を思い出したからって…出かけちゃった 」
「 ええ−!なんだよ、ほんっとに勝手な人だな−! 」
「 ねえ、あの…ハイデリヒ? 」
「 うん?なに? 」
「 あたし、きょう夕飯当番なんだ!教えてもらいたいところは解決したし、きょうはこれでおいとまするねっ 」
「 …そう。分かった、じゃあまたあした 」
「 うんっ!ま…、またあしたねっ、アルフォンス! 」


「 ! う、うん、またね 」驚いた顔の、アルフォンス。だけれどそれ以上に、とっても嬉しそうな笑顔が見られて、は自然と緩みそうになる顔を、引き締められないでいた。「ありがとう、エドワ−ドさん」夕暮れの空を仰いで、いまはもういないその人の名前を紡ぐ。おかげで久しぶりに、アルフォンスの笑顔が見られたよ。そんな気持ちを込めて、両手を合わせる。思い浮かぶのは、優しい笑みを浮かべた、ふたりの少年の顔だった。




マラッティーア・ダモーレ