きょうも、窓の外を覗いてみれば新宿の情報屋、折原臨也と池袋最強の男、平和島静雄が喧嘩の域を通り越した生死のやりとりを交わしている。よくもまあ毎日毎日飽きないものだなあと感心する反面、毎晩毎晩頬杖をつきながら彼らを眺めている自分もまた、物好きなのだろうと鼻先で笑ってみたりする。盛大なバトルのあと、あたしはなんとなく思い立ってコンビニに足を運んだ。その日はひどい雨で、世間が土砂災害や浸水被害に頭を抱えている間にも、そんなことお構いなしと言った様子でふたりのバトルは続いていた。 「 いい加減加勢したくもなるよね、こんな調子じゃさ 」 「 なんだ?お前はあいつの味方なのか 」 「 わあ!平和島、静雄!吃驚したあっあれ、折原臨也は? 」 「 俺の前でやつの名前を口にするとけがするぜ… 」 「 ぜ−は−しながらニヒル的なことを言われてもね。それにあたし、あなたたちと互角にやりあえる自信あるし 」 「 そりゃあおもしろそうだ。試してみるか? 」 「 きょうは遠慮しとく。あした早いの 」 「 チッ。俺も野郎のせいで盛大にバトッたあとだしな 」 「 あれね、ほんとうに近所迷惑なんだけど。やるなら新宿でやってくれない 」 「 …すまん、それは無理だ 」 「 でしょうね。出来たらとっくにしてるものね 」 ため息混じりにそういうと、はすこし前にコンビニで買ったお茶を手渡した。「あたしの家に招いてもよいんだけど、とりあえずね」「恩に着る」「すこしはあたしみたいな一般人のことも考えてくれるとありがたいんですけど。平和島静雄さん」「・・・善処する。悪かった」謝るのは自分だけではないのだが、と自然とこぼれてしまうため息を止めるすべもなく、は弱まることを知らない雨を一瞥した。 「 ―――― 雨、やまないね 」 「 ―――― 梅雨だからな 」 「 ジュ−ンブライドって知ってる? 」 「 六月の花嫁だろ。つうかもう七月じゃねえか 」 「 そうね。意外と冷静なんだね 」 「 こう見えても結構落ち着きないんだぜ。まさかお前のほうから口説かれるとは思ってもみなかったからな 」 「 うわあなにそれ変態発言。訴えるよ 」 「 おいおい、俺ぁいつの間に犯罪者になったんだ 」 生まれつきでしょ、というと、彼は眉間にしわをよせてかもな、とつぶやいた。そして強く強く、を抱きしめた。「<こっちの人間>になってくれる気になったんだな」「別に。あたしといっしょになることで、すこしでも池袋が平穏になってくれればって思っただけ」「なんでも良い。といっしょになれるなら」「静雄ってほんと真顔で恥ずかしいこと言えるよね」「犯罪者だからな」自分で言ったよこのひと、とは言わずに、はただ鼻で笑って仕方ないな、と呟いた。 「 気まぐれだからね、あたし 」 「 ――――― 知ってる 」 「 …あしたには折原臨也とこうしてるかもしれないよ 」 「 問題ない。全力で奪い返しに行く。つうかあり得ん 」 「 なにそれ略奪愛?ほんと、恥ずかしい台詞。でもあり得なくないから笑えないんだけど 」 「 ?顔、真っ赤だぞ 」 「 恥ずかしいのはあたしだけって言いたいの? 」 そう言って口をとがらせると、平和島静雄はすこし困ったように笑って、を抱きしめたまま雨空を仰いで舌打ちをした。どうやらまだ当分はこのまま、離してくれそうにはないみたいだ。あたしは雨音を気にしないように、あえて静雄の腕の中に顔を埋めた。湿った煙草の匂いが、ツンと鼻を刺した。 今夜、命懸けで会いに行きます |