枯れるほど泣いた。あの日から、もうどれくらいの時間が流れたのだろう。
「だいじょうぶ?」心配そうに尋ねてくれるのはこのホームを大事に思っている仲間のひとり、リナリーだ。は青い瞳をにじませたまま、小さくうなづく。「だいじょうぶなわけ、ないか」同じようにまぶたを赤く腫らせたリナリーが、だれにともなくぽつんとつぶやく。


「 うら、湿気たツラしてねーで! 」
「 ……ラビ 」
「 教団の花がみんなしてしょぼくれてたら元気も出ねえさ! 」


 つとめて気丈に話すラビ。いつも力強く背中を押してくれる手のひらがだいすきだった。「ありがとう」「ラビがいてくれてよかったわね、」「後付みてぇにいうなよなー!」ぷうっと念相応に頬を膨らませてみせるラビに、もリナリーも顔を見合わせて表情を和らげる。「そうそう!そのチョーシさ!アレンがいなくなってさみしいのはみんなおなじなんさ!」「……そだね」「だから決めたんでしょう?アレンくんが安心して戻ってこれるように、この場所を守るって」リナリーの力強い言葉。「おかえりなさい」そういってアレンを迎えられるように。この場所が、いつまでも変わらないまま存在出来るように。いまいる自分たちが、アレンが慕ってくれた”ホーム”を守るんだと、話したばかりだった。


「 まずは!景気づけにクリスマスパーティな! 」
「 えぇ?なにそれ 」
「 あら、名案だとおもうわ。こんなときだからこそ、ね 」
「 んー 」
「 なーに?ラビに先を越されたのが気に入らないの? 」


 隣でくすくすと微笑むリナリーに、大きくうなづく。いつもみんなを元気づけるのは自分の役目だとすら思っていただけに、その悔しさは計り知れない。「やー嬉しいなぁ!もオレと同じ考えだったなんて!」「勘違いされる前に言っておくけど」「冗談だって!相変わらずガード固いなぁは」「まぁからかいすぎたラビも悪いよね」食堂に向かいながら、ラビの言動に棘を指すリナリー。そんな変わらない、ありふれたやりとりがうれしくて、暖かくて、くすぐったい。


「 料理はわたしに任せてねー! 」
「 はいはい、じゃあ準備は男性陣で。の手料理美味しいから楽しみだなー 」
「 楽しみなのは、パーティのほうじゃないのね…… 」


 颯爽と去っていくラビの背中に、人知れず毒を吐くのはリナリー。「まぁまぁ!折角ラビも張り切ってくれてることだし!わたしたちもがんばろう!」「…えぇ」「?どうしたの?」きょとんとが首をかしげると、その先にはリナリーの暖かい眼差し。「ううん、が元気になって良かった。行きましょう、ジェリーさんが待ってるわ」言われるまま、リナリーの手のひらを握り返す。いまはいない、そのひとの面影を追いかけながら。

そこはやさしい奈落