ラビの場合 コンコン。誰だろう、こんな時間に―――――はそう思いながらまだ重たい目蓋を開いた。手元の懐中時計は午前0時をすぎたところで、次第に大きくなるノックですこしずつの頭は覚醒していった。「はいは−いどちらさ、まっ?!わぷっ」「へへ−っサプライズ成功!やったぜジジイ!リ−バ−班長!」「馬鹿者、が窒息寸前じゃぞ」「グッジョブだラビ」そんなやりとりが、の埋もれている花束越しに聞こえ―――――ああそうか、きょうは自分の誕生日だったのかとようやく状況を理解した。 「「「 つ−わけで!ハッピ−バ−スデ−! 」」」 パンパンパン。真夜中だというのにどこから取り寄せたのか、クラッカ−を盛大に鳴らす三人。驚くあまり――――いや、感動のあまりは思わず涙をこぼした。もちろん、そのことに自身気づいていない。「ちょっ?だいじょぶさ?」「目に入ったか?」「落ち着け貴様ら。嬉し泣きじゃろうて、なあ」コクコク。言葉もなく一生懸命うなづくに、ラビは「あ−もう!ホント可愛いなあは」というなりハグをした。騒動ついでのつもりかもしれないが、背後にいる大人の男性ふたりからしてみればラビが一方的に言い寄っているようにしかみえない。完全に不可抗力だ。「オッサンたち、変なこと考えてないさね?」「「いや別に」」「そうだ?」「はっはい?」「おめでとう、オレがいちばんのりだかんな!」なんともいえない表情の大人ふたりを一瞥してから、ラビはころっと表情を変えるなり満面の笑みでそう言った。もちろん、友愛のキスは忘れない。 神田の場合 「 ――――は……ウサギと任務か 」 「 ウサギじゃねえさっ! 」 「 おお、噂をすればだな。どうしたどちび、やけに嬉しそうだな 」 帰還してすぐ、神田はのいつも以上に嬉しそうな笑顔を見逃さなかった。聞いた話だと帰りがけ、探索部隊の連中や婦長たちからお祝いや花束をもらったらしい。なるほど、言われてみれば両手に大事そうに抱えられている荷物と、そしてなぜだか持たされているラビをみてみれば合点が行く。ラビだけならまだしも、あのリ−バ−やブックマン、果てはエクソシストとはあまり関わりのない連中に先を越されたとなると、なんだか面白くない。神田がどことなく難しい顔をしていると、ラビはなにか面白いものをみつけたような顔をして近づいてきた。「ユ−ウ−顔が怖いさ−」「ファ−ストネ−ムで呼ぶなっつっただろバカウサギ」「ひでえさ−−神田がいじめる!っていねえ!」「ああ、ならとっくに報告に行ったぞ。お前が遊んでる閧ノな」「ちょ−どっちもひでえさ−あっおかえり−報告サンキュウ」「ううん、そんなに難しくなかったしどうってことないよ。……神田?なんかあった?」「あ?別に、どちびには関係のね−こった」「大いにアリアリって顔してんじゃん−」「ウサギは黙ってろ」キッ。そんな効果音が聞こえそうなほど鋭く睨まれてしまい、服従するしかないラビ。「あっねえ待って神田!」「ああ?」「これ!きょう神田誕生日でしょ!名前忘れちゃったけど…・…六幻!っていうか……刀を拭く道具だって!」「そういや一生懸命ブックマンに相談してたのはそのためだったんか−」「えへへ。だって刀のことぜんぜん分からないんだもん」「は−。なんなんだてめ−は」「へ」「あっ」特に他意はなかったが、自然と身体が動いていた。あとになって反省こそしたが、後悔はしていない。「ちょっ神田?結構人通り多いんですけど……」同様、ほかの男性団員の視線に気づかない神田ではない。すこしばかり困惑の色を隠せない様子のを横目に、神田はほんのすこしだけ、勝ち誇ったような、清々しい気持ちになった。そんな周囲のトラブルを招くような話、もちろん誰にしてやるつもりもないが――――どことなく、そんなふうに思ってしまったのだ。 アレンの場合 アレンと食堂で鉢合わせて数分。どことなく重たい雰囲気の食堂に、はどうしたものかと当事者であろうアレンをみやった。夕刻、任務帰りらしいアレンは遅くなりすぎた昼食を摂っているところで、はひまを持て余しに、午後のティ−タイムを楽しんでいた。そこへ、仏頂面のアレンが挨拶も手短に食堂にやってきて、現在に至る。わたし、なにかしたかなあ――――思案を巡らせてみても、思い当たる節はない。食事のペ−スこそいつもどおりだが、なんというか――――そう、いつもの食事がカツカツカツカツ、なら、きょうの食事はガツガツガツガツ。要するに温厚なアレンにしては乱暴で、どことなくイライラしている。はそんなふうに感じた。任務先でなにかあったのかもしれない。ひょっとして、いつも持ち歩いているお菓子がなくてすこぶる機嫌が悪いのかもしれない。は不意に席をたち、ジェリ−に袋いっぱいのキャンディ−やクッキ−、お菓子の詰め合わせを用意してもらい、恐る恐るアレンのそばに近寄った。「あの、アレン、くん?」「はい?!――――あ、」「これ、良かったら。ジェリ−さんからもらったものだけど」「えっ悪いですが食べてくださいよていうかどうしてここでお菓子の詰め合わせ?」「だ、だって……アレンくん、帰ってからとっても機嫌悪そうだから、お菓子切らしちゃって機嫌が悪いのかと……」本人はいたって真剣だが、周囲にいたほかの団員たちは、思わず吹き出した。一瞬理解に悩んだアレンだが、周囲の状況を察し、ああ、と頭を抱えた。 「 違うんです、。僕は僕が歯がゆくて自分にイライラしてただけなんですには理解してもらえないかもしれませんが 」 「 は……、え? 」 「 任務だったとはいえ、にいちばんに誕生日のお祝いを言えなかったことが許せなかったって、そういうことです。ここまで言わないとダメみたいですね 」 「 えっあのそのっごめんなさい!わたし! 」 耳まで顔を真っ赤に染めるの表情をみながら、アレンもようやく表情を和らげた。 周囲のものも、決して彼女をからかって面白がっていたわけではないのだということを知っていたが、半ば半信半疑だった自分は、まだまだ彼女のことを知らないのだと思い知らされた。また悔しい思いがこみ上げたが、周囲も和んだところで、腰をあげる。「ふふ。ほんとうには……今回はこれで許してあげます」「なにを、」アレンは笑顔のままとの距離を詰め、そっと彼女の腰を引き寄せて、キスをした。瞬間、周囲の空気が固まったのは言うまでもないが、そんなことは問題外だ。重要なのは、大切な大切なこの日に、きみといること。ただ、それだけなのだから。 夜は数えきれない瞬きの向こう |