( ※ もしもが江戸編で教団に残っていたら。そんなお話です )



「リ−バ−班長?なにしてるんですか?」「ん−か。みんなの新しい団服つくってるんだよ。今回の襲撃で、みんなの服もボロボロだろうからな」「…あの、わたしも手伝ったらいけませんか?」「なに、泣きそうな顔してるんだ。もちろん良いに決まってるだろ!は裁縫も得意だし、助かるよ」寝ぼけ眼のリ−バ−班長にそう言われ、心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。早速、手元にあった一枚に手を伸ばす。


「 そうだ、。それがひと段落したら、ミス・ミランダたちにメシ持って行ってやってくれないか? 」
「 ――――― まだ、修練場なんですか?まる三日ですよ? 」
「 俺も休むように言ったんだがなあ…。すこしでも早くみんなに追いつきたいからって聴かないんだあの子 」
「 どうしたんだろう…みんな…。どこか焦っているように感じる… 」
「 そりゃあなあ。元帥が殺されたんだ、落ち着いていられるわけないだろ?早く無事を確認したいのさ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
「 おっと、悪い。それはも同じだったな…ほら、手が止まってるぞ 」


「…あ、はい」リ−バ−班長にぽんぽんと頭をたたかれて、やんわりと笑みを浮かべる。これはいま、自分にも出来ること。すこしでもみんなを守ってくれるように、丈夫に、丈夫につくろう。そんなふうに思ったら、の作業への集中力も次第に真剣な眼差しに変わっていった。そうして、日付が変わるころ ―――― 「出来たっ…」「お−、御苦労さん」いまや瞳が充血していることを気にも留めずに五枚目を繕っているリ−バ−班長をみつめ、流石に心配になったは「リ−バ−さん?いい加減休んだほうが良いですよ。残りはわたしがやっておきますから…もちろん、ミランダさんにお夕飯を届けたあとで、ね」と言って、彼に毛布を手渡した。「う…すまない。早いんだな…一枚一時間か。のほうがミランダの出立に間に合いそうだ」「…どういうこと?」「ミランダの鍛錬が終了次第、江戸に向かわせると…コムイ室長から指令があったんだ」「そう、ですか。あの…わたしは」「教団の守護要因だと。行きたい気持ちは察するが…分かってくれ」もう一度頭をたたかれて、だけどももうコムイ室長に掛け合っても無駄なのだと、リ−バ−班長の視線が訴えていた。そう ―――― 今回の任務でが戦闘部隊に出てしまえば、教団を護るエクソシストがひとりもいなくなってしまうのだ。は涙を飲んで、厨房で居眠りをしているであろうジェリ−のもとを訪れた。


「 あら、。ごめんなさいわたし、寝ちゃってたみたい 」
「 (あ−あ、起きちゃった) わたしのほうこそごめんなさい、休んでいたのを邪魔してしまって、 」
「 がそんな顔することないのよ!いまは非常事態だもの。どうしたの?ミス・ミランダにお食事? 」
「 あ…はい。まる三日、修練場に缶詰状態なんですあのひと。いい加減お腹すかせているだろうと思って 」
「 ふふ、そうね。手伝うわ 」
「 えぇそんな!貴重な休憩時間なのに…ジェリ−さんは休んでいてください! 」
「 泣きそうな顔している女の子を放っておくわけにはいかないわ。それに、もお腹すいたでしょ?わたしもなにか食べようと思っていたところだし 」


ね、と言われてしまい、もうなにも言い返せないは渋々”お願いします…”と頭を下げた。「素直でよろしい」とジェリ−に笑われてしまい、すこしばかり表情を赤らめる。「じゃあ、お願いね」「はい!」「みんなの分は科学班に運んでおくから」「ありがとうございます、ジェリ−さん!」「ミス・ミランダによろしくね−」遠ざかっていくジェリ−の背中を見送って、イノセンスを発動するなりミランダのいる修練場に急ぐ。「ミランダさ−ん!」「え?この声は…ちゃん?」「コムイさんに頼まれたお夕飯です!ごいっしょしませんか?」「でも…」ちらりと、イノセンスであるタイムコ−ドを仰ぐミランダに、も負けじと詰め寄る。


「 腹が減っては戦は出来ぬ!って東洋のことわざ知ってる? 」
「 ちゃん…そうね、いただくわ 」
「 良かった−。わたしとジェリ−さんでつくったんだよ!自信作だよ 」
「 良いにおい…おいしそう。ってお裁縫だけじゃなくて料理も上手なのね…うらやましいわ 」
「 えへへそんなことないよ!食べよう!お腹すいた− 」
「 ふふっそれもそうね。ところで、いま時間分かる? 」
「 えっとね… 」


ごそごそと胸元を探って、懐中時計を取り出したは”あ−”と、どこか間の抜けたような声を出した。「もうすぐ一時だね」「わ−、もうそんな時間になるのね」「新しい団服、もうすぐ出来るからね!ミランダさんの出発には間に合うと思う!」「ちゃん…ありがとう。大丈夫?クマが出来てるわよ?」「平気平気!休まず戦闘しているみんなに比べればどうってことないよ!」「ちゃん…そうね。お料理ありがとう、すごくおいしい」「ふふっ良かった、気に入ってもらえて。そうだ!ジェリ−さんがミランダさんによろしくって言ってたよ」「あら…ジェリ−さんにも心配かけちゃったわね…」「ジェリ−さんたちだって”ホ−ムの一員”だもん!当然だよっ」「強いのね、ちゃんは」「ミランダさん…?」どことなく寂しそうな笑みを浮かべてそう言ったミランダに、パンを頬張る手を止めることなく小首をかしげる


「 ちゃんはそうやって、ちゃんとみんなの気持ちを受け止めて。だから…それがちゃんの”強さ”なのね 」
「 ミランダさん?不安…なんだね…って、そりゃそうだよね。誰だってはじめての実践って緊張するよね 」
「 ちゃんには、分かっちゃうのね。鍛錬を始めたときはこんなことなかったのに…時間が迫ると落ち着かなくて 」
「 うんうん、分かるよ。わたしもはじめてのときはそうだったもん!
  神田やラビに泣きついちゃってね−ラビはよしよしってしてくれたけど、神田には”うるせぇどちび”って怒鳴られちゃって 」
「 ふふ…様子が浮かぶわ。ほんとうに仲良しなのね、みんな 」
「 ミランダさんもすぐ仲良くなれるよ!みんな良い人ばっかりだもん!戦闘が落ち着いたら、みんなでお疲れ会しようね− 」
「 ちゃん…ふふ、それも良いかもしれないわね。みんなに伝えたら喜ぶでしょうね 」


楽しそうに笑うミランダを横目に、つられて笑みを浮かべる。”ほんとうはいっしょに行きたかったんだけど…”と言いたい気持ちをこらえて、は最後の晩ご飯を飲み込んだ。「じゃあ…気をつけてね、ミランダさん」「ありがとう。ちゃんやみんなの気持ち…ちゃんと伝えて、この団服を渡すわ」「うん、ありがとう。あと…”アレン君は絶対大丈夫だ”って、」「分かったわ。もっとも、その必要もないかもしれないけど…ね」「ふふ、そうかもしれないね。でも、アレン君は唯一の希望だから。わたしの…ううん、わたしたちの」「ちゃん」「あ、舟来たよ!行ってらっしゃいっミランダさん!」「ええ…”行って来ます”」控えめに手を振り上げて微笑むミランダに、も満面の笑みを浮かべる。それは彼女が教団で”天使”と呼ばれるに相応しい笑顔だと、ミランダは素直に思った。そして、舟は再び動き出す。箱舟に運命を委ねるように、静かに、静かに。オ−ルの音だけを、響かせて。天使の笑顔に、背を向けて。


喉もと過ぎた残響