「 神田っみづかちゃん!お誕生日おめでと−っ! 」


 ――――――――― パンパンパンパン!
盛大に響いたクラッカ−音に、神田とみづかは思わず飛び起きた。「てめえなにしやがるどちびっ!」「なんでなんで?みづかちゃんとふたりきりの時間を邪魔されたから?」「くっ遊んでやがるな…それもこれもあのモヤシの影響か…」「アレン君は関係ないよ−!それに遊んでもないし楽しんでもないし。あっでもふたりの誕生日のお祝いは出来たから楽しいかな」「てめ−っいまから修練場に来い!その腐った根性たたきなおしてやる!」「あの−ふたりとも?お取り込み中申し訳ないんだけど」「みづかちゃん!ごめんね、折角の幸せな時間を邪魔しちゃって…」先ほどの剣幕とは打って変わって、しょんぼりと肩を落として詫びるコレットに面食らった様子の神田の表情がおもしろくて、みづかは思わず笑みをこぼした。


「 気にしないで。お祝いしてくれたのはほんとうに嬉しかったし…でも、コレット?逃げたほうが良いんじゃない? 」
「 うん、そうする!あとで遊びに来てねみづかちゃん! 」
「 それ、わたしにふたりの勝敗の行く末を見守っていてくれってこと? 」
「 ったりめ−だ。一日みづかと誕生日をすごせるのは誰か、白黒はっきりさせようじゃね−か 」
「「 ――――――― 神田…! 」」
「 ―――――― あ?なんだよおまえら。泣きそうな顔して 」
「 神田!ごめんね!神田はほんとうにみづかちゃんのことがすきなんだね…!それなのにわたし、わたし、 」
「 泣かないでコレット!神田はこのあと任務みたいだし、コレットといっしょに誕生日をすごしたいもの 」
「 みづかちゃん…!ってことでばいばい神田! 」
「 ばいばいじゃね−よ!ちょっと来い!みづかもあとでちゃんと来いよっ 」
「 ふふっはいはい 」


 「みづかちゃんと誕生日お祝いするのはわたしだもん!」「ハッ誰が」「みづかちゃんとお誕生日をいっしょにすごす権利を賭けた勝負だからねっ負けないからねっ」「こっちこそ。お前みたいなどちびに負ける気なんざさらさらね−よ」「神田ってば大人げな−い」「あぁ?そりゃお前もだろ−が!まじたたっ斬るぞどちび!」「あ−あ、なんだかなあもう」まだ神田のぬくもりが残ったベッドに埋もれながら、ドア越しに聞こえるコレットと神田の言い争いを聞いていると、嬉しいような恥ずかしいような。ただ、ふたりとも自分のために一生懸命なのはほんとうだから、いずれかが勝っても負けても、思いっきりハグしてあげようとみづかはひとり苦笑した。そうして神田の顔を思い浮かべて名残惜しそうにベッドから降り、漆黒の団服に着替えを済ませ、朝食も手短に、神田に言われたとおりふたりが派手な戦闘を繰り広げている修練場に赴いた。


「 ――――――― なんさ?この騒ぎ 」
「 ラビ。おはよう 」
「 はよ−。訓練にしちゃあ、コレットがえらい剣幕さ 」
「 あ−それはね 」
「 きょうは神田と、コレットと、みづかの誕生日なんですよ 」
「 なるほど。ま−たコレットは自分の誕生日をそっちのけにして。しょうがないヤツだなあ 」


 言葉の割に、何処か優しい眼差しでコレットをみつめているラビを見やり、「あの」と口を開きかけたアレンに、みづかは「アレン君?おはよう。良く眠れた?」と声をかけた。「みづか!おはようございます。あっお誕生日おめでとうございます」「うん、ありがとう。神田やコレットにはもう言った?」「神田には言うつもりはありませんが、コレットにはこれから言うつもりです」「そっか、良かった。実はまだ誰もコレットにおめでとうって言ってないのよね。誰がいちばん乗りになるかし…あら?」頬杖をついてアレンとラビを交互に見やっていると、血相を変えたふたりが乱闘を開始したのをみて、みづかはひとり面白いことになりそうだなあと笑みを浮かべた。なにも知らない当事者ふたりはと言えば、いまだにみづかとの誕生日お祝い権を賭けてアレン、ラビとも負けず劣らず互角の戦いを繰り広げている。「平和ね」みづかのそんな呟きは四人の剣戟や爆発音によって容易くかき消されることとなった。


「「「「 ―――――― 取った!!えっ?? 」」」」
「 はい。ご苦労様。アレン君コレットにおめでとう言うのいちばん乗りね。次はわたしよ 」
「 もちろんです!とゆ−わけでラビは三番ですよっ神田は最後で十分です 」
「 んだとてめ−モヤシッ 」
「 神田に最初にお祝いされるコレットがかわいそうですし。そっちこそ勝敗はどうなったんですか?みづか 」
「 それが、アレン君とラビの戦闘のほうが面白くてふたりのはちゃんとみれてないのよね。だからふたりとも? 」
「 ―――――― あ?んだよみづか 」
「 な−に?みづかちゃん 」


 ちょいちょい、と手招きをされ、どうしたんだろうとラビ、アレンのふたりが見守っていると、みづかは予定していたとおり、神田とコレットにハグをした。「みっみづかちゃん?」「まったくコレットは。また自分の誕生日をそっちのけにして」「えっ?あ…」「こンのどちびが」「ふふっ実はコレ、ラビの受け売りなんだけどね」「ラビの?」「わたしのためにがんばってくれるのは嬉しいけど、自分のことも大切にしてあげなくちゃ!ね?」「みづかちゃん」「誕生日、おめでとう。コレットも神田も、だいすきだよ」「ありがとう!わたしもみづかちゃんも神田もだいすき!もちろんラビも、アレン君もだよっ」「――――ですって。良かったわね、ふたりとも」悪戯っぽいみづかの笑みに面食らった様子のアレンとラビのふたりは、お互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。


「 結局、僕たちの戦いは無駄だったってことですね 」
「 だな。まあ、幸せそうな三人みてたらどうでも良くなっちまったさ 」
「 行きましょうかラビ。きっといまごろ、リナリ−が怖い顔して三人の誕生日パ−ティの準備してますよ 」
「 リナリ−に嫌われるのも結構しんどいからな−行きますか 」
「 うん。三人とも!夜のパ−ティには来てくださいね!あっ神田はどっちでも良いですが−! 」
「 てめ−モヤシッ 」
「 アレンですよ。まったくいまだに名前も覚えられないなんてあなたこどもですか 」
「 んだと−っ離せみづか!俺はあいつに一太刀浴びせね−と気がすまね−っ 」


 「だって離したら神田、任務行っちゃうんだもん」「なっ」「わたしはもうおめでとうすませたからリナリ−手伝ってくるねっ行こうふたりとも!」「良いんですか?あんな真剣勝負だったのに、簡単に明け渡しちゃって」「良いの良いの!今朝邪魔しちゃったお詫び!ラビもほらっ」「また自分を二の次にして。自分のことも大切にしろって、みづかに言われたばっかりだろ−?」「えっわっなになにっ」「あっずるいですよラビ!今度は僕の番です!」「わ−こわいっラビ降ろして−!」「パ−ティ会場まで直行−」「きゃ−!」ラビにお姫様だっこをされたままリナリ−たちが準備を進めてくれていると言うパ−ティ会場に直行という名の突撃をしていく三人の様子を、なんとなくうらやましそうに見送っていたみづかを見やり、神田はちいさくため息を吐いた。
 「行きたいなら行きたいってちゃんと言え」「え? ――――― ううん、だって今回の勝者は神田だし、いまは神田の帰りを待っていたい気分なんだよね」「抜かせ」「照れてる」「ンなんじゃねェ。ってお前やっぱりちゃんと最後までみてンじゃね−か」「だって、わたしが神田から目を離せるわけないじゃない」「後悔すんなよ」「そっちこそ」「お前は、どう思う」「なにいきなり。折角良い雰囲気だったのに」みづかのちいさな笑い声が、空気を震わせた。


「 モヤシとラビ。コレットに気があるかどうかって聞いてンだよ 」
「 な−に?実は神田もコレットのことがすきなの? 」
「 そんなんじゃね−よ。万が一モヤシだった場合、死んでも死にきれね−と思ってな 」
「 ―――――― 娘の嫁入りを嫌がる父親みたい 」
「 うるせえ。そういうお前だって寂しそうな顔してンじゃね−か 」
「 やっぱり神田には分かっちゃうんだね ―――――― わたしが思うに、 」
「 どっちも少なからず気があると思う、だろ 」
「 なんだ、気付いてたんじゃない。それなのに態と聞くなんて、神田ってばやっぱり、 」


 不意に呼吸が苦しくなったと思うと、両眼を開いた瞬間真っ直ぐな眼差しでみづかをみつめている神田の表情が浮かび、みづかは小さな声で「ごめんなさい」と謝罪した。「分かれば良い。じゃあな」「神田」「日付が変わるまでには戻る」「男に二言はないわね」「さあな。まあ、努力してやらないこともない」いまにも消え入りそうなほど小さな声でそう言って、神田は振り返ることなく地下水路への道をまっすぐ歩き始めた。遠くでは、仲間たちの楽しそうな笑い声が城内にこだましている。みづかはひとり、神田の無事とこの平穏が少しでも長く続きますようにと、静かに神田の背中を見送った。


愛しい体温
( だいすきなみづかちゃんへ!お誕生日おめでとうございます! )
お題提供