記憶をたどる同胞(エクソシスト)の名前は、鳳凰焔。神田とおなじ装備型のエクソシストで、東洋人。 そこらへんの男性よりも男らしく紳士で、だけどちゃんと女性だ。コレットもはじめて会った時は混乱したが、会話を重ねていくうちに眩しい笑顔、サラサラと風にゆれる紫色のやわらかい髪、穏やかな物腰と声色。そのすべてが鳳凰焔という人物を彼女は女性であると、否応なく認識させられるようだった。けれどもこのごろ思うのだ。はじめて出会ったときの胸の高鳴り。ひょっとしたら、あれが自分にとってはじめてすきになったひとだったのかもしれない、と。焔がほんとうに男の子だったら良かったのに、とあれから何度考えたか分からない。 「 ふふ 」 「 どうしました?エクソシスト様 」 「 え?ああ、なんでもありません。これから会うひとのことを思い出したら、つい 」 「 ああ ――――――― 鳳凰焔さん、でしたよね。なんでも誤解されやすい方だとか 」 「 そうなんです。でもすごくすごく素敵な方なんですよ 」 「 エクソシスト様は、鳳凰さんと面識がおありなんですね 」 「 教団で何度かみかけたことがあるんです。あと、この間ハロウィンパ−ティ−で 」 「 エクソシスト様、どうかしましたか?顔が真っ赤ですが 」 「 へっ平気です!それより外、ひどい嵐ですね 」 あわてて話題を切り替えるコレットを不思議に思いつつも、探索部隊の男性は頷いて窓辺を見やった。「エクソシスト様には、少々つらいかもしれませんね」「わたしのこと?ああ、飛べないからか。うん、確かに不便だけど戦闘には支障ないし焔さんがいるし」「絶大な信頼を寄せておられるんですね」「そ、そんなふうに感じた?」「ええ。良いですね…そんなふうに、頼り頼られる仲間がいるというのは」「…そうですね。もちろん、あなた方のことも例外じゃないですよっ!もしものときは、気兼ねなく頼ってください。わたしたちも、あなたたちを信じているから、こうして戦えるんですから」「エクソシスト様…」「コレット。コレット・オマ−レって言います。もっとも、わたしに出来ることなんてたかだか知れてますけどね」恥ずかしそうに笑って手を差し伸べる。「生きて還りましょう、ホ−ムへ」「…はい」握り返した手は、確かに温かかった。 パ−ティ−を抜け出して焔を見送った時のことを思い出して、また頬に熱が集中する。あいさつだと分かっていても、不慣れなことに動揺してしまうのは仕方のないことなのだろうか。コレットはひとり、結露の出来た窓ガラスをなぞった。任務先である目的地はもうすぐ目の前だ。そして、そこにはきっと。 「 天使光臨 ――――――― ! 」 「 光の…螺旋…?コレットちゃん!来てくれたんだな! 」 「 はあっはあっ。だ、大丈夫だった?焔さん! 」 「 もちろん!と言いたいところだけど、みてのとおりかな 」 「 すごい傷…待ってて!いま治療する… 」 「 ――――――― あぶない! 」 グイッ。突然抱きしめられたかと思うと、焔の左手首にあったイノセンスが発動した。アクマだらけで、探知能力が麻痺しているいま、己の感覚だけが頼りだ。分かっていた、筈だった。「温かい…」「コレットちゃん?怪我してないか?」「うん、焔さんが庇ってくれたから…それに、焔さんに比べればなんてことないよ」「そっか、良かった」「じっとしててね」「え?」「すぐ、終わるから」コレットに自分の羽根の一枚を手渡されると、その羽根の一枚からまばゆい光が放たれ、みるみるうちに傷を癒していった。瞬きの刹那、焔の目の前で歯を食いしばる少女が、自らのイノセンスの第二段階を解放した。リ−バ−から聞いた技の名前は、天使再降臨。天地を結ぶ光の螺旋でアクマを拘束し、破壊する。だがあまりにも膨大なエネルギ−を酷使するため、治癒能力、結界能力同様精神力と体力、両方を兼ねそろえていなければ出来ない、まさに神業ともいえる攻撃だ。 「 流石に団服(コ−ト)までは直せないんだな 」 「 ―――――― っ…え…? 」 「 たくっ、無茶させやがって 」 「 ご、ごめんなさい…? 」 「 あはは、コレットちゃんに言ったんじゃないから。サンキュ、だいぶ楽になったよ。今度は俺の番 」 「 ま、まだ戦えるよっ 」 「 ふらふらじゃん。まあ、そうさせたのはオレだからなんも言えないけど…とりあえず休んでろ、すぐ片付く 」 「 焔さん…ありがとう。援護するよ 」 「 だ−から、そう言う意味じゃないんだって。 ホントに頑固なんだな−まあ良いや!コレットちゃんが俺の後ろにいてくれるんならね。帰ったらパ−ティ−の続きな! 」 そう言って自身のイノセンスを片手に駆け出す焔の背中を祈るような眼差しで見送る。「うん ―――― 待ってるよ、ずっと。だって焔さんは…あたしの大切、な」たいせつ、な? 言いかけて、言葉を止める。いま自分は、なんて続けようとしたんだろう。仲間 ―――――― ?それとも。不安と激動の最中、コレットはひとり更け明ける夜空を仰いだ。東の空には間もなく、待ちわびていた太陽が顔をのぞかせようとしている。 熱だけが、醒めない |