「ここで良いのよね」修練場の中央に立って、長い黒髪を靡かせている少女は、この教団にいる無愛想な少年を思わせる。だけどもそのやわらかで穏やかな女性特有の物腰が彼とおなじではないのだということを、十分に証明していた。その後ろ姿を見つけた少女、コレット・オマ−レはイノセンスである純白の翼を広げて思いっきり彼女に飛びついた。「みづかちゃ−ん!待った?」「わあっ?」「あれ?」しばらくぼんやりしていた少女はあまりにも突然のことに驚いてしまったのか、コレットに押しつぶされる形で仰向けになっている。一瞬目をぱちくりさせたコレットだったが、状況を把握するとあわてて少女の上から飛び退いた。


「 きゃ−ごめんなさいごめんなさい!あの、怪我とかしてないですか? 」
「 え…ええ、大丈夫。すこし吃驚しただけだから… 」
「 そっか、良かった。はいっ!驚かせてごめんねみづかちゃん 」


手を差し伸べて、えへへとバツの悪そうに笑みを浮かべるコレットを見上げて、みづかと呼ばれた少女はその手を拾って彼女と同じように笑みを浮かべた。コレットとおなじようで、それでいてどこか大人びた綺麗な笑顔だ、と今度はコレットが見入ってしまっていた。「ん?どうしたの?オマ−レさん」「なんでもない、ですっ。みづかちゃんってなんだか…あまり年も変わらないはずなのにすごく綺麗に笑うんだなあって思って!」「そんなことないと思うけど…」「ううん!そんなことないっすっごく綺麗だった!」「そう、かな…どうもありがとう」「えへへ、どういたしまして!あとわたしのことはコレットって呼んで!」「分かったわ、コレット」「うん!そう言えばさっき、みづかちゃんもすごく驚いた顔してたけど…どうしたの?」修練のため、間合いを取りながらコトンと首をかしげてみづかを見つめるコレット。対峙しているみづかはというと、ふふっと笑みを浮かべながら先ほど自分が思っていたことをすこしずつ、話してくれた。


「 コレットの羽根があまりにも綺麗だったから…思わず見とれちゃったの 」
「 そうだったんだ−それじゃあおあいこだねっ 」
「 おあいこ? 」
「 うん!だってわたしもちょっとまえまでみづかちゃんの笑顔に見とれちゃってたんだもん。おあいこだよっ 」
「 なるほど、そういうことだったのね。うん、それは確かにそうかも 」
「 でしょ?でもなんだか不思議! 」
「 どうしたのコレット?突然… 」
「 自分の羽根をそんなふうに褒められたのははじめてだったから、不思議だなって。もちろん嬉しんだけどね 」
「 慣れないことを褒められるとそんなふうに感じるものなのよ 」
「 そうかもしれないね− 」
「 コレットが教団で”天使さま”って言われてる理由がなんとなく分かった気がするわ 」
「 そっかな?わたしはあんまり素直に喜べないって言うか…そんなに歓迎はしてないんだけどね 」
「 そうねぇ…”天使さま”なんて言われたってどこか人間離れしてるみたいで良い気はしないわよね。
  まあ…わたしたちはそれでこそ”聖職者”って言われるくらいだから大差はないのかもしれないけど… 」


「う−っみづかちゃんそんな難しい話はなしだよなしっ!早く修練しようっ神田に怒られちゃうよっ」「ふふっそれもそうね」「おまえら…タメってばっかで鍛錬はどうした鍛錬は」「ぎゃ−神田っ?任務、任務はっ」「あら神田、おかえりなさい」「ただいま…ってそうじゃねぇだろ。おいコレット!俺はたったいま戻ったんだよ!ひとが鍛錬の相手に困るだろうと思ってみづかを派遣してやりゃあ…なんだこの有様は」突然修練場に現れた神田の介入によって、やっと始まろうとしていた鍛錬は止むなく中断されてしまった。


「 いまからしようと思ってたんだよっ。神田こそコムイさんに帰還報告行って来なくて良いの?イノセンスは? 」
「 … 」
「 え−とね、コレット。神田も帰って来たことだし、また今度いっしょに鍛錬しましょ? 」
「 もうすこしみづかちゃんといっしょにいたかったのに…うん分かった。神田が怖いからまた今度ねみづかちゃん! 」
「 ごめんね。この埋め合わせは必ずするから 」
「 みづかちゃんがそんな顔することないよ!それじゃあまたねっ 」


「ふ−ん、神田もあんな顔するんだあ。よっぽどみづかちゃんに会いたかったんだねっ可愛い−」去り際、ちらりと寄り添っているふたりを横目に見て、純白の翼をはためかせた。その舞い上がった数枚の羽根は雪のように、ひらひらとふたりの頭上で優しく舞い踊っていた。「コレットの野郎だな」「お礼のつもりかしらね…綺麗」「お礼っつうかサ−ビスじゃねぇのか」「たぶんどっちもよ。わたしがさっきコレットの羽根が綺麗だって言ったからかもしれないわね」「ふん…しょうもねぇ」「あら、そのわりにはずいぶん嬉しそうじゃない」「うるせぇ」「はいはい決まり文句ね」くすくすと笑みを浮かべ、みづかは神田に肩を抱かれたままその羽根の舞い踊る様子を静かに仰いでいた。その大量の羽根がコレットの部屋に送り返されていた(※もちろん神田の手によって)のは、また別の日のおはなし。



その純白にさよならはいらない
「今度から神田じゃなくてみづかちゃんに修練お願いしよっと」「あぁ?みづかがいないときはどうすんだよ」「ラビもアレンくんもいるもん−」「…」
( みづかちゃんとユノハラさまに、ありったけのありがとうをこめて! ... from unison by Emi.S )