「ふ−何とか任務終わったぁ!」 「あ、お帰りなさい」 「リナリ−ただいま!フィリスいる?」 「ううん、まだ任務中みたい」 「そっか・・ありがとう」 夕刻、任務を終えたばかりの少女はリナリ−とすれ違い、そんなやりとりを交わした。 もうすぐ夕暮れだ。待っていればそのうちフィリスとも会えるかもしれない。 そう思い、は簡単に食事を済ませると談話室に向かった。 することもなくなり、は手に持っていたフル−トを取り出した。 歌ってくれる人はもういないけど、いまでも大切な思い出の曲を奏でている。 「さん?」 「フィリス、お帰りなさい」 「はい。それよりどうかされたんですか?リナリ−からさんが探していたと聞きましたが」 「ううん、何となく話がしたかっただけだよ」 「・・そうですか」 どれくらい演奏していたのだろう。空を見るともうすっかり日は落ちていて、 いつの間にかフィリスが傍にいた。がフルートを片付けようとするとフィリスが隣に腰掛けて、思い立ったように声を上げる。 「それ、さん愛用のフル−トですよね」 「うん。昔はね、妹が演奏に合わせて歌ってたの」 「妹のカシスさんもとても歌が上手だったんですよね」 「フィリスには負けるけど、綺麗な声だったよ」 「私も聞いてみたかったです、カシスさんの歌」 「・・うん」 フルートを握り締めてうつむく。の妹、カシス・は二年前、任務中に失踪した。 一部の上層部の話ではノアの一族が関与していると見ている人物もいる。 信じたくない。カシスが教団を裏切ったなんて。 「ごめんなさい」 「どうしてフィリスが謝るの?」 「思い出すのも辛いはずなのに、思い出させるようなことを言って」 「大丈夫だよ、大丈夫だから・・ね、フィリス」 「、さん・・」 ぽたぽたと涙がほほを伝っていく。 涙で歪む視界の中、はフィリスの瞳に自分と同じそれが見えた気がした。 「フィリス・・私が傍にいるよ。何も出来ないかもしれないけど・・」 「さん・・ありがとうございます・・」 フィリスの消えてしまいそうな声を聞き逃さないように、はしっかりと聞いた。 世界は残酷だ。誰かの時間が止まってしまっても、留まることなく平等に、平穏に流れていく。 たとえばそこに大切な何かを欠いていたとしても。 それでも世界は残酷なほど穏やかに 061030 |