「 ――――― ようやく会えましたね、冬獅郎 」 「 相変わらず上から目線なんだな、は 」 「 あら、ご挨拶ですね。100年ぶりの再会を、もうすこし素直に喜んだらどうなんですか 」 「 ――――― 当たり前だ。意外に早かったな、転生 」 「 おかげさまで 」 やんわりと笑みを浮かべる、巫女の正装に身を包んだ少女 ――――― 名をと言った。いや、ただしくは<現世での>を付け加えるべきか。そう、オレ ――――― 日番谷冬獅郎は遠い前世、この女性と瓜二つの女性と出会ったことがあった。彼女もまた、名前をと言った。古くからこの神社で神主の手伝いをする巫女で、当時でも相当な ――――― それこそ陰陽師に匹敵するほどの力を持ち、闇夜に巣食う怨霊や妖怪の類と日々熾烈な戦いを繰り広げていた。また、彼女自身、清い心の持ち主でもあった ――――― まあ、だからこそに惹かれたのかもしれないが、当時自分の立場もあってついにふたりがいっしょになることはなかった。おそらくそれはこれからも変わらないだろうが ―――――― 。 「 これからまた80年、よろしくお願いします 」 「 ついに百年超えの付き合いになるのか、俺たち 」 「 ふふ。そうだ、百年目になにかお祝いしましょうよ 」 「 ――――― やっぱり、こっちには来てくんねえのか 」 「 ・・・・・・・・ 」 長い沈黙。しかしそれは重圧感のあるものではなく、桜の花びらがゆるゆると地上に向かうような、川のせせらぎのような、木々の触れ合う葉の音のような。そんな、優しい音色と似ている。そこは百年前とぜんぜん変わってないんだなあと、当時を思い出してまた胸の奥がくすぐったくなった。だけれど、確信にも似たいまの問いの答えは、まだ返ってこない。「分かるでしょ。わたしは神に仕える従者 ―――――― 今回の転生だって、決してあなたのためじゃない」「・・・分かってる」「この神社に眠ってる膨大な力を悪用されないように見張るのが、かつてからわたしに課せられた使命 ――――― でも、」「でも?」不意にしゃがみこみ、用水路の水流をすくっているらしいの表情をうかがい知ることは出来ない。だけれど、もうずいぶん長い付き合いになる日番谷にはなんとなく分かっていた。彼女は弱音を吐こうとするときほど、相手にその弱みをみせまいとする。すこしでも弱みをみせてしまったら、そこに付け込もうとする悪しき者がいることを、彼女自身もまた充分承知しているからだと、誰よりも良く理解しているつもりだ。でも、それでも。その穏やかな声音で、告げてほしいと思った。「この転生は、自分のため」だと。そうでなければ、雛森に対する思いも、を待ち続けた百年間も報われないと、すこし子供じみたことすら考えた。自分にとってはそれくらい、に会えない百年間はつらく苦しいものだったのだ。 「 少なくとも、今回の転生は ――――― あなたのためだったと、そう思いたいです 」 「 思いたい、か・・・・・・・・ 」 「 ――――― 断言しないと不安なんですか?相変わらず子供なんですね 」 「 余計なお世話だ 」 クスクスクス。当時はとても耳障りに聞こえた、他人をからかうような笑い声も、いまはひどく懐かしい。そう感じてしまうほどに、時間は流れてしまったんだろうと思うと、すこしばかり切なくなる。「だが、今度は今回のように会えるか分からないんだぞ」「な−に?だからちゃんと言ってくれって?ふふ」「あのなあ」「分かっていますよ。いま、現世でなにが起こっているのか。あなたの世界も、いろいろと大変なようですね ―――― もっとも、あらかじめ計画されていたことのようですが」「なんだ、知っていたのか」「ここに良く来る高校生に聞いたんです。彼、いろいろと特殊ですから」の言う、彼とは ――――――― 間違いなく黒崎一護のことだろうと瞬間に察した日番谷は、深くしていた眉間のしわをより一層深くして、神妙な面持ちになった。すると、そんな日番谷の心境を悟ったらしいが、またふんわりと微笑んだ。 「 あら?やきもち、妬いてくださるんですか?きょうは初対面早々、コロコロと忙しいですね 」 「 誰のせいだ。俺もひまじゃない、きょうは帰る 」 「 きょうはまだ霊圧を感じませんが? 」 「 ―――――― 霊力も健在ときたか 」 「 そうでなければ、このお仕事は続きませんよ冬獅郎 」 「 それもそうだな。これから先、なにが起こるか分からないから ――――― 」 日番谷の瞳が不安そうに揺らいだ刹那、ふわりと生暖かいひとの温もりが、みるみるうちに全身を駆け巡っていくのを感じずにはいられなかった。一瞬なにが起こったか理解に迷ったが、に抱きしめられたのだと脳裏が理解したのは、それから数刻のことだった。「お会いしたかったです」「・・・ああ」「正直、心配でした。他人をすきになってしまったから、記憶が消されてしまうんじゃないかって」「杞憂だったようだな」「・・・・きっと、わたしたちが永遠に結ばれることはないって分かっていたからだとおもいます」「・・・・それもそうだな」「ほんとうは、ずっと考えていました。どうやったらあなたとおなじになれるんだろうって」「・・・」「だけど、思ったんです。わたしがちゃんとお役目を果たして、理を守っているから、こうしてまた冬獅郎と会うことを許されたんじゃないかって」「じゃあ、これは俺からの褒美だ」「褒美っ・・・て・・・?」揺らいでいるの瞳にふわりと口付け、鼻先から唇までゆっくりとなぞるように ――――― 触れるだけの口付けを落としていく。「なに、を ――――― んんっ」一瞬唇を離し、の表情から動揺の色を伺うと、にっと意地の悪い笑みを浮かべ、最後にの呼吸を奪う ―――― 強く。長くも短いこの時間だけが、これまでの百年の埋め合わせのようにも思えた。 「 ――――― っは、はぁっ 」 「 ・・・・・・・・大丈夫か? 」 「 顔がぜん、ぜん、心配、してないです、よっ 」 「 まだまだ百年分には届かないぜ? 」 「 むっ・・・・・・・ 」 「 ―――――― 形勢逆転、だな 」 得意そうに笑みを浮かべ、耳まで顔を真っ赤にしたままのにまた口付けを落とす。繰り返し、繰り返し。この瞬間を、永遠に変えようとするかのように。春に満たない桜の蕾はまだ、開くことを知らない。 サディスティックアドバンテージ |