――― すべてのものに、等しく終わりはやってくるんだよ…、必ずね。


いつだったか、誰かにそんなことを言われたことがあった。いや、ほんとうは誰に言われたかもはっきりと記憶している。薄れていく意識の中 ――― 唐突に思い浮かんだのは、いつしか現世で出会った少女・だった。「なぜ、あの娘のことを ―― 」つぶやいてみても、やはり分からない。ひとつだけ言えるのは、あの娘が目の前にいる女とよく似ていたな・ということくらいだ。サラサラと風になびく金糸の髪が、とてもよく絵になっていた。


「またここにいたのか」
「あなたも、またここに来たの?」
「 ―― うるさい。相変わらず口の減らない女だ」
「お互いさまよ。 そんなに嫌なら来なければ良いのに」


そんなふうに言われると、なぜか言い返せなくなるのが不思議だった。そんなふうに、俺がバツの悪そうな顔をしていると、は決まって「嘘よ、ごめんなさい」と言って、ぽん、と自分の手のひらを俺の頭上に乗せるのだ。いつもなら振り払うところが、その気になれないのもまた、不思議だった。


「ウルキオラ、わたしね…病気なんだって」
「 ――― 病気? おまえが?」
「 ――― なによ、その言い草は」
「いや…、悪そうには見えない…」


俺がそう言えば、その女は「失礼ね」と言ってそっぽを向いた。そのまま、視線を低くして「もうそんなに、長くないらしいの」そんなふうに、話した。だからどうした、と言ってやるつもりだったのだけれども、の瞳があまりにも悲しそうに、だけれどあまりにきれいに笑うから、俺はもう何も言えなくなってしまった。「ねえ、ウルキオラ」俺は一度だって、のことを名前で呼んだことはないのに、彼女は出会ったその日から名前で呼ぶ。いまとなっては、拒絶することも億劫になって言う気にならないけれども、そんなことをsってか知らずしてか、はまたほほ笑んだ。


「すべてのものに、等しく終わりはやってくるんだよ」
「 ――― 知っている。 だれよりも、なによりも」


ため息交じりにそう言ったら、は「おかしなことを言うのね」とからかうように言った。「だが、事実なんだから仕方ない」俺はまたそう言って、ため息を吐いた。そもそも、さっきの言葉はうそじゃあない。そしてまた、終わりからはじまるものもあるのだということを、知っている。


は、怖くないのか」
「えっ? ――― あっ!」
「? どうした」
「はじめてわたしの名前、呼んでくれたわね」


はそういうと、心底嬉しそうに笑みを浮かべた。自ら死期が近いと話しておきながら、きょうは意に反してよく笑う・と俺はついにあきれた。「ふふっ、ごめんなさい。あきれさせるつもりはなかったの」そんな俺に見かねたらしいはそう言って、「ほんとうよ」と付け加えた。さしてその言葉の真意は重要ではないというのに、この女はいったい何を気にしているのだろうか。


「分かってるよ、ウルキオラの言いたいこと。 …ねえ」
「 ――― なんだ」
「わたし、しんだらウルキオラと同じになれるかしら」


何を言い出すのかと思えば。俺は一瞬見開いた眼を閉じて、「同じになんかなっても、良いことはないぞ」と言い捨てた。「構わないわ、あなたと同じなら」思ってもみなかったことを言われ、俺はまた驚いた。瞬間に、早くなっていく鼓動がひどく煩わしい。


「 ――― すきにすれば良い」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「…おかしなやつだ、お前は」
「なんとでも。 …それにわたしはよ」


はじめて会ったときに教えたでしょう、と得意げに言われ、俺はほんの少し苛立ったのを、いまでもなんとなく覚えている。なぜあのとき、分からなかったことがいまになって分かるのか?その答えもたぶん、もう出ていた。俺は自らの体が消滅していくのを目の当たりにしながら、ぽつりとつぶやいた。


「なあ、 ――― 俺は今度こそ…、お前と同じところに行けるだろうか…」


まぼろしならば心地よく