「いままで付き合ってもらって悪かったな」 修練はこれでおしまい、と言うように彼 ―― 日番谷冬師郎はそう言って、刀を鞘に収めた。 彼に習って、少女、◎○もまた自らの刀を鞘に仕舞い、日番谷を見据える。○は彼の言葉に「…いえ、」とだけ言い、不意に顔を上げた。 感じる霊圧が、ひとつこちらに向かって近づいていることに気づいたから、だった。それは日番谷もおんなじだったようだ。 「 ―― 隊長」 「ああ。…なんだ、どうした」 「は、申し上げます。総隊長より、各隊長へ伝令事項を賜りました。 護廷十三隊に現存する隊長、および副隊長はただちに第一戦闘配備につくように、とのことです」 「…いよいよか」 「あの!」 「…なんでしょうか、◎二席」 「その戦闘に、志願することは…」 「無論、認めることは出来ません。これは総隊長の決定です」 伝達員は淡々とそう告げ、一礼すると疾風のごとくその姿を消した。○は、ぎゅ、っと両手を握り締めた。―― 出来ることなら、行きたかった。 彼の…いや、彼らの力となるために、最前線に。けれどもそれは叶わないだろうと、○には分かっていた。日番谷隊長に頼んだとしても、彼は良しとはしないと分かっていたからだ。 押し黙ってしまった○に気づいた日番谷は、バツの悪そうに後頭部へと自らの手をやり「あ-…」と何度も唸り声を上げては止めるという行為を繰り返していた。 やがて言葉が見つかったのだろう、日番谷は顔を上げてゆっくりと○の傍へ歩み寄った。じりじり、とその距離が縮んでいく。 「たいちょう、」 「…なに、泣きそうなカオしてんだ馬鹿野郎」 「わた、し」 「分かってる。○…おまえも行きたいんだろ」 ああ ―― やっぱり、このひとには適わない。何もかもお見通しだというように、確かめるかのように言葉を発せる。渋々頷く○を見つめ、日番谷は肩をすくめた。 その仕草が、これから発せられる言葉を予兆していた。総隊長の決定なのだから仕方ない、と。あきらめるしかない、と言っていた。分かっていた、はずだった。 分かっていて何も言わなかったはずなのに、悔しさがこみ上げてのどを詰まらせては言葉を奪う。言いたいことはたくさんあるのに、声にならない。 「○…泣くなよ。行きづらくなるだろ」 「寂しくて泣いてるんじゃ…ありません。わたし、は」 「わあってるって。悔しいから泣いてんだろ?俺も似たようなことあったから分かるんだ。ほんとうだぜ」 「隊長…すみません…」 「良いよ、謝らなくても。おまえ、頑張ってんだもんな」 優しくぽんぽん、と頭を二回たたかれて、○は余計に涙が溢れ出しそうになった。とどまることを知らない涙は、次から次へと頬を伝っていく。 不意に、とくんとくんという、一定のリズムが聞こえて、○は驚いて顔を上げた。そうしたら隊長の「…カオ、上げんな。恥ずかしいだろ」と言って、 ぐいっと頭を腕の中に押さえ込んだ。―― 暖かい。叶うならずっとずっと、このままでいたい。それは叶わないと知っているから、せめてもう少しだけこのままで。 「ぜったい、戻ってくるから」 「隊長…?」 「どんな姿になっても…ボロボロになっても、帰ってくるから。○のところに」 「ほんとう、ですか?」 「ああ…約束だ。生きて帰ってくる。それで、出来たら全員無傷で連れ帰る」 「…それ、誰かさんの台詞じゃあないですか?」 「…分かっちまったか。黒崎ほど自信過剰じゃあないが、そのつもりで行く」 自信過剰。その言葉に、自然と笑みがこぼれた。確かに、彼の少年 ―― 黒崎一護は、少しばかり自信過剰なところがあったが、それでもその言葉には確かに「チカラ」があった。 いまの日番谷もきっとおんなじなんだろう。誓いを立てるように言っている。自らを ―― 自ら契った約束を守り抜くための誓い。自分はただ待っていることしか出来ないのだと思うと、○はやるせなくなった。気がつけば腕のぬくもりは消えていて、○は少し驚いたように顔を上げた。涙はもう、枯れている。 「隊長…!待ってます!隊長を、この場所で…!わたしも!何があっても、ぜったいに死んだりしません…!」 薄れていく背中にそう叫んで、胸元でぎゅっと両手を握り締める。日番谷は○に背を向けたまま、片手だけを大きく振り上げた。そうして、彼の姿は完全に見えなくなった。 生きる。日番谷にまた会うために ―― 彼が契ってくれた約束を果たすために。だから、 僕はここにいる |