久しぶりに外出許可がおりて、夜の ―― 更けた夜の街を歩いていた。夜も遅いため、当然のようにコンビニしか開いていない。 わたし、はそこで温かい缶コ−ヒ−を買って、川原でひとり、虫の鳴く声を聞いていた。季節はもう、秋に近づいている。

「ふう・・・だいぶ涼しくなったなぁ」

缶コ−ヒ−を開け、一口すする。久しぶりの外出とはいえ、人目につかないように、という厳しい条件付き。 何故だか分からないけど、これはあまりに寂しい。この際犬でも猫でも、なんでも良いから傍にいてくれたら良いのに ―― そんなとき、だった。

「 ―― いるんでしょ?出てきたら?」

ひとの ―― いや、すでにこの世のものではない「何か」の気配を感じて、は橋の影に隠れていたものに声をかけた。 すると「それ」はゆっくりと姿を現した。不思議な格好をした ―― たぶん、男の子。感じるのは、警戒心と、それから、かすかな殺気。

「大丈夫だよ、わたし何も出来ないから」
「・・・分かるのか」
「うん。でも、それだけだよ。
 見たり、聞いたり、感じたり出来るだけ。だから攻撃とか出来ないよ」

こちらの考えを察知していたのだろう、目の前の少女は何処か寂しそうに微笑んで、そう言いきった。確かにものすごい霊圧だが、まだ未発達だ。 それなら彼女の言うことも頷ける。それ以前に、この少女に自分と敵対する意思は皆無のように思える。

「なにをしている」
「なにって、散歩だよ。久しぶりに外出許可出てね」
「おまえ・・・外に出られないのか」
「うん。わたし、病気でさ。そんなに長くないらしくて、あまり外に出ちゃ駄目って言われてるの」
「・・・そうか」
「そういえば、自己紹介まだだったね。わたしは
 知ったとおり、わたしはきみみたいなのが見えるだけの、人間だよ」
、か・・・おれはウルキオラ。破面、だ」
「あらんかる?」
「そういうものだ、という程度に思ってくれて良い」

まだよく分からないのか、ふ−ん?と首を傾げている少女 ―― を見つめる。不思議な少女だ。自分はこんななりをしているというのに、 警戒心だとか敵対心というものが、まったく感じられない。無防備にも程がある。だが、それを逆手にとることも出来る。いますぐどう、ということはしないが。

「夜道を出歩くのは危険だと、教わらなかったのか」
「なに?いきなり説教なの?いましか出られないからこうしてるんじゃない」
「どういうことだ」
「人目につかないように、っていう条件なの」
「なるほどな・・・それでこんな夜更けに出歩いているのか・・・」
「そうだよ。分かってくれた?」

人差し指を突き立てて、悪戯っぽく微笑む。ウルキオラは、そんな彼女の傍に並ぶように立って、夜空を仰いだ。 きょうは天気がよく、先日の雨のおかげで、星がよく見える。月が、時間の経過ごとに傾いていく ―― そろそろ、約束の刻限だ。

「もう行くの?」
「ああ。約束の時間だからな」
「そっか・・・きょうはほんとうにありがとう。きみに会えて良かったよ」
「・・・ウルキオラ」
「あはは、そうだったね。ごめんごめん、ウルキオラ!」
「まったく・・・おまえみたいな面倒な人間ははじめてだ」
!」
「・・・気をつけて帰れよ、
「うん、ありがと!ウルキオラもね」

意外なことを言われて驚いたのか、は一瞬目を見開いた。けれどもやがてとても嬉しそうな笑みを浮かべ、そしてしっかりと頷いた。

「あ!ねぇ、ウルキオラ!」
「 ―― なんだ」

虚圏に帰ろうと、ウルキオラが空間を引き裂いた、そのとき ―― 不意に、が自分を呼び止めた。何処となく、名残惜しそうな表情を浮かべて。

「また、会いに来てくれる?」
「・・・分からない。おれたちも、そんなに自由に動けるというわけではないしな」
「そう、なんだ・・・」
「・・・まぁ、こっちに来たときに、覚えていたら会いに来てやらないこともないが」

それだけ言って、ウルキオラは虚圏へと消えていった。約束だよ ―― そういうつもりだったのに、その言葉も待たずに行ってしまった。 その日から、きみが姿を見せることはなくなった。きっと、きみはこうなるかもしれないっていうことに気づいていたんだね。 だけど、わたしは待ってみるよ ―― あのとき。穏やかな気持ちになれる、その場所を見つけたから。


ウルキオラ せかいでいちばんやさしいうそを