全てが崩れ去っていく。枯渇した地面がぱらぱらと剥がれ落ちていくかのように乾いた涙の欠片が下へ下へと落下して、ああ、もう終わりだと思った。終焉、意味も居場所も何も無い、空虚な存在に逆戻り。もう、終わりだ。そう考えながらゆらゆらと揺蕩う幾多ものの光をぼうっと見つめて、静かに土足で訪れる絶望に、わたしはただただ絶望した。奥から聞えてくる激しい爆発音が時折静かになるとぴくりと小さく動く彼が悲しくて悲しくて、もう数え切れない程の涙が赤い海へと爆ぜては同化していき、そしてその度に光の数は多くなっていった。それが何よりも恐ろしくて、わたしは指先ひとつ動かせずに居る。少しでも動いたら、風のように全てが消えていってしまうのではないかと、ただ単純にそう思ったからだ。ありえないだろうけれども、ありえるかもしれない。もしもそうなったら、と其れを想像して鳥肌が立つくらいに恐ろしくなったわたしは結局ぴくりとも動けなくて、しかしそんな意思に反してどんどん多くなっていく其れが未だ何処か虚ろな世界に居るわたしへと明瞭に現実を知らしめ、そして容赦無く突き落としていく。ああ、もう終わりだ。今度は小さく口に出して、そう言った。
「わか  ってる   よ、    それ くら、い。」
「違う、わかってない。わかってないよ、シンク。」
「いや、   も う    終わ り   だ。」
終わりだ。もう一度言って、それきりシンクは濁った瞳を空に向けたまま喋らなくなった。まるでオルゴールがぴたりと演奏をやめたみたいに、静寂がわたし達二人を包み込む。それでも光は溢れ出すのを止めずに、そして皮肉にも其れが酷く美しく見えた。
シンクはその光と血の海、まるで天国と地獄のように正反対な世界に傷だらけで存在し、そして、ただ空を眺めている。焼き付けているのか、気が付いたのか、じっと、瞬きも忘れて見ているその姿をわたしは同じようにじっと眺めて、そして馬鹿みたいに涙した。すると突然また大きな爆発音が聞えてきて、ちろりとシンクが空から視線を外し、そしてゆっくりと口を開いて言葉を紡ぐ。シンクがよく見えなくなるくらい容赦なく溢れ出す光が邪魔で、何を言っているのかよくわからなかったけれども、その光の合間を縫って微かに聞えてきた声にわたしは思わず全ての機能を停止させてしまうほどに驚愕した。だって、ねえ、どうして、?
「お  わ らし、 の 、ボク    だ。」
「シンク、シンク、お願いだから、もうやめて。」
「そ    なる よ    にした、 も、ボ   ク、だ。」
「シンク!」
「こ    れは、まち  て  た、  ち がった   ん だ、。」
ゆっくりと持ち上がる腕は小刻みに震えていて、そればかりに目がいっていたわたしにシンクの言っている言葉の意味なんて当然、解るはずも無かった。だって、ねえ、何が、違ったの?シンクは、全てを否定するの?どうして、ねえシンクはこれを望んでいたの?違うでしょう?だって、わたしは、これっぽっちも、
「これっぽっちも、望んでなんか、いない、よ、」
爆発音が止み、そして暫くするとそれまでの音が嘘だったかのように美しい、賛美歌のような音色をした歌声が聞えてきた。それを聴きながら静かに目を閉じたシンクが、閉じていた口をまた開いて言葉を紡ぐけれども、それと同じくらいの速さで眩しすぎるくらいの光がわたしの目の前に溢れ出し、持ち上げられていた血濡れの手の温もりを覚えられぬまま、解らないその答えの意味を貰えぬまま、何も言えぬまま、何も、言えぬ、まま、きらきらと輝く幾つもの光が無常にもわたしを取り囲むように、充満した。

「      」

空へと向かう光を、ひとつも残さず掻き集めて抱きしめて、強く、何処にも逃げないようにと抱きしめて、だけど、さようならは何時まで経っても、言えなかった。
「ああ、シンク、シンク、シンク、シンク、」
彼がじっと眺めてたあの空へと、彼が、シンクの全てが、綺麗な歌と相応しくないいよいよ絶望に満ちたわたしの声と共に、

還っていく。